るきさんみたいな人 - 『すべての夜を思いだす』
アカデミー賞、『哀れなるものたち』がいくつかの部門で受賞した。作品賞は逃したが、エマ・ストーンの主演女優賞と、あと美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞獲得はやっぱりそうだよね!と納得。
美術が本当にすばらしかったし、どういう構造になってるの?なファッションも楽しかったし、フォントからセットに至るまで細部まで手を抜かずお金をたっぷりかけて作り込まれた贅沢な映画だった。
劇場に見に行く前は、ミュージカルでもないのにドルビーアトモスでなくてもいいんでないの?と思っていたけれどサウンドも重要だった。
エンドロールまで目からも耳からも堪能。
そんなゴージャスな世界とは対極の邦画、『すべての夜を思いだす』。
多摩ニュータウンを舞台に、何のつながりも関係もない3人の女性たちが、ほんのちょっぴり交差するある一日の物語。
着付けの仕事を失いハローワーク通いの知珠。
団地のガス検針員の早苗。
亡くなった男友だちの命日に、彼が現像に出したままになっている写真の引き換え券を自宅に届ける夏。
物語と言っても、物語らしい出来事は特に起きない。
知珠が団地内の和菓子屋で元同僚(着付けの仕事を干されなかった方)とバッタリ会ったり、行方不明になった団地の老人を早苗が連れ帰そうとしたり、夏が写真屋や郷土資料館に行ったり花火をしたり、の様子をただ淡々とゆるーく長回しで追っていく。
3人の服装やメイク、髪型もとことん普通。
「ドキュメント72時間」(実際は半日もない感じだけど)みたい。いや、ドキュメント72時間はもっと色々ドラマがあるし、やけに個性的な人もたまにいるな。
こちらは映画なので、ちゃんと作り込まれた作品ではある。やっぱり「ドキュメント72時間」じゃない。ちょっとしたセリフや映像などに監督のこだわりを感じたし。
多摩ニュータウンといえば『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台。学生時代に一度だけ友人宅に行ったことがあるが、もう40年くらい前だ。
その頃は丘陵地切り崩してニュータウン造成しました!という感じだったけれど、映画では緑したたる落ち着いた場所で、また狸たち帰ってきて人間と共生していてもおかしくない。
とてもきれいに愛情をこめて撮られていた。
人の営みとその記憶みたいなものが静かに綴られていたが、仕事が終わった早苗が小さな古道具屋でマグカップを選ぶところがよかったな。
最後にそれを持って夜道を見下ろしている姿にはせつなさを感じた。
三者三様で女性たち、私は皆いいなと思ったが、知珠がなんだかるきさんに見えてしかたがなかった。
居間のテレビで囲碁の番組流れてる感じとか、バッグにお茶のポット(フタがカップになってるやつ)入れて持ち歩いてるとか、ひょろっとした体型とか。
木登りして子どもたちに愛想尽かされたのはお気の毒だったけれど、遠くから夏のダンスをコピーしてたのはお見事でした!
そういうところもるきさんっぽかった。
るきさんは高野文子の設定では私と同い年。
知珠は今のるきさんよりずっと若いのだけれど。