『荒野』『金色』『鈴』

 荒野のウエスタンことサンフランシスコでは金が出た。それを聞きつけた荒くれ者どもが駆けつけてフォーティーナイナーズとなり、西海岸に文明圏を築き上げたのは有名な話だ。
 ゴールド・ラッシュで一番儲けた連中は、集ったフォーティーナイナーズではなくツルハシ売りの商人だったと言われている。
 その故事になぞらえて考えるに、異世界くんだりまでやってきて冒険者稼業をやるのは成り上がりからは最も遠い事だと言える。早いところ荒事から足を洗って商人ギルドに食い込んで行かなければならない。成り上がる必要はないとしても、生きるためには戦闘に関わらないのが一番だ。
 というのが、ダンジョンの浅い層で最初の戦闘によって同僚を失った俺の結論だった。魔物除けの鈴と言って渡された鈴に寄ってきたとしか思えない蝙蝠に吸い殺されてしまったのを見て、とるものもとりあえず這う這うの体で抜け出してきたのだ。
 良くない具合にフォーティーナイナーズの道のりを辿り始めている。このままでは任務をこなせず、帰るに帰れない。

「どうすっかねえ」
「ダンジョンに挑むなら装備を整えた方がいいぜ」

 入口の泉で装備についた返り血を洗っていると、金色の装備を積んだ屋台のおっちゃんが来た。今洗ってるだろうが殺すぞという気持ちで睨む。しかも金色の装備というのが良くない。悪目立ちするだろう。

「金ピカの鎧ってのはどういう事だ。目立つだろ」
「おいおい、洞窟に住む魔獣どもが目で見てると思ってるのか? そんななめし加工の臭いのついた革で挑むなんて、襲ってくれと言ってるようなもんだ」

 その点、この金の鎧なら臭いもつかないし防御もしやすい、と言いながら示してくる。そう言われてみると合理的な気がしてくるが、この迷宮都市に来てから適当な理由で搾取された事を思うと素直に頷きにくい。

「もちろん、お代は出世払いでいい」

 信用できそうだと思った。出資が行われるのは返ってくる公算が高い場合だけ。それを思えば、こうして出資を持ちかけられている時点で偽りではないと判断できる。

「じゃあ、買わせてもらうよ。見ての通り金は無いから本当に出世払いになるけど、構わないだろうか」
「いいよいいよ。使ってくれ」

 どうにも落ち着かない金ぴかの鎧を着て再びダンジョンに潜る。俺がこうして異世界に渡ってきたのは、新発見された近隣次元がどの程度征服に適しているかを調査するためだった。軍事力は中世程度で、問題なく日本国の領土にできることは分かった。
 問題はダンジョンだ。この中の生物は、浅い層の生物なら銃器で対処できるだろうと当たりはついている。だが、深い層の生物が出て来た時に銃で対応できるとは限らない。それを見極めるために派遣されたきたわけだが、同僚がいきなり殺されたせいで任務が頓挫するところだった。
 重みが頼もしい金色の鎧をガシャガシャと鳴らしながら歩く。今度も蝙蝠が飛んできて、鎧が牙で貫かれた。体に牙が刺さり、血が吸い出されていく。うるさい上に重いだけで全く役に立たない鎧だった。また騙された。
 一体どういうことなのだろう。この鎧は出世払いで買ったものだ。生き残れる公算が高いからこそ出世払いでいいと太鼓判を押したはず──と思って気付く。死んでもいいと思いながら欠陥品を押し付ける理由はある。
 鎧の実地試験だ。適当な理由で鎧の実験体にされたのだ。

「ちくしょう」

 また騙された。そう思いながら、下がり続ける体温と共に意識を失った。

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