ふざけた笑顔と英語との出会い
数年前、とある英語圏の国に
赴任したての頃、
私の英語学習は、高校と大学の
授業のみでした。
しかも、初めての海外渡航が赴任でした。
緊張そして緊張
日本以外の国に旅行ですら行った事がない人でした。
赴任国に到着し、真っ白なパスポートにVISAスタンプが押されました。
日本以外の国で生活することも初めて。
私( 日本より道が広い! )
日本以外の国で仕事をすることも初めて。
私( オフィスのデスクがデカい、日本の二人分じゃん )
赴任初日、長距離フライトでぐったりしたまま、現地スタッフに英語で自己紹介。
初めて、英語を実戦的に使いました。
私( ちゃんと伝わったのかな? )
社内の会議では、前日に準備した英語原稿を読み上げる。
スタッフが喋る英語は早すぎるか、単語自体が聞き取れない。
10%の内容が分かれば良いレベル。
分からない単語をメモっては調べる、の繰り返し。
"初めて"しかない毎日。
目まぐるしく切り替わる場面。
期待?不安?、そんなものは
感じる暇はありません。
あるのは緊張だけ、
ただただ緊張していただけです。
1週間が経過した頃、
そんな余裕の無い私に対して、
上司が、
「客先との会議に参加してきて。」
と言い渡しました。
私「……えっと、誰か一緒に行ってくれるんですか?」
上「もちろん。Davidが一緒に行くから。彼の車で2人で行ってきて。」
私( Davidって日本語話せないし、営業部じゃん。 )
当時の私はEngineering担当、
営業部の彼が答えるのは営業の事。
会議でEngineeringの事を聞かれたら、発言の責任は私。
上「まあ、行ってきてよ。
大丈夫(^▽^)/」
私( なーにが、大丈夫(^▽^)/
だよ!無理だよ、無理! )
-------------- 間 ----------------
David「What XXXXX to ++++ YYYYY? 」
運転しながら何か質問するDavid。
はい、もちろん聞き取れません。
私(どこに住んでたのか?
って聞いてるから…?)
私「I .....(1秒).... lived .....(1秒).... in .....(1秒).... XXXXX .....(1秒).... Japan」
David 「Okay, I wanna go there someday.」
( 家族の事、聞いたんだけどな… )
それでもDavidは何とかコミュニケーションを取ろうと次々質問します。
質問の90%を勝手な推測で補完し、
単語をぶつ切りで回答。
"何かを聞かれて、何かを投げ返す、
ただし投げる中身は問わない"
っという謎のやり取りが続きます。
なにこのゲーム?
未知の言語
現地到着。
会議室へ案内され自己紹介。
ただし、名刺交換なしでそのまま着席
私( 名刺渡してないよー、
要らないの? あ、そうですか… )
会議が始まっても、当然何を言っているかは分からない。
お客さん二人はどちらもバリバリの英語圏人、日本語は喋れません。
私以外の3人で会議は進みます。
ときどき笑ったり、真面目な顔になったり、Davidはメモを取ったり、
客先が何かのデータをスクリーンに映したり。
私は…?私はというと…
ちゃんと手帳を広げて、ペンを持ってましたよ。
笑顔とも、怒ってるとも、不機嫌、ともいえない絶妙な表情で、
3人が会話する様子を"見て"いました。
しばらくすると、会話が止まり、
3人が私を見ています。
あなたが話す番よ?という眼差し。
当社のEngineering担当の私が答える場面。
やべぇ
前髪の生え際から汗が…。
わきの下からも、たらり。
止まらない、冷や汗。
えっと質問はなんでしたっけ?
何か言ってました?
もちろん、
何を言ってたか I don't knowですよ。
そう。"I don't know. "
「分かりません」で良いじゃないか。
分からないで誤魔化せば、良いじゃないか。
逃げる?戦う?、
そんなレベルじゃない!
そんなレベルじゃないけど!!!
その時、何を回答しようとしたかはもはや覚えてません。
私「I study XXXXX んあぁぁ、and 、アイ、愛、んー、 」
みたいな未知の言語だったと思います。
それを聞いた?というか"感じた"周りは、
「あ、こいつ英語話せない奴だ」
期待の眼差しが、
一瞬にして、呆れ顔。
ため息が聞こえた、…気がしました。
その後も、何度か私に質問が振られました。
そのたびに冷や汗をかきながら、
未知の言語を話します。
私はナニジンですか?
ーーーーー間------
David「大丈夫、大丈夫。彼は英語分からないから。」
帰りの車中、
奥さんと電話で話すDavid。
電話口から漏れ聞こえる奥さんの声。
「仕事中でしょ?電話してて良いの?」
に対し、Davidはそう答えていました。
そう。これは聞き取れたんですよ。
"聞き取れた"というか、
電話の話相手が親しい女性の声。
そして、
Okay(^。^), He CAN NOT ..........
これが分かれば、誰でも分かります。
私( まあそうだよね… )
悔しいとか、失礼じゃない?
とかそんなエネルギーは湧きませんでした。
嘘です。
めちゃくちゃ湧きました。
でも、
そんなエネルギーが湧いたところで
満面の笑みで話すDavidに対し何も言えません。
今は、聞こえない"振り"しかできない自分。
助手席に座り、ただただ私は前を向いてました。
私( やっぱり道広いよなー )
ぷークスクス
私「すいません、あの、正直何も分かりませんでした…」
「会議の内容は、Davidに聞いてもらえますか?」
オフィスに戻って、しょんぼりしながら、上司に報告しました。
上司「まあ、そうだよね」
というか、そうなるの分かってたしー
やっぱり話せなかったんでしょ?
分からなかったでしょ?
ぷークスクス(*´ω`*)
みたいな、ふざけた笑顔で言われました。
何も聞き取れず、会議にただ座り、
未知の言語を話し、
分からない"振り"をして、
ドライブして帰ってきた私。
どうしようもない報告、
「Davidに聞いてもらえますか?」
からのー?
「まあ、そうだよね(*´ω`*)」ぷークスクス
このやろー、分かってんなら何で行かせたんだよ!!
…と心の中で思いました。あとあと分かったんですが、極度のSタイプだったんですよ、その上司。仕事振りは真面目、上司性能も文句なし、モラルもありますが…、いわゆる他人の不幸で飯が食えるタイプ。
会社としてそれで良いかは別として…。
本当に出会う時
今でも、ときどき思い出します。
赴任したての緊張感。
広くてまっすぐな道。
初めての英語会議。
未知の言語を話す自分。
期待の眼差し。呆れたため息。
止まらない冷や汗。
Davidの満面の笑み。
聞こえない"振り"。
どうしもない報告。
上司のふざけた笑顔。
結局この時に、英語と初めて出会った気がします。
高校でも、大学でも、出会ってなかった。ただ知っていただけ。
大きなエネルギーが湧き上がった、
この時。
自分が初めて英語を"求めた"、
この瞬間。
手荒い歓迎ですよ、ほんと。
そして、この事件を通じて
「英語会議で自分の意見を言う」
という具体的なイメージができた訳で。
このイメージが鮮明にあったおかげで、これ以降、盲目的・機械的にもりもり勉強した記憶があります。
結果的に。めざましく英語力は向上。
高度成長期へ突き進む訳ですが…、
なんだろう、
この、上司にしてやられた感。
こんな風に私を英語に仕向けるために、わざと行かせたのかよー、
とか邪推しちゃう訳ですよ。
まあ、良いんですけど。
さて、この話で得られる教訓は、
英語と出会う時、
まあ分からなくて当たり前じゃん!
…にがにがしいけどさ。
って事です。
もしも、
あなたが英語に本当に出会う時、
その時は私が言ってあげますよ。
ふざけた笑顔で。
「まあ、そうだろうね」
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