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わたしの推し~学び直し~
§ リカレント教育 リスキリング
呉服屋さん、きもの屋さん、前売り問屋さん、悉皆屋さん、染匠さん、職人さん。
様々な業態で多くの事業者が、キモノ(後染め)作りに関わっています。
これらの方々は、どこで、キモノ作りを学んだのでしょうか。
キモノ作家さんや染めアーティストの方々は、芸大や美大で、美術、工芸、デザインを習得されています。
キモノ制作から世界観の表現まで、個性を発揮して実践、活躍されています。
一方、先ほどのキモノ産業界の方々には、すこし不安を感じます。
何十年も友禅加工を担い続けた職人さんがいます。
その中には、地色を染めた経験が、全くない人がいます。
驚いてしまします。
モノ作りと言うよりも、繰り返す作業をしてきたように感じてしまいます。
自社で作った品物だと言って展示会を催すキモノ問屋さんがいます。
その中には、デッサンや写生の経験すらないお店があります。
不思議です。
ゼニ儲けとモノ作りの意味合いが、混乱しているように見えます。
勿論、全員の話ではありません。
一部分の人だけだと思います。
ただ、一度でも目の当たりにすると、不安が残ってしまうのです。
業界内には、昭和高度成長期の大量生産、平成バブル期の高額値がさ商品での利潤追求など、経済活動の中で習得した功利感覚が、評価基準として続いているようです。
センスよりも、売り上げ高や加工作業量で、良し悪しをはかろうとするのでしょう。美術、工芸、デザインから観る本質的価値をないがしろにしているようにも見えてしまいます。
勝手に売れて、ボロ儲け出来るモノが良いモノだ。
皆が儲かるモノは良いモノだ。
利益率が高くなる作り方が、良い作り方だ。
皆が行う作り方は、良い作り方だ。
こんな風潮が、令和の今になっても、漂っている感じがするのです。
ところで、商社や貿易会社でビジネスする方には、英語や中国語など、様々な日本語以外の語学力が必須だと伺っています。
英語の場合、どれくらいのレベルが求められているのでしょうか。
分かりやすいので、新人採用基準を参考にしてみます。
大学3年生、20歳の就活生が、大手企業にエントリーするなら、TOEIC800点が目安です。
英検準一級超えです。
ちなみに、文科省が、中学校英語教員に求める最下位基準が英検準一級です。
それを下回れば、新聞記事になるくらいです。(京都新聞:2017年2月10日)
日本語以外の言語でコミュニケーションを取り、豊かなビジネスを展開する総合商社や貿易に関わる事業者と、キモノ産業の事業者とを照らし合わせてみます。
国際的に、あるいは、グローバルに活動しようとする方には、TOEICやビジネス英検などで、基礎力を測る指標があります。
しかし、キモノ作りをする方々を対象にした、同じような仕組みはありません。
そこで、キモノ作り従事者が身に着けるビジネスツールの一つとして、美術や工芸の教員免許は、どうでしょうか。(少し無理くり感がありますが……)
芸大や美大だけでなく、地元の国公立大学の教育学部や、私大の通信課程でも免許取得は可能です。
近年、大学で学ぶことは、極めて身近なものとなっています。
(大学進学率は、京都府の場合、およそ70%です)
そして、社会人の学び直しであるリカレント教育は、常に開かれています。
元来、生徒を指導するための教員免許を、価値基準に用いることは、少しお門違いにも見えると思います。
しかしながら、染織分野は、中学校の美術科目、高等学校の工芸科目で、その一歩目を学びます。
浴衣の縫い上げや着装を、中学校の技術・家庭科に導入されたことがあるように、キモノ作りの一部分を中学校での美術教育や、高等学校での美術・工芸教育へリンクさせることが出来るのではないでしょうか。
民族衣装である既存の位置づけから、より自由で、より豊かなライフスタイルの発展を広げる可能性を握っているのは、Z世代と呼ばれる今の子ども達です。
キモノ作りをする方々が、未来ある生徒らと、キモノについてコミュニケーションを図る機会が生まれてほしいと願います。
モノ作りの一端を担う産業が、より教育に関わっていくことで、自らの立ち位置を見つめ直し、パラダイムシフトするきっかけにならないだろうか……と思います。
〈おしまい〉
中井 亮 | nakai ryou
1966年生まれ。京都在住。模様染め呉服悉皆業を営む。友禅染めを中心に、古典柄から現代作品まで、様々なジャンルの後染めキモノ製作に携わる。
また、中高校生へ基礎美術の指導を行っている。
個人制作では、日常で捉えた事物を空想視点に置き換えて繋ぎ合わせ、着るキモノから見るキモノを主題に作品づくりする。
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#工芸がすき