藤﨑

東京の会社員です。もっぱら食べることに執心しています。

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最近の記事

嗚呼、愛しの江戸前天ぷら

「そういえば、この一年で一番おいしかった食事ってなんだった?」  久しぶりの両親との食事の席で、父の口を突いた不意の問いかけだった。スーパーでお土産に買ってきたちょっと良いお刺身が思った以上に新鮮で、おいしいねぇおいしいねぇと言いながら家族みんなで辛口の日本酒なんかをぐびぐび飲んで、またお刺身をつついて、頭の芯までアルコールの火照りが回り始めた頃。そういえば、と、なんにも「そういえば」じゃない父の問いかけ。  一番おいしかった食事。  一番?一番ってなんだろう。  おいしいも

    • 宇宙フェスに乾杯

       見慣れた冷蔵ケースの中に、見慣れぬ缶が鎮座していた。マットな黒地に巻きつけられた、こちらはぴかぴかと光沢のある青銀のラベル。白地で抜かれた英単語を視線でなぞる。シリウス。  夜空で一等、明るい星の名前だった。  新しく入荷されたビールなんだろうか。値札につるりと視線を移す。手書きの「宇宙ビール」の文字に、ちょっと強烈な引力を感じる。  宇宙ビール。  ……宇宙ビール?  重力を振り切って発射するロケット、成層圏を突き抜けて、シリウスの星にぐんと呼ばれるそんな引力。20年前の

      • 男木島、じゃくじゃくのかき氷

         朝ごはんを食べながら眺めたテレビの画面には、熱中症警戒アラートが出ていた。港でフェリーの片道切符を買うとき、窓口のおばちゃんが「暑いから気をつけてねぇ」と声をかけてくれた。調子に乗って砂浜を裸足で歩いたら、足の裏を若干火傷した。  要するに、本当に暑い日だった。  サングラスと帽子の上から、それでも太陽の光は燦々、容赦なく降り注いでくる。じりじりと体の芯が熱を持って、汗はじわぁっと着ているもの全てを容赦なく湿らせて、そんな中でほとんど息切れをしながら、やたらと急な坂を登って

        • 高島平の絶品お寿司、そして僕の思う昭和

           高島平、という場所に住んでいる。いちおう東京23区内。山手線の丸から見て結構、かなり、北西。板橋区の奥の方。川を渡ったらもう埼玉で、60歳以上の方には「あの団地の」といわれる。  高度経済成長期に当時の技術の粋を集めてつくられた団地群がべんべんとドミノ板よろしく聳え立つこの街は、当時入居されたご家族がそのまま団地と一緒に年を重ねた結果だと思うんだけれど、どことなくくたびれていて、その分のんびりしている。八百屋の店先でおばあちゃん同士の「あらこれ安いわね」「半分こしましょうか

          おいしいとこだけ/食べ物にまつわる文章が書きたい

           高校生の頃だったと思う。現代文の教科書に、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の抜粋が載っていた。細かいところまでよくよく記憶しているわけではないのだけれど、笑った時に見える歯は真っ白でピカピカなのより黄ばんでちょっとガタついてるぐらいの方が良い、だとか(違ったかな……)、なんとなく子供がムキになってテレビや雑誌で見る、または普段僕らが当たり前だと思っている美意識の逆張りをやっているような感じがして、なのにそれを綴った文章がやたらめったらうつくしいせいなのかそこには妙な説得力があって、

          おいしいとこだけ/食べ物にまつわる文章が書きたい