京都のキモノ職人さんって、嘘…
~キモノ職人さんには、あるあるですか?~
キモノの中でも後染めの分野があります。
友禅染めや、ろうけつ染めを取り扱う範囲です。
製作現場では、友禅、糊置き、引き染め、ろうけつ、印金、図案、下絵、整理、紋上絵など、様々な職人さん達が活動されています。
それらの加工を担う職人さん達の中には、大きな会場を借りて、何十人も集まって、キモノの展示会を催す方々もおられます。
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会場に入ると、衣桁に掛けられたキモノが、ズラッと並べられています。
キモノには、1点ずつに、1名の名前が記されています。
作者名を指すのでしょう。
一つひとつのキモノを見続けていますと、徐々に、徐々に、心の中がモヤモヤし始めます。
キモノ作家さんや染織アーティストの方々の展示会では、出会うことのない感覚です。
何かスッキリとしない気持ちが沸き出すのです。
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友禅職人さん、糸目職人さん、印金職人さん、その他様々な加工分野の職人さんが出展している作品には、地色が染められています。
染め色が施されていないような、生地が持っている元々の白色(生成り色)のキモノは見当たりません。
地色のほうが、柄色よりも広い面積を占めている。
そんな状態のキモノが、何枚も何枚もあります。
それぞれの雰囲気は、染められた地色から、醸し出されています。
名前が付けられている個人の作品ですから、十数メートルの反物を、本人自らが、染めているはずです。
けれど、中には名前が記された本人独りだけで制作したのではなく、複数の別人が、作り手として参加している、そんな場合があるようです。
アマチュアの方や中高生も利用できる、湯のしや、蒸し、水元の加工は、自分以外の方に作業してもらっても大丈夫です。
機械作業が多いので、他人の個性が自分のキモノに反映されません。
しかし、地染めのような個人の個性が必ず出る手作業を、他人にしてもらっている場合があるようなのです。
(地色に限らず、図案や下絵、防染や仕上げを、別人に頼んでいる場合があるようです。)
つまり、共同で、協働し、製作したものがあるのです。
これだと、制作された作品として受け止めることが出来ません。
製作品となってしまうからです。
それが、個人作品として発表されているのです。
勿論、一人きりで作って、作者として表現されている職人さんもいらっしゃいます。
でも、1点でも制作品でない製作品があれば、なんとなく闇の広がりを感じてしまうのです。
不安な気持ちになるのです。
モヤモヤするのです。
なので、尋ねてみたことがあります。
複数の方に、色々な場所、様々な機会で、同じようなことを聞いてみました。
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ある職人さんが、個人名で、出品しているキモノがありました。
友禅部分は、確かに本人が制作したそうです。
でも、別の工程である、下絵、防染、地染めなどを外注加工しています。
勿論、自分がそれらの加工を実際に行ったとは言いません。
知り合いで、その加工を専門にする職人さんに頼んだと言います。
ですから、何故、自分でしないで、外注するのですか、と尋ねました。
「自分よりも、上手だから。」
「ずっと今まで、このやり方だから。」
「みんな、やってるから。」
「キモノはこうゆう作り方だから。」
こんな感じです。
どう考えても、見せかけです。
一人きりで作ることが出来る、制作者のフリをしているだけです。
「このキモノは私の作品です。制作者は私です。」と職人さんが答えれば、嘘をついているように聞こえます。
『この職人さんは、もの作りが、嫌いな人なんだ』と判ります。
職人あるあるでしょうか。
本当に残念な気持ちが残ります。
こんなキモノ職人さん達に出会ったとき、どのように思われますか?
〈おしまい〉
PROFILE
中井 亮 | Nakai ryou
1966年生まれ。京都在住。
誂呉服模様染め悉皆経営。
友禅染めを中心に、古典柄から洒落着まで、様々なジャンルの後染めキモノ製作に携わる。
また、中高校生へ基礎美術の指導を行っている。
個人作品では、日常で捉えた事物を空想視点から置き換えて再構築し、
「着るキモノから見るキモノへ」を主題に制作する。