虚構日記:願いが叶う手帳
来年用の手帳を選んでいたら、どんな手帳をお探しですかと尋ねられた。
声のした方に顔を向けると、落ち着いた黄色のエプロンを身につけたマッチョメンが、すぐ隣に立っていた。
少し気恥しかったけれど、書いたことが叶う手帳を探していると素直に伝えると、マッチョメンはにっこり笑って、それならこちらですねといってオリーブ色の手帳を教えてくれた。
綺麗な色だけれど、いつも無難な色しか選ばない自分にはハードルが高い。
しかもカバーはエナメル加工。すぐに汚れてしまいそうでもある。
「本当に書いたことが叶うんですか?」
と尋ねると、
「本当に叶っちゃうんですよね」
マッチョメンが肩をすくめて微笑んだ。
バーチカルじゃなくてウィークリーなのも不満ではあったけれど、熟考の末、来年の手帳はこれにすることにした。
星空色のインクで書くと願いが叶うまでの期間が早まるというので、それもあわせて購入する。
「叶ってほしくないことは書かないようにね」とレジでマッチョメンに釘を刺された。
絶対に叶うと知っていてもネガティブなことを書いてしまう人があとを絶たないらしい。
「どれかひとつが叶ったら、次はふたつ、みっつと増えながら叶っていくから、たくさん書いたほうがお得ですよ」
美しく包まれていく手帳をわくわくしながら眺める。
帰るなり着替えもせずに手帳を開くと、割りたての新竹のようなスンとした匂いがした。
最初に書くのは、もちろん猫の健康のこと。
それから次は何を書こう。
そんなことを考えながら万年筆に星空色のインクを詰めていたら、いくつか星が逃げていった。