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喜びの体験、建築の精神的な経験

少し前、ヘミングウェイの老人と海を読みました。数日かけて少しずつ読み進めたのですが、本を読みながらうたた寝すると、夢のなかでわたしは老人と共に美しい海のうえに漂っていました。
静かな波の揺れ、船が軋む音、塩の匂い、頬にあたる海風の生々しい感覚や、ふと夜の深い闇に包まれて背筋が凍るような感じがしました。

彼の文章が描く明瞭で豊かなイメージによって、読み手はまるで自分もそこで対峙しているかのように、老人と海の力強い生を感じることができます。
そしてそれはわたしにとって喜びの体験でした。

そもそも建築における経験とはなにか、パラッスマーは著書のなかで下記のように述べています。

建築作品は、ばらばらの絵の集合体として視覚的に経験されるのではなく、物理的・精神的な存在の完全な具現化として経験される。

建築と触覚 空間と五感をめぐる哲学/著:ユニハ・パラッスマー 訳:百合田香織

これをうまく言語化するのは難しいが、彼が物理的な存在と並列に精神的な存在を挙げているところが興味深く、個人的には、建築の精神的な側面こそ、そこでの経験に感情を与えているのではないかと思います。

東京カテドラル(設計:丹下健三)を訪れたときの感動は、明らかに精神的なものであったし、かなり毛色が違うけれど、最近だと千鳥文化(設計:ドットアーキテクツ)を訪れた際も感動を受けたのは、改修という行為そのものに宿るなにかがあったのだろうかなどと、ぼーっと考えていた日曜日でした。


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