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かわら版No.79 米沢市の商業環境形成について

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米沢市は、前回のかわら版No.78でも記載したとおり、米沢市は、上杉家御廟所周辺地区のドラックストアの景観について、「米沢市の景観形成基準に合致している。」としました。当該基準が、法的拘束力のない基準だとしても、これをできるだけ基準に合わせようとする行政側の景観形成への意志がなければ景観形成は成し得ません。

【景観形成重点地区‐上杉家廟所地区‐ 景観形成デザインガイド】https://www.city.yonezawa.yamagata.jp/material/files/group/26/gobyousyo_designguide_23111023.pdf

上杉家御廟所周辺地区のドラックストア(本人撮影)

また、例えば、金沢市は、金沢市における良好な商業環境の形成によるまちづくりの推進に関する条例(金沢市商業環境形成まちづくり条例)を平成13年(2001年)に作っています。地元の商業環境を守るためです。静岡市は、静岡市良好な商業環境の形成に関する条例を平成25年(2013年)に作りました。静岡市のホームページ上で、条例・指針のパンフレットの内容を閲覧できますが、ゾーニングの考え方はとても参考になります。米沢市の場合、これまで、商業環境形成に関する問題意識の有り無しに関わらず、行政として何ら有効な公共政策を実施することはありませんでした。例えば、静岡市の区分であれば、地元総合スーパーや地元総合小売店の商業環境を保全するため、生鮮3品等を主力商品とし、おおむね徒歩圏内(500~1000m程度)の居住者であり、近隣居住者の平日昼~夕方の買い物が主な対象とする「生活型商業環境形成ゾーン」「近隣生活型商業環境形成ゾーン」があります。この点、米沢市ではこのようなゾーニングはなく、地元総合スーパーや地元総合小売店への商業環境形成策を欠いたまま、これらは消滅しました。地元に根差した食文化の消滅は、一段と加速することが危機的に危惧されます。

私たちの食生活は、私たちが思う以上に繊細で緻密なものです。社会人類学者のティム・インゴルドは、その主著「ラインズ 線の文化史」の中で、網目(ネットワーク)つまり点と点を結び合わせるような連結型のラインではなく、網細工(メッシュワーク)つまりそれに沿って生活が営まれる踏み跡、その絡み合いにおいてできるラインは、たいていは曲がりくねり不規則ではあるけれど、全体が絡み合って緊密な織物となると、説いています。

このティム・インゴルドの言葉の意味を、このまちのドラックストア問題に引き直すならば、私たちが生活を豊かだと思えた時代を振り返ると、豊かさとは、ドラックストアチェーンのようなネットワークのそれではなく、網細工(メッシュワーク)の絡み合いのような様々な個々人の商いが全体を形づくり緊密な関係性を成してる状態に他なりません。ネットワークの中にメッシュワークが存在し均衡のとれた商業環境を、それは豊かな生態系のように、私たちはそれが豊かさであるとわかりつつも、傍観し失い続けてきました。

これまでの発想や方法でまちづくりを進めれば、これまでと変わらない個性を喪失したまち米沢になることは容易に想像できます。公共政策は、計画をつくることが自己目的化し、結果が透けて見てとれるような計画内容にすべきではありません。危機的状況下の商業環境形成を一つとっても、米沢市民の想像力を搔き立てるような、本当の思考をすべきではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございます。

かわら版No.79


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