原爆ドーム/産業奨励館3Dモデルの配信
被爆70年にあたる2015年、サンフレ取材班としていつも一緒に撮影を行っている山下教授のゼミと合同で原爆ドームと被爆前の元の姿である産業奨励館の3Dモデルを配信するプロジェクトを実施した。
被爆50年にあたる1995年には、当時「世界最大のパソコン通信」という認識だったインターネットを使用して写真付きの記事の配信を行った。動画の配信も試みてみたが、200×300、15fpsの低画質、1分の動画をダウンロードするのに半日かかったとイギリスのユーザーからクレームを頂いた。
被爆60年にあたる2005年にはHDV(1440×1080,30fps)のいわゆるハイビジョン動画の配信を行うことができた。
2014年にはほぼ同じアングルで4K撮影を行っている。当時からYouTubeは4K対応しており、これらの動画を簡単に4K配信することができていた。
2010年代になると写真はもとより、高画質の動画配信があたりまえにできるようになっていたが、VR(ゴーグル)は普及前夜のタイミングであり、まして画面の中のモノに触ることは不可能であった(こちらは現在でも)。
2015年、新学科の立ち上げのため3Dプリンター、3Dスキャナや3Dデータ処理用のツール、コンピュータが導入された。
そこで、実際に手に触れることができる3Dモデルを作成し、データとして配信すれば、ダウンロード先で3Dプリントし、モデルに触ることができるようになると考え、このプロジェクトを企画した。
産業奨励館の設計図を入手し、その設計図をもとに山下教授が産業奨励館の3Dモデルを作成した。実際に3Dプリントを行うと、画面では正常でもプリント(実体化)できないという失敗を繰り返し、最終的に安定した3Dプリント用のデータを出力できるようになった。
原爆ドームの3Dモデルは産業奨励館の3Dモデルをもとに、壁を削ることによって作成することとした。産業奨励館の設計図とともに原爆ドームの測量図面も入手していたが、三面図であるため、図面だけで壁を削るた作業は困難であった。そこで様々な角度から壁の様子を観察できるようレーザースキャナーを使用して原爆ドームの3Dデータを作成し、画面でアングルを変えながら面を削る作業ができるようにすることとした。
4月29日、定価でほぼ4桁万円もするレーザースキャナー(FARO FOCUS 3D)が入ったケースを持ってアストラムラインに乗り原爆ドームで山下教授と合流、半日かけて原爆ドームの柵の外側を反時計回りに6か所のスキャンを行った。
スキャンデータを大学に持ち帰り、3Dスキャンデータの処理ツールであるFARO SCENE(2015版)を使用して6か所のスキャンデータを統合すると、一部影が残っているものの、壁の様子は再現でき、学生が自由にアグルを変えながら参照し、壁を削る作業ができるようになった。
2015年5月から6月にかけて学生たちは産業奨励館のモデルの壁を原爆ドームの形に削り、試行錯誤を繰り返しながら配信モデルをブラッシュアップし、完成した3Dモデルのstlデータの配信を開始した。
7月11日、6名の学生が原爆ドーム前に集合し、3Dデータ配信サイトの告知と実際に3Dプリントした産業奨励館と原爆ドームのモデルに触れてもらう活動を行った。
最初は英語が苦手だと心配していた学生もいたが、一生懸命話しかければ一生懸命聞いてもらえることを実感。無事にミッションを終了した。
このような活動が注目され、広島市/広島市立大学より当時の原爆資料館のリニューアルにともなう「ひろしまにさわろうプロジェクト」の協力依頼を頂いた。リニューアルした原爆資料館に展示される産業奨励館、原爆ドームの 1/100ブロンズモデルの制作の協力依頼である。
一方、配信中のモデルは産業奨励館は設計図をもとに制作しているが、原爆ドームはその壁を削って制作したもでるであるため、学習用モデルとしては良いがその精度は展示クオリティを満たしていない。
4月29日のレーザースキャナを使用してスキャンデータを実体化したモデルは高精度モデルの制作が可能であり、追加のスキャンを行いそのデータを追加して高精度のモデルを作成することとした。
2015年10月22日、原爆ドーム内部を含む18か所のスキャンデータを新たに取得し、4月29日の6か所のデータを加えてスキャンデータ処理を行ったところ内部まで含めた高精細なスキャン画像を得ることができた。
原爆ドームスキャンデータはFARO SCENE 2019がVR対応したため、VRコンテンツとして開発を進め、2019年8月3日、ピースマッチ サンフレッチェ広島対コンサドーレ札幌戦に企画展示され、多くの来場者に内部探索を体験していただいた。