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弊社、テレワークで揉める 【青二才の哲学エッセイ vol.21】

テレワークが決まり、家で何をするか大慌てで準備することとなった。
仕事自体が減ってきてしまっていることもあり、当然、私たち営業部員の業務量も比例して減っている。お客さんの質問に答えるなどの対応、見積の作成、製造への手配といったものが主な業務として挙げられるが、これらはすぐに終わってしまう。会社で仕事をしようが家で仕事をしようが変わらない。というわけで、これから営業として空いた時間で何をしようかという議題で、私たち下っ端も含め緊急会議をすることになった。人数の少ない会社はこういうところで自由度があっていい。

ひとまず、業務案として思いつくことを発表することになり、私はデザイン制作ツールやデザインの勉強を主にやりたいものとして挙げた。その時にやりたいことがある人、ない人まちまちだったが、私達部下の総意としては各自でやるべきことを設定して、それをやらせて欲しいというところで落ち着いた。それぞれの能力に応じて身に付けたいものや、それぞれのお客さんに応じて取り組みたいことは違う。何より、主体的にやらせてもらえた方がモチベーションも高まる。
会議の空気として、この方向性で落ち着きそうなところだったが、判断を下す肝心の部長が渋い表情のままだ。どうにも納得できないみたいだが、うまく言葉にできない様子。私達は何度か説得を試みるものの、なんだか歯切れが悪い。埒が明かないので、「明日なぜこれをやった方がいいのか、またちゃんとまとめてきます。それで納得いかないなら添削してもらって、実際に何をするか話し合って決めましょう。」と私が切り出してその場はお開きとなった。

次の日、また営業全員で集まった。部長から1枚の紙が配布される。「在宅勤務やることリスト」。どうやら私達の宿題が決まったようである。量もそれなりにあって、内容も各々やりたいと言っていたことは含まれていない。
これに似たようなことは何度かあった。配られた紙には会議にいなかった部長よりさらに上の方達の意見が反映されているに違いない。なんとなくまたそんな感じになるかもなという予感もあったので、そこまでショックはなかったが、納得いかない気持ちが残ることに変わりはない。話し合いの機会くらい作って欲しかった。何より、部長の素直な意見も聞きたかった。

自分の意見通りさせてくれという気持ちはあるが、それが一番の思いという訳ではなくて、仕事は納得した上でしていきたいのだ。この危機を乗り越えて会社をよくしていこうという思いと方向性はみんな同じであるはず。部長の考えが正しいと思えるものであるなら、それはそれで構わない。お互いに「なぜ今それを行うべきと思ったのか」を言い合える場があっただけでも、私達のモチベーションは違ったのではないかと思う。

こうやって書いてしまうと部長がすごく嫌な人みたいになってしまったが、そんなことはない。思慮深くて優しくて献身的で真面目ないい人だ。ただ少し口下手で不器用なところがある。色々言われて悩んだ末にこのような行動になったのではないか。いつものことだが同情する。一人で抱え込まなきゃ良いのに。たまには部下に弱さを見せたっていいじゃない。「オレも大変なんだよー。助けてよー」くらいの感じで包み隠さず言ってくれたら、「しょうがないですねぶちょー」って言って協力しようと思えたかもしれない。
愛嬌は人との距離を埋めてくれる。女がどうとか男がどうとかは関係ない。

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