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学ぶとは生きるということ

高校に入学して間もなく、オリエンテーション合宿があった。
3日間の合宿を通して学校について知り、有意義な学校生活を送るための心構えをつくるというものだ。
まだろくに話したこともない級友と寝泊まりするというのは最初はドキドキするけれど、これを期にクラスみんなが仲良くなることができて概ね好評だった。

合宿の最終日、「学ぶとは何か」についてグループで考えプレゼンテーションするという課題が出された。
ぼくが出した結論は、「学ぶとは生きること」だった。

たくさん勉強して、いい大学に入って、まともな仕事に就いて、将来安泰に暮らす。
それも悪くないけど、お金があっても社会的な地位が高くても、何か満たされないものがある。
将来のために準備することも大事だけれど、「幸せとは何か」、「よく生きるとはどういうことか」といった人生の課題を先送りすることになりかねない。
今を生きることに向き合わなければ、いくら待っても幸せな未来はやって来ないのだ。

学びとは所謂勉強ばかりでなくて、何か気づきを得たり、能力を身につけたりと、平たく言えば成長するということである。
より良い自分になったり、人生を豊かにしたりするのが本当の学びで、いくら知識を吸収したり資格を取ったりしても、それで得られるものが何もないならば、その学びは空虚なものになってしまう。
逆に、明確な学習効果が意図されたものでなくても、あるいは当人に学ぼうという意識がなくても、結果的に当人がそこから何かを感じ取ったのなら、それは学びになり得る。

また、当初は何の意味があるのか分からなかったものでも後になって実は役に立つと分かることもあるし、今までに見聞きしたことや経験したことが知らず知らずの内に物事を考えたり判断したりするための材料になっていることもある。

だから、人生のあらゆることは学びになり得るし、何が学びで何が学びでないかを判別するのは難しい。
また、これまでに学んだことは、これからの生活を充実させたり、生き方を選択するために活かすことができる。
そうして、日々の学びの中で紡いでいく人生は、また新しい学びへと繋がっていく。
このように、学ぶことと生きることは相互的・循環的に結びついている。
よく学び、よく生きるために重要なのは、人生の一つ一つのことに真摯に取り組み、その中で思ったり感じたりしたことを大切にすることだ。

高校生でこの結論に至ってから、自分の人生をより良くするために、幸せになるために学ぶのだと考えてきた。
でも、そればかりではないのかも知れないと最近は思う。

知らない方がいいこと、気づかない方が生きやすいこともある。
例えば、今の自分の豊かな生活が、遠く知らない地で誰かが貧しく暮らしていることに支えられていると知ったら、あまりいい気分はしないだろう。

あるいは、田舎で生まれ育って何もなくても幸せに暮らしていた人が、外の世界の豊かさを知ってしまったら、恵まれた人を羨まないでいられるだろうか。
知ってしまうことと、知らないままでいること、どちらが幸せであるかは難しい。
知ってしまったら、もう知る前の自分には戻れない。
より多くの知識を持っていればいるほど、複雑な問題を考える知性があればあるほど、考えたら苦しくなることを考えずにはいられなくなってしまう。

でも、何も知らないでいたら、自分がぬくぬくと生きて、それで満足して終わってしまう。

どこかで泣いている人がいることを知っていたら、その悲劇がどうして起こってしまうのかを理解していたら、自分が行動することで誰かを救えるかも知れない。
知りすぎたり、考えすぎたりすることは時には自分の幸せのためにはならないかも知れないけど、もっとより多くの人が幸せになれる社会を思い描けるかも知れない。

小学校の校長先生が「人に優しくなるために勉強するんですよ」と言っていたのを思い出す。思いやりがあっても、何をしたらその人のためになるのか分からなければ、助けることはできない。寧ろ迷惑になってしまうかも知れない。
世の中には様々な文化や価値観があることを知れば、自分とは違う人のことも受け容れたり、相手に合わせた配慮をしたりできるだろう。

知らなければ問題を認識することもできない。
知識を身につければ、世界が変わって見える。
でも、ただ知っているだけで経験しないのなら、実感が伴わず生きた知識にはならない。
知識は経験を変革し、経験は知識に内実をもたらす。
どちらが先とかどちらが重要という話ではなく、両輪あるのが大事なんだと思う。

そう思ってぼくは、このまま大学に通うよりも、大学を辞めて旅に出る方がより多くの学びがあるかも知れないと考えた。
自分がまだ知らない世界をこの目で実際に見てみる。
今まで自分が学んできたことが全く役に立たないところに出てみると、自分はこんなにも何にもできないのかとショックを受けたりする。
信じてきたことが間違いだったかも知れないと、自分が築いてきた世界が崩れ去ってしまうように感じることもあるだろう。
しかし、そうした衝撃的な出会いこそが自分を大きく成長させる契機であり、また人生の面白みでもある。

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