『蕪』『醜い』『口笛』
蕪を買ったら妖精が付いてきた。その姿の愛らしいことといったらない。目はくりくりしていて口は小さく、頬は林檎のように赤らんで健康な赤子のよう。愛らしい表情で私の方を見てきて、思わず笑顔になってしまう。
裸のままなのは可哀想だと思って、蕪の葉で服を作ってやる。妖精が嬉しそうにはにかんで指に頬擦りしてきた。愛着は湧いたが仕方がない。蕪にピーラーを当てた。
蕪の皮を剥くと同時、妖精の顔の皮が剥げた。血のように無色透明の組織液を撒き散らしながら妖精が暴れている。仕方がないことだ。そのまま皮を剥き終えると、全身の皮が剥げた妖精が醜い姿でピクピクと震えながらこちらを見ていた。
蕪をまな板に上げ、包丁で二つに割る。妖精の体も二つに割れる。それでも意識はあるらしく、片目二つで私を睨んでくる。妖精の悲鳴を聞きながら蕪を銀杏切りにし終える。
蕪をボウルにあけて塩を入れて揉み込む。もはや口の体裁を成していない妖精の口が苦鳴を上げた。いい加減に鬱陶しいので、妖精の口をガムテープで塞いでやる。ビクビクと震えるだけになった妖精は捨て置いて、塩揉みした蕪を洗って絞る。甘酢と柚子を和えてジップロックに入れると、妖精は呼吸ができないのか青くなり、ついに動かなくなった。
最初の愛らしい姿が原型もなくなった妖精はゴミ箱に捨て、蕪に味が馴染むのを待とうと今に戻る。何で時間を潰そうか考えていると、知らず知らずのうちに口笛が出ていた。
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