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魚の毒との戦い、ついに転機か?世界が待ち望んだ研究成果

この記事は「自然毒食中毒の毒性分(カリブ海型シガトキシン) 右半分構造の化学合成を効率化 〜世界最大規模のカリブ海型シガテラ中毒の撲滅を目指して〜」をより多くの方に知っていただくため、専門的な内容をできるだけ身近な言葉で説明しています。正しい内容が知りたい方は、元のプレスリリースをチェックしてくださいね。

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みなさんは「シガテラ」という食中毒を知っていますか?熱帯や亜熱帯の海で育った魚を食べることで起こる食中毒で、毎年2~6万人もの人が苦しんでいます。患者さんは激しい下痢や嘔吐に加えて、手足のしびれ、温度感覚の異常(冷たい物に触れると痛みを感じる)、めまいなど、重い神経症状に悩まされます。最近では地球温暖化の影響で温かい海域が広がり、日本近海でも発生するようになってるんです。

シガテラ中毒の正体とは

この食中毒の原因となる毒は「シガトキシン」と呼ばれています。とても小さな海の生き物である渦鞭毛藻うずべんもうそうがつくり出す毒で、小さな魚から大きな魚へと食物連鎖を通じて蓄積されていきます。この毒は神経細胞の中にある「電位依存性ナトリウムイオンチャネル」というタンパク質に作用して、神経の働きを狂わせてしまうのです。

とくに最近問題になっているのが、カリブ海で見つかるタイプの毒(C-CTX)です。この毒は「ポリ環状エーテル構造」という梯子のような複雑な形をした分子でできています。例えるなら分子の中に13個もの輪っかが連なっているような構造で、この複雑さが毒の研究を難しくしてるんです。

世界初!毒の構造を解明する画期的な方法

東北大学の研究チームは、このカリブ海型シガトキシンの構造の半分を効率よく作り出すことに世界で初めて成功しました。とは言え、なぜ「半分」なのか?それは、この毒の分子があまりに複雑で大きいため、一度に全体を作ることが困難だからです。ちなみに研究は最新の化学技術を駆使して行われました。

  1. 「閉環メタセシス反応」という新しい化学反応を用いて分子の輪を作りました。この反応は、特殊な金属触媒を使って2本の紐のような分子をつなぎ合わせ、輪っかを作る技術です。

  2. 「鈴木-宮浦クロスカップリング」という技術で分子同士をつなぎ合わせました。この技術は2010年にノーベル化学賞を受賞した日本発の化学反応で、複雑な分子を正確につなぎ合わせることができます。

  3. さらに「鉄ヒドリド触媒」を使った新しい反応により、分子の構造を効率よく組み立てることに成功しました。

そして注目すべきは、以前は42%だった収率(目的の物質がどれだけできるか)を68%まで向上させたことです。化学合成の世界では、収率が50%を超えることは極めて重要で、この向上は大きな進歩といえます。

この発見が世界にもたらす影響

この研究成果の意義は大きく3つあって、まず魚に含まれる毒を簡単に見つけ出せる検査方法の開発につながること。これには「抗体」という、特定の物質を見分ける分子を作る必要がありますが、今回の成果によってその作成が可能になりました。

次に研究用の「標準試料」として世界中の研究者に提供できるようになること。標準試料があると世界中の研究者が同じ物差しで研究を進められるようになります。これは科学研究の正確性と再現性を高める上で重要な意味を持ちます。そして最後に、この毒の全体構造を人工的に作り出す道が開けたことです。これは解毒薬の開発など、さらなる研究の発展につながる重要な一歩となります。

シガテラ中毒は決して遠い国の話ではなく、地球温暖化が進めば日本でも多発するかもしれません。それまでに中毒の全容が分かると良いですね!引き続き注目していきましょう!

その疑問にQ&Aでお答えします!

Q1:シガテラ中毒を引き起こす魚はどんな種類ですか?

サンゴ礁近くに生息する大型魚が特に危険です。食物連鎖で毒が蓄積されるため、ブダイ(タマンやイラブチャー)、バラハタ、カンパチの仲間などの大型魚に注意が必要です。シガトキシンは熱に強く、加熱調理では分解されないため、魚の選び方が重要です。

Q2:なぜシガトキシンの「抗体」作成が重要なのですか?

抗体は特定の物質を高感度で検出できる分子です。シガトキシンの抗体があれば、魚に含まれる微量の毒も正確に検出できるようになります。これまでは自然界から十分な量の毒を得られず、抗体作成が困難でしたが、今回の研究で人工的に毒の構造を作れるようになり、より効率的な検査法の開発が可能になりました。

Q3:地球温暖化はシガテラ中毒にどう影響しているのですか?

海水温の上昇により、シガトキシンを生産する渦鞭毛藻の生息域が拡大しています。さらに、サンゴ礁生態系の変化や国際的な魚類取引の増加により、これまで報告のなかった地域でも中毒が発生するようになっています。なので、世界的な公衆衛生上の課題として、国際的な研究協力が進められています。

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