#1 【はじめてのLive2D後記】 原画制作上の反省点
ただの雑記だった前記事に対し、この記事は「普段は絵しか描かない人間の視点から、初めて触るLive2D上での原画の扱いで戸惑ったこと、およびモデリングを終えての原画制作上の反省点」をまとめたものです。今回制作したモデルの概要に関しては前記事をご覧ください。
ここで言う「原画」とは、Live2D Cubism Editorを用いてLive2Dモデルを作成する(モデリングする)にあたって必要となるパーツ分けされたキャラクターイラストを指します。また、原画自体の描き方に関しては既に有用な情報が多くあるため特に言及しません。
本記事で以下に挙げるのはほぼ単なる失敗談であり、Live2Dでのキャラクターモデリングに興味のあるデジ絵師が、とりあえず自分で原画を描いてみるにあたって後で困らないために有用かもしれないと思って公開するものです。
描くだけ描いてモデリングは誰かに任せるなら知らん顔もできますが、自分でやるなら可能な限り楽をしたいのは私だけではないはずですし、何より反省点のほとんどが予めLive2Dを知っておかなかったことに起因していたためです。
はじめに : Live2Dにおける原画の表示上の仕様 ・ イラスト制作ソフトとの違い
◆ レイヤーモードの仕様
Live2Dが対応しているレイヤーモードは「通常」「乗算」「加算」の3種です。これは原画psdで設定されていればそのまま引き継がれます。
◆ クリッピングマスクの仕様
原画制作時にpsdで設定したクリッピングマスクは、レイヤーモードとは異なりLive2Dに読み込んだ時点で解除されるため、psdをLive2Dに読み込んだらまずクリッピングをし直すか新たに設定する必要があります。
【1:クリップ元の複数指定】
一般的にイラストソフトでクリップ元(マスクする側)として使用できるレイヤーは、クリップ先(マスクされる側)の直下にある1枚のみです。
しかしLive2Dでは、レイヤー同士の位置関係に関係なく、クリッピングされる側がマスクレイヤーを複数指定できます。
よって、例えば「複数の物体が同じ物体から受ける影」などに関して、影を受ける物体の数だけ影レイヤーを用意するような必要はありません。
【2:マスクを反転】
通常のクリッピングマスクは「クリップ元と重なる部分のみ表示する」ものですが、Live2Dには「クリップ元と重なる部分だけ表示しない」反転機能があります。
【3:クリップ元レイヤの不透明度の影響】
イラスト制作ソフトのクリッピングマスクでは、クリップされたレイヤはクリップ元レイヤの不透明度の影響を受けます。
しかしLive2Dのクリッピングマスクは、クリップ元レイヤの不透明度を0に設定してもクリップされたレイヤには影響せず、クリップ元レイヤが元々持つ不透明度に応じたマスク効果だけが残ります。
◆ レイヤー描画順の仕様
通常どのソフトでも、レイヤーは上から順に表示されるものです。
しかしLive2Dでは、全てのレイヤーの初期値を「500」として
同じ値であるならばレイヤー順通りの表示
この値が大きいほど上(手前)、小さいほど下(奥)に表示
と、レイヤーの表示順=描画順を個別に設定することができます。さらにこれらの数値はパラメータに登録することでモーション作成時に変更でき、またグループ(フォルダ)単位で描画順を設定できる「描画順グループ」機能もあります。
このように表示順はLive2Dに読み込んだ後でどうとでもできるため、原画のレイヤー構成は単純にわかりやすいことの方が重要です。
反省点1 : 線画はしっかり、かつなめらかに
今回の原画イラストの制作にあたり、私は「粗い質感のブラシを使った方が画質荒れの際もごまかしが効くかもしれない。何よりツルッとしたきれいな線画を描くのは大変だし苦手だ」と考え、線画に不透明度の低い鉛筆風のペンを用いました。
しかしその結果、可動時にパーツ同士の重なり・繋がりが可視化されてしまいました。
これを避けるには、少なくともある程度大きな変形を想定する箇所の線画に関しては色彩・質感ともに均一に仕上げるのが無難と言えるでしょう。
反省点2 : 干渉しそうな関節は単純に切り分けろ
今回初めてのモデルの肩関節の可動に関して、当初は
特に上まで腕を上げさせるようなつもりはなかった(キャラクター自体を練っていなかった)
技術的には3Dにおけるボーン的なもの(=Live2Dにおけるグルー&回転デフォーマに近い動作)をイメージしていた
ため、上腕パーツには肩関節だけでなく脇に繋がるラインも残していました。しかし実際には
動いているのを見たら楽しくなってしまい、結局肩上までの可動を実装した
上腕(肩)の可動に用いた「回転デフォーマ」は単純な移動・拡縮・回転を得意とする機能であり、その動きに変形を連動させるには「グルー」など別機能を併用する必要がある
となり、この時まだ一度読み込んだ原画をどうこうしたりグルーを利用する方法を調べたい気分ではなかった私は、「肩を上げると余計なパーツ(脇下)が見えるのでその際は無理矢理変形で隠す」という非常に情けない解決を行いました。
解決法としてはおそらく「原画の脇部分を削って差し替え」が最も美しく手軽でしたが、最初からそのように原画を描いていたならそもそも発生しない手間でした。
よって、「関節をある程度単純に動かすなら、原画の切り分けは球体関節式がほぼ最適解」と言えると思います。
反省点3 : その影はたぶん分けた方がいいやつ
前段でも挙げた上腕パーツですが、当初の「肩をあまり上げさせる気はない」という意識に乗じて「レイヤー枚数増やすの面倒だし、ちょっとしか動かさないなら直接塗ってもいいでしょ」という怠け心が如実に現れており、肩が大きく上がることによって塗り込んでいた影がめちゃくちゃ主張してくる仕様になってしまいました。
Live2Dにおける原画の表示上の仕様で挙げたように、Live2Dはクリッピング機能が充実しています。そのため、大きく動作するパーツにかかる影・大きな動作の影響下にある影は、あらかじめ別パーツとしておく方が汎用性が上がり見栄えも良くなると思います。
反省点4 : 手には計画性を持って臨め
前提 : パラメータとは
今更ながら、Live2Dモデリングの基本は「動かしたい要素に“パラメータ”を設定すること」です。瞼の開閉や顔の左右など、あらゆる動作を個別のパラメータで設定・管理しています。そうして出来上がった各種パラメータを複数組み合わせることによって、例えば「喋りながら右を向き瞬きをする」などの複雑な動作を実現しているのです。
また、パラメータ上で異なるパーツが入れ違いに表示されるように不透明度を設定することで、なめらかな変形だけでなくパーツの切り替えも行うことができます。
そして、Live2Dには元々「標準パラメータ」というものがあり、基本的には予めセットされているこれらを説明通り埋めていくだけで概ね動くモデルが作れるようになっています。
そんな標準パラメータの、手に関する説明は右記の通り。「+で左手(右手)の変形」……変形……どう変形するんじゃ? その「変形」の中身が知りたいのだが? 他の項目に比べて説明が漠然としてないか??
これに関してはおそらく、「よく動く手を作るのはとても大変だから、公式の配布データなどを参考にいろいろ調べて考えて、作りたいものと実現可能な範囲を自分で判断してね!」と解釈するのが正しいと思います。
反省 : 何も考えないとどうなるか
怠け心からとにかく作画枚数を増やしたくなかった私は、「とりあえず1パラメータでも、デフォルメキャラならなんとか誤魔化しが利いてなんかこう……上手い感じにやれるのではないか?」という浅知恵と計画性のなさにより、今回はパーツ切り替えなしでの実装をしようと考えました。
使ったのは手首〜手のひらと指5本の計6パーツ。このうち中指〜小指は、「うまく動くかもわからんものをまともに描くのもなぁ」と、原画時に人差し指をコピー&ペーストして絵作りしたものです。
そしてできたのがこちら。
これを作り終えた私の感想は、
「指を変形でコントロールするのは、デフォルメキャラですらかなり面倒。仮に変形で処理するとして、手首の回旋と拳の開閉だけでもどうパラメータに振り分ければいいのか、機能の把握もままならない初心者には考えるべきことが多すぎる。結果として半端にしか動かないが、これ以上いじくりまわすのも追加で作画するのも嫌なのでもうこれで完成ということにする」
「これを頑張るくらいなら、キャラの設定に合わせてさせたいポーズやそれに必要な手や腕の形をあらかじめ考えておき、必要な差分を描いて切り替える方が結果的には確実に省力だし自由度も高く見栄えもいいと思う」
です。
反省点5 : 「いらないところ」は削りたい
前提 : テクスチャアトラスとは
Live2Dでのモデリング時には、最初にパーツ分けしたpsdを原画(モデル画像)として読み込みます。しかし、そうして出来上がったLive2Dモデルを最終的に外部で扱うためには、モデルファイル(.cmo3)を「テクスチャアトラス」を含む組み込み用データ(.moc3)として書き出す必要があります。
テクスチャアトラス自体は作業中にいつでもほぼボタンひとつで生成できる画像ですが、モデル作成に使用した全てのパーツを敷き詰めたこの画像こそが、外部環境でLive2Dモデルを扱う際の「原画」となります。
「原画」であるからには当然、このテクスチャアトラス自体や、アトラス上での解像度が高い(大きい)ほど、そのモデルやパーツは精細に表示されることになります。
つまり、モデルに使用したパーツの中に「どう動いても隠れて見えないままの部分」があると、「実質的に不要なものがテクスチャアトラス上で他の必要パーツの解像度を圧迫する」のです。
反省 : 目に余るほどの無駄
翻って私は、全くめくれないスカートの下のパーツをどういうわけか思いっきりデカく作っていたため、ここで多大な無駄が発生していました。
見えない部分が不必要に大きいパーツはテクスチャ面積の無駄になるだけでなく、自動生成したアートメッシュの頂点数の無駄=不要な計算負荷の増加にも繋がりかねません。
流石にこれはひどいので、psd側で不要部分を消して差し替える作業を行いました。
要するに、問題になり得るのは「モデルに使用し、かつ絶対に見えない面積が広すぎるパーツ」だけです。
今回は「ただ作ってみたいだけなんだから別に無駄があってもいいだろ」という気持ちも大いにありましたし、テクスチャアトラス自体は複数枚に分けることもできます(これによって、モデル完成後にも衣装替え実装などの大規模な拡張ができる)。
しかし実際なんの意味もないパーツがデカデカと居座っているのを見ると単純に気分が良くなかったので私は対応しました。
反省点6 : コピペを活用しよう
前提 : Live2Dにおけるコピペ
前段で説明したテクスチャアトラスですが、Live2Dにおいてコピー&ペーストで増やしたパーツは、テクスチャアトラス上では同一のパーツとして扱われるようです。
つまり左右対称デザインのキャラクターであるなら、一方の手や足のパラメータを設定してからコピー&左右反転することでパラメータ付けの手間を大幅に削減できるだけでなく、テクスチャアトラス上での占有面積もパーツあたり半分に節約できるのです。
ただ、絵を描く人の中には「反転コピーで済むなら手足の作画工数が浮くね!」という方ばかりでなく、「絵のコピペ」自体に抵抗感があったり「いやいや、確かに服のデザイン自体や動きの大枠は左右対称だけど、皺の入り方やそれによるシルエットや細かなディテールが違うから完全な左右対称にはしたくないよ」という方もいることと思います。
そのような場合、テクスチャの共有は諦めてもコピーした大まかな変形や動きだけを異なる原画に適用することも可能なので、いずれにせよ「シルエットだけでも揃えておけば後で絵や動きをコピペして活用できる」という意識は持っておいたほうがいいでしょう。
仮に原画を描く段階では「左右反転コピー? フッ、一介の絵描きとして恥ずかしくないのかい」などと思っていても、実際のモデリング作業に至って「これと同じ作業をもう1本分やるの? マジで? 絶対やだ……」とならないとは限らないからです。私はなりました。
反省 : あの時知っていれば……
今回反省点4において私が行った「原画作業時の指のコピペ」も、どうせならLive2D上で大まかな設定を済ませてからコピペしたほうが色々な点でもっと楽だったと言えます。
モデリングにはコピペしたパーツを使用し、原画はその配置や変形の下絵として扱えば良かったのです。
結論 : 絵としてのパーツ数の節約は、必ずしもLive2Dモデリングの手間の節約にはならない
ここまで読んでいただけたなら、冒頭で予め挙げていた「パーツ数(レイヤー枚数)自体よりも、動作上の重要性と総面積を重視せよ」の意味が概ね伝わったのではないでしょうか。
動く部分は「どう動かすか」を見栄えと実装の両面から考慮した上でパーツ構成を決める必要があるし、最終的にきれいに・快適に使用したいなら数的にも面積的にもパーツの整理が必要なのです。
見た目上の「どう動かすか」に関しては、Live2Dには下絵表示機能もあるので動きのイメージをあらかじめ簡単な絵にしておくのもいいでしょう。
絵を描いていると、少なくとも私は「ちまちまとレイヤー分けするの面倒くせぇ……なんとか枚数節約できないだろうか」などと考えてしまいがちです。
しかし、ことLive2Dモデリングに際しては、単純なレイヤー分けの手間を惜しんだばかりに発生する不利益=動作の自由度の低下や、それを実装でカバーしたり結局原画に戻って修正したりの手間の方が大きいと思います。
基本的に「あるものを動かす」のがLive2Dである以上、その「あるもの」が最終的なクォリティにほぼ直結するからです。
おわりに : その手間は、かけるだけの価値がある
「Live2Dに興味はあるけれど、まだ触ったことはない」デジ絵師の方は、この記事を読んだことで「考えてた以上に面倒そうだな」と思われたかもしれません。
実際、原画だけでも普段普通にイラストを描くのとはだいぶ違う手間が掛かりましたし、不慣れなモデリング作業ともなれば尚更のことです。より高度で複雑な動きを求めるなら、いずれプログラミング的な考え方も必要になってくるでしょう。
しかし、文中で挙げた「動かしてみたら楽しくなっちゃった」の威力は絶大です。
面倒くせえなぁと思いながらパーツ分けした絵に、チュートリアルと首っ引きで四苦八苦しながらパラメータをつけ、いざランダムポーズを再生して動くのを見た瞬間。
「大変なものを作ってしまったかもしれん」
「めちゃめちゃかわいい……」
「こんなかわいい子をこの世に生み出してしまうとは、もしかして私……天才だったのではないか?」
「こんなかわいい子を棒立ちさせておくのは申し訳ない、もっと自由に動いていただかなくては……」
確実に脳みその中で何かが変わります。
私の脳が特別おめでたい可能性もありますが、はじめてLive2Dでイラストを動かしてみたとき、誰もが大なり小なり同じような感動を味わうのではないでしょうか。
そして、その瞬間に得られる驚きと喜びには、それまで耐えた「面倒臭い」以上の価値があると思います。
これを読んだどなたかに、「やっぱり面倒そうではあるけれど、そこまで言うならちょっと描いてみよう・やってみようじゃないか」という気持ちになっていただけたなら、この記事にそれ以上の成功はありません。
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