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【人事向け】従業員体験(Employee Experience)2.0の世界がやってくる

はじめに

こんにちは、ランサーズの曽根(@hsonetty)です。

前回は「スマートワークway 20選」というテーマで、個人の視点に立ったときのこれからの働き方について書かせてもらいましたが、今回は人事や経営者の視点に立った話になります。

先日、とあるウェビナーで「アフターコロナのスマート経営」というテーマで登壇させていただきました。働き方の変化について色々と話したのですが、最近少し思っているのは、「10年後の未来が今、目の前にやってきている」ということ。

先日、ランサーズの社内でもアンケートをとったのですが、アフターコロナで「生産性が上がった」「この働き方を続けたい」というメンバーが想像以上に圧倒的多数で、良い意味で衝撃を受けました。

もしかすると、僕らは今、目の前で起こっていることの本質的な変化をとらえきれていないのかもしれない。これから起こることは、従業員体験(Employee Experience)の本質的な変化なのではないか。

さてさて、前置きが長くなりましたが、そんなことを考えつつ、書いていきたいと思います。


インターネット、スマホに続く大変化

先週の安倍首相の記者会見の中で、「新たな日常」という言葉が使われていました。英語で少し格好つけて言うと、「ニュー・ノーマル」。新たな日常、新たな常識。

外部でお話させていただくときに、「時代の変化」をテーマに説明するときによく使うのが、20世紀初頭のニューヨークの街並みの変化を示す↓の絵です。馬車から自動車へ、Tフォードの出現によって、街の風景や人々の行動様式も大きく変わりました。変化は、ときに想像以上に早く、そして大きな規模で起こります。

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21世紀に入ってぼくたちの生活を変えたものといえば、2000年代からの爆発的なインターネットの普及、そして2010年代からのスマホの普及が大きいと思います。これらは、ぼくら一人ひとりの生活、日常の行動や体験や価値観さえも大きく根本から変えていったといっても過言ではない。

そして、これから2020年代に起きること。私見ですが、消費行動を中心とした生活の領域の変化に続いて、2020年代は、生産行動を中心とした日常の仕事領域において、これまでインターネットやスマホが引き起こしたものに匹敵する変化が起こっていくと考えています。

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上のグラフを見てもらうと、日本において、インターネットの普及率が10%から70%になるのにかかったのが約8年。スマホの普及率が10%から70%になるのにかかったのが5年。

今回、コロナショックの影響を受けて、テレワークの普及率が昨年末で13%程度だったところが、直近で約7割まで広がった。それもたった3ヶ月で。そしてより重要なのは、このテレワークを、オフィスワークとハイブリッドさせる形で今後も継続したいと考えている人が9割近いということです。

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世界的に見ても、たとえばビデオ会議ツールであるzoomの利用者、デイリーでのアクティブユーザー(DAU)は、2019年12月時点で1,000万人だったのが、たった3カ月後の2020年3月に2億人にまで広がりました。ちなみに、FacebookのDAUが同じだけ成長するのに4年近くかかっています。

GAFAのようなIT巨人たちによってユーザーの生活行動や生活体験には大きな変化がもたらされてきましたが、いわゆるオフィスワーカーにとっての仕事体験には、これから大きな変化の余地があるともいえます。

「1年あれば事業が変わる、3年あれば企業が変わる、10年あれば産業が変わる」とも言われますが、今ぼくらが置かれている状況をあらためて考えてみると、強制的に目の前に「ニュー・ノーマル」がやってきた、10年先の未来がタイムスリップして目の前にやってきた、というような状況なのではないでしょうか。


HRtechの直近のキーワードは「従業員体験」

これからの働き方や仕事の変化を考えるうえで、組織や人事の観点から、働き方をとりまくテクノロジーの変化、HRtech(HR technology)の潮流をさらっておくことは意味があるかもしれません。ということで、直近のHRtechをとりまくトレンドを自分なりに整理してみます。

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▼HRtech 1.0:2000年ころからの「人事&組織情報マネジメント」の動き。人事の生産性や効率を向上させることが目的(Efficiency)。HRIS(人事管理システム)やATS(採用管理システム)といった領域のサービス
▼HRtech 2.0:2010年ころからの「タレント&ピープルマネジメント」の動き。従業員の能力を向上させることが目的(Empowerment)。TMS(従業員管理システム)やピープルアナリティクスといった領域のサービス
▼HRtech 3.0:直近の「チーム&ワークマネジメント」の動き。社外も含めたチームでのエンゲージメント(Engagement)や体験・パフォーマンスを向上させることが目的。FMS(フリーランス管理システム)やエンゲージメントシステムといった領域のサービス

人事の担当者でないとなかなかピンとこないかもしれませんが、毎年ラスベガスで開催されるHR関連の世界的なイベントであるHRtechカンファレンスにおいても、「Engagement」に続くものとして「Employee Experience」というキーワードがあげられるようになってきています。人事が従業員をどう管理するのか、ではなく、従業員に何を体験してもらい、そしてチームとしてパフォーマンスを最大化させるのか、に主題が移ってきています。

プロダクト開発者やマーケ責任者が顧客体験=CX(Customer Experience)を追求するのと同様、組織開発者である人事の責任者が、従業員体験=EX(Employee Experience)を考える。これからの人事責任者は、組織というプロダクトのマネージャーである必要が出てきます。

たとえばAirbnbは人事総務機能のチームを「Employee Experienceチーム」と呼び、国内でもfreeeなどは人事のチームを「メンバーサクセスチーム」と呼んでいたりますね。採用や育成、評価といった枠組みを超えて、従業員のジャーニーや体験全体をどう設計・プロデュースしていくか。

個人的な所管としては、顧客へのサービス・価値提供を進化させるためのMartech(Marketing Technology)の潮流を、HRtechは5-10年遅れくらいで追いかけてきている印象を持っています。

インターネットの普及でユーザーに対してパーソナライズが進み、マスではなく1to1のマーケティングが必須になっていった2000年代、スマホによるモバイルインターネットの普及で、オンラインだけでなくオフラインも含めた顧客体験やジャーニーの設計が必要になっていった2010年代。

今後、ユーザーの消費行動や価値観の変化とシンクロする形でマーケティングのアプローチが大きく変化したように、ワーカーの生産活動や価値観の変化にあわせて組織開発のアプローチも大きく変化していくのではないかと考えています。


従業員体験2.0ではさまざまなものが融合する

では、アフターコロナの従業員体験はどうなっていくのか?結論からいうと、さまざまなものが融合していくのではないか、と考えています。

オフィスとリモート、ワークとライフ、社内と社外、などなど。たとえば、働き方改革文脈の中で「ワークライフミックス」のような言葉が使われ始めていましたが、正直ピンとこなかったという人もいたはず。これを今現在、圧倒的なリアリティをもって感じている人も多いのではないでしょうか。

オフィスでやっていたのと同様の仕事を在宅・リモートで行う。仕事をしている最中のすきま時間に育児や家事もする。社内人材と同様に社外人材とも一緒に仕事をする。そういった、今までははっきりとわかれていたものが体験としてどんどんシームレスになっていきます。

これは、コマースにおける消費体験を例にとって考えてみるとヒントがあるかもしれません。インターネットが出てきてEC(E-commerce)が広がってきましたが、直近ではECがより進化して、「アフターデジタル」の世界でOMO(Online Merges Offline)の潮流が広がっていくといわれています。つまり、オフラインとオンラインの境目がどんどんなくなっていく。

これまでリアルでの対面販売が前提だった店舗がダイレクトオンラインのショップを構える一方で、ECのプレーヤーがリアルの店舗を出してくる。消費者も、店舗で商品をショールーミングした後でオンライン上で比較・購買する、スマホでオーダーしてリアル店舗で予約時間にピックする、などなど。

消費におけるユーザー体験に起こったような大きな変化が、仕事におけるワーカー体験にも起こっていくのではないか。これを従業員体験2.0と呼ぶことにします。

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たとえば、従業員のエンゲージメントを高めるための全社集会ひとつとってみても、体験は大きく変わったのではないでしょうか。これまでは社長や事業責任者から対面で一方向でプレゼンするのがメインだったかもしれないけれど、オンライン前提に移行したことにあわせて新しい体験の設計が必要。

ランサーズでも、リアルタイムでインタラクティブな会にするために、発表者と運営がリアルで集まり、プレゼンはすべてYoutuber的な掛け合いや座談会形式にしたり、月次のMVPの表彰を、いかにも対面で直接行っているような画面上のUI/UXにしてみたり。リアルの良い部分を再現しつつ、オンラインだからこそできる新しい体験を模索しています。

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「従業員体験2.0」の詳細な中身はまた別の場で考察してみたいと思いますが、考えれば考えるほど、アフターコロナの世界で、組織開発の責任者の役割は大きくなっていくと思います。人事や組織に携わる方々は、本記事で参照したようなユーザーの消費行動の変化なども参照しつつ、従業員へのサービス・提供体験を設計しなおしてみるのが良いのではないでしょうか。


おわりに

今回のまとめです。

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今、目の前に見えている変化は、もしかすると表層的な変化でしかなくて、より深いレベルでの本質的な変化にまだ僕らは気づいていないのかもしれない。最近、つとにそんな風に思っています。

スマホの普及前後での山手線の車内の風景は全く違うものでしょうし、Youtuberが小学生の将来なりたい職業人気ランキング1位になるなんてひと昔前は想像もできませんでした。今後、もしかするとZoomerという言葉が出てきたり、プライベートを含めたキャリア&ライフコーチングが当たり前になったり、いろいろなことが起こっていくでしょう。

さらに先の未来では、Microsoftの「Productivity Future Vision」ではないですが、5GやVR(仮想現実)/AR(拡張現実)、AIなどの技術のさらなる応用や商用化が進んでいったときに、さらに従業員体験は3.0の世界へと進化していくのかもしれません。

次回は、従業員体験が変わっていく世界において、人事や経営に携わる方々がいかにマインドをシフトさせていくべきかについて、「スマート経営」というキーワードを軸に書いていきたいと思います。


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