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『団地』

『団地』 2016年
脚本・監督:阪本順治
製作:武部由実子、菅野和佳奈
撮影:大塚亮
編集:普嶋信一
音楽:安川午郎
キャスト:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司
上映時間:103min

あらすじ
漢方薬屋を引退してある団地に引っ越してきた夫婦。新たな近所づきあいに気を使いながらも、なんとか普通の生活をしていたが、自治会長選挙をきっかけに、夫が突然「俺はもういないことにしてくれ」といって家に引きこもるようになる。そのうちに団地内で、「あの旦那さんは奥さんに殺されたんじゃないか?」という噂が広まり、噂からなぜか話は壮大なスケールに広がっていく。

サクッと感想
阪本順治というと、そこまでSFをやるというイメージはないと思う。
ちょうど去年の東京フィルメックスで阪本順治特集が組まれたが、そこで流れていた作品も『鉄拳』や『ビリケン』、『KT』『この世の外へ クラブ進駐軍』など、本作ほどのSF要素が含まれているものは無かった。
観客としては、原作物でもなく阪本順治監督自身の脚本によって、このような世界観に到達するとはとても想像できなかっただろう。
しかも、始まりから70分くらいまでは時々笑えるシュールな団地を扱いながら、社会の縮図を見せられているような感覚を味わうから、最後の方で映画のやろうとしていることが観客の想像外の領域へ踏み出し始めると急に頭がこんがらがってくる。
役者も、藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司など、そうそうたるベテラン俳優が脇を固め、団地に本当にいそうな人々が画面内を右往左往する。
そのリアルさが、ますます後にやって来るSFの唐突さを極大化し映画を単に良くできた映画にするのではなく、驚きを以て観客を別の世界に連れていく力を映画に持たせることに成功している。

おそらく映画を観た方にとっては、あのラストシーンの解釈に迷ってしまうことだろう。
小生も最初はそもそもの映画の急な方向転換もあって、頭を抱えて悩んだが、あまり深く考えるよりかは素直に捉えればよいのかなと思う。
斎藤工演じる青年が何者なのかとか、SF要素に関しては一切説明は入らないし、そのあたりを分析したとしても画面に映っている以上のことは結局我々観客の想像に過ぎなくなるから、監督としてはこの情報量だと、想像にお任せしますという合図でもあるだろう。
夫婦が周り(社会)の圧力に負けず、正々堂々と生き、過去のトラウマにも屈しず、生きた結果、彼らに良いことが舞い降りた。
ただそれだけで良いのではないか、と思ってしまう。
解釈、解読していくことも無理ではないだろうが、何かこの映画の温かさはそういう素直な感情に任せてしまったほうが温かみを失うことなく心に留まってくれるような気がする。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!