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そもそも魔王って倒さなきゃ駄目なのか?【第1章 旅立ち編 13(終)】

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ーフィールド 周辺区域 エリア2ー

ドミリア周辺区域


ゴァァアアアア…!
火は激しく燃え広がっている!


やばいやばいやばい…!いよいよ手がつけられない事態になってきた…!

どうする!?近くに水源もない。聖水……なんかじゃ全然無理か…!大体もう使い切っちまったし!村の皆に知らせるのが先決か!?でもそうこうしてる間に火は更に燃え広がって…!

くそ、手の打ちようが…!放火魔ほうかまじゃねぇかもう!

うわぁぁぁぁ!!ドミリアの皆ごめーん!こんなつもりじゃなかったんだ!分かってくれ!!


「ふぅーッ!!ふぅーッ!!」


お前、お誕生日ケーキじゃねぇんだからそんなんで消えるわけ───

「スゥ~…」
【グリルは炎を吸い込んだ!】


なっ!?ちょっお前今…!


「ふぅーッ!!!…はあ~…ダメだマサアキ、ぜんぜん消えないよ」



ガシッ
【マサアキはグリルを抱えた!】

「お?」


グリルいいか? ちょっと俺の言う通りにしろ

思いっきり息を吐くんだ。さっきみたくで良いから


「え、なんで?」


いいから!早くしろ!


「……?ふぅ~…ッ!!」


よし、思いっきり吸い込め!


「スゥー~…!!」
【グリルは炎を吸い込んだ!】

【辺りの炎がみるみるうちに鎮火ちんかしていく!】



思った通りだ…

さっきこいつが火を吹いたのも気のせいなんかじゃなかった

今まで気付かなかったが、グリルは火属性の魔族だったのか

じゃなきゃ炎を吸ったり吐いたりなんかできねぇ


シュウゥゥ…ン
【グリルは炎を全て吸い込んだ!】


「……おぉ~、火が全部消えたぞマサアキ!これおいらのおかげか!?」


ああ、お手柄てがらだグリル

今日あった諸々もろもろ粗相そそうはこれで許してやるよ


クックバードの群れをやっつけた!
それぞれ690の経験値を獲得!
マサアキは一気にLV.4にあがった!
グリルはLV.3にあがった!
マサアキはHPが16あがった!
力が8あがった!
身の守りが6あがった!
すばやさが10あがった!
グリルはHPが9あがった!
MPが6あがった!
力が3あがった!
身の守りが4あがった!
すばやさが7あがった!


「なんかおいら達つよくなったみたいだぞマサアキ!」


一体として自分の力で倒してないんだけどな



マサアキ   グリル
HP 13      HP 8
MP 0    MP 2
LV.4      LV.3


一時はもう駄目かと思ったが

多くの体力と精神力を犠牲にして、ようやくグリルのドタバタ捜索劇は幕を閉じた

後は村に戻るだけなのだが

ここで気を抜きまた別の魔物に遭遇でもしたら、今度こそ確実に全滅してしまう


「マサアキ!そこの木にすげぇでっかい虫がいたぞ!持って帰ってもいいか!?虫のおーさまだ!虫キング!」


それに今度はこいつも一緒だ

隠密おんみつ行動とは最もかけ離れた位置に奴は存在している

見つからずに村までなど九分九厘くぶくりん無理な話だ

ここは日が昇るまでどこか安全な場所で待機していた方が利口だな

何より、もう疲れた……一旦ゆっくり休みたい


―フィールド 近くの洞窟どうくつ


「おぉ~…どうくつだー!!」


はしゃぐな馬鹿

休める場所が近くにあってよかった

つか魔物の巣とかじゃねぇよな?

俺とこいつの事だからそんなオチもありそうで怖い


「マサアキ今日はここでお泊まりか~?」


そういうことだ、お前も疲れてるだろ

さっさと寝ろ


「ここの奥ってどうなってんだ~?おいらちょっと見てくるー!」


誰か俺に麻酔銃をくれ



シュルシュル…!
【マサアキは火を起こしている!】

「うはっ!マサアキなに遊んでんだ!?」


遊んでねぇよ。寒いから火を点けようとしてるだけだ

おっ…点いてきた

ふぅーッ!ふぅーッ!


「マサアキおいらも手伝う~!!」


は?

いやいい!よせ!

スゥ~…
【グリルは火を吸い込んだ!】

「あ…あれ?…」


ふふ…ふふふ…なるほどな…

お前は戦争がお望みなのか

エンカウント発生!

────────────────
──────────
────




はぁ…はぁ…やめだグリル、むなしくなってきた


「…はぁ…はぁ…はぁ…」


何やってんだか…俺達

今は少しでも寝て体力を回復させるべきなのに


「マサアキ~………おいらもう疲れた~…」


そうか、俺は嬉しいよ

お前に疲労という感覚がしっかりあったことに


「マサアキ~……」


…今度はなんだ


「これ…あげるの忘れてた~…」

【グリルはクックバードの卵を差し出した!】


………ッ!?グリル…お前これ…!


「……ごめん…いっぱいは無理で…1コしかないんだけど…」


「でもこれで……マサアキ怒られないんだろ〜?」


【卵は割れてしまっている!】


「…あ…けど…割れちゃって……る…」


グリル?おいグリル!


「………ZZZ…」


おぉ…なんだ。寝ただけか

おどかすんじゃねぇよ


シュルシュル…!!
【マサアキは火を起こしている!】

ふーッ!!

パチパチ…!
【枯れ木に火が灯り、辺りが少し明るくなった!】


……………


グチャア…
【卵は割れてしまっている!】

へ…!よく人のお使いの失敗を笑えたもんだな

お前だって全く同じじゃねぇか


「……ZZZ…」


…………てっきりこんな事忘れて、また好き勝手に遊んでるのかと思った

ずっと探してたのか。村の外に出ても

怪我が治りづらくなってるとか言ってたのに、さらに新しい傷までつくって

やっぱり馬鹿な奴だよグリル、お前は



『人間と魔族、どちらにも大した動きが見られない場合、まず間違いなく人間側の勝利でしょうね。持久戦みたいなもので、マギアが尽きて魔族の全ては消滅するでしょう』

第1章 第2話より


────このまま放っておいたら、魔族は全部死ぬ

それが明日か明後日か、10年先か20年先か

そんなことは誰にもわからない

しかし、やがておとずれるであろう魔族の滅亡は人間ならば誰しも心待ちにしているだろう

かく言う俺だってそう

そしたらもう誰に旅立てだの魔王を倒せだの言われなくなる

はれて自由だ

……けど


「……ZZZ…」


たかだか種族の違いってだけで、どちらか一方が問答無用で淘汰とうたされるような世の中は本当に正しいのか?

人間にも良い奴がいれば悪い奴もいるように

魔族にだってそれと同じ事がきっと言えるはずだ

だから…そいつらを全部悪だと一纏ひとまとめにして死んだ方が良いだなんて、俺は正直思わない



………今朝やっていた情報番組アサマホーによると、魔王ゼジルを倒すと統率を失った魔族は魔界へと帰るらしい

これは裏を返せば、魔王ゼジルさえ倒せば他の魔族は死なずに済むということだ


『今後もこの調子が続けば魔族全体もどんどん弱体化し、新たに魔王を倒しに行こうという人たちが増えるかもしれませんね』

『えぇ、私達でも倒せてしまう時代が来るかもしれませんよ?』

第1章 第2話より


ははは……おいおい、鵜呑うのみにすんなって

流石に疲れすぎだろ…馬鹿なこと考えてるぞ、俺

10年、10年だぞ?ずっとかたくなに拒み続けて来たんだ

見苦しい言い訳をいくつも並べ立てて、二択を問われる人生すらいつしか受け入れるようになった

それがこんな、たった一個の割れた卵が理由で覆ろうとしてるなんてよ

正気じゃねぇな、全く


「………マサアキ〜…ZZZ…」


……グリル、お前が居なかったらこんな決断は絶対にしなかった

俺はただの村人だ。特別な力も技も、今は何もないけどよ

お前をみすみす見殺しにしたりもしない

何年かかっても、必ず魔王を倒す


だから……それまでは消えずに待ってろ


「……そこは…取れない……」


取れるって認めてる部分あんのかよ

最後くらいきっちりめさせろよな、アホ

──第1章 Fin


〜To be continued〜

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