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『川』『言葉』『屋根』
川は雨の合流地。海から上った湯気が雨となり、地に染み込んで湧き出して、再び海に帰る旅の群れ。
旅。私もその中にいる。生まれた土地から遠く離れて、当て所なく流離って、今は川の辺で水を汲んでいる。この水たちに意思があるなら真っすぐ海に帰りたいだろうけれど、今は私の体の中を巡ってもらう。私が生きるために。
革袋を揺らすと、中でちゃぷんと水が音を立てた。久方ぶりの新鮮な水だ。清潔かどうかはわからないので、浄化の言葉を投げかける。すると飲み口から粘り気のある毒気の塊が出てきた。やはり何らかの毒が含まれた水らしい。いつも通りに下生えの草を抜き、飲み口周りに出てきた毒気の塊を拭い取る。清潔になった水を口に含むと、活力が戻ってくる感覚があった。
旅は長い。死ぬまで終わらないかもしれない。だが、一応は終わりが設定されている。
力ある言葉を吐く口は、ただ居るだけで国を傾ける。私は幼い頃に自分が魔女であることを明かしてしまったため、こうして巡礼の旅に出されている。かつて最も力ある言葉を吐いた者の旅路を辿るのだ。そうすることで私はその聖者と同じ位置に登ることができる。
そうすれば、屋根のある家で暮らせる。両親と共に暮らせる。病を負って、力ある言葉なくしては死ぬ以外になかった彼と共に暮らすことができる。その未来を思えば、足取りは羽根のように軽くなった。
さあ行こう。旅路は長い。この川がいつか海に帰るように、私もまた、いつか家に帰るのだ。
父が作ってくれた編み上げの革靴で、次の一歩を踏み出した。