未経験から飛び込んだ陶芸の世界でモノづくりの夢、実現へ~地域おこし協力隊員・山口明日香さん
大堀相馬焼協同組合は、2018年度より浪江町地域おこし協力隊制度を活用して外部から人材を呼び込み、次世代を担う職人の育成を行っています。これまで1名が「卒業」して職人として自立を果たしたほか、現在2名が福島県内2つの窯元の下で修業しています。
そのうちの一人が、2022年1月に着任した山口明日香さん。陶芸は初心者でしたが、モノづくりの夢を諦めきれず、思い切ってこの世界に飛び込んだといいます。2か月後の3月4~6日に開催された恒例の「大堀相馬焼 春の新作展」では、人生初の作品出展を果たしました。
「春の花であるアネモネとミモザをモチーフにした器です。素焼きで作った模様の型をタタラ(板状の粘土)に押して成形しました。小皿はデザートプレートでもいいし、アクセサリーを乗せても。花びらのリアル感を大事にして作りました」
▲山口さんのインスタグラムより
こうしてみると、陶芸歴2か月にして既に山口さんの世界観が少し表れているような……。それもそのはず、山口さんは小さい頃から絵を描くのが好きだったそう。東北芸術工科大学では映像コースに在籍し、手書きのアニメ作品などを作っていたといいます。
しかし、当時の社会情勢もあって希望する業界への就職は厳しく、卒業後は「礼儀作法を学ぶ、くらいのつもりで」ブライダル産業へ。バンケット(結婚式などの宴会)関係の仕事に10年間携わりました。
「人見知りなので接客業は難しいかなと思ったのですが、やってみると意外に向いていると感じて(笑)。仕事はとても楽しかったです。でも、心の中にはずっとモノづくりの仕事への憧れがありました」
そこへコロナ禍が始まり、ブライダル業界は一変します。バンケット需要は蒸発。会社は生き残りのためテイクアウトにシフトし、山口さんは絵を描くスキルを活かしてチラシ制作などを担当したといいます。
「そうこうしているうちに、自分の中でやっぱりモノづくりがしたいという思いが強くなっていきました。私だっていつ死ぬかわからない。だから、やりたいことをやろうと決心したのです。会社の仲間も、応援するよと言って送り出してくれました」
▲大堀相馬焼 春の新作展2022での山口さんの展示
そこで、全国の伝統工芸の求人情報を探し始めた山口さん。ネットで大堀相馬焼の写真を見て、「そうだ、これは祖父母が愛用していた夫婦湯呑みだ」と思い出したそう。そんな出会いもきっと何かのご縁だったのでしょう。他の工芸品産地もいくつか検討する中で、2021年夏には福島県主催のインターンシップ・プログラムに参加し、大堀相馬焼の窯元で2週間、陶芸を経験します。
「そのとき、こんないい人たちに教えていただいて、こんな環境で働けるなら一生に一度のチャンスだと感じました。ただ、浪江町の地域おこし協力隊の募集は陶芸経験者が条件だったので、私には無理と思っていたら、やる気があるなら是非おいでと窯元さんたちが言ってくださって」
その期待に応え、山口さんは勇気をもって大堀相馬焼の世界に飛び込んだのでした。
▲山口さん(左)と、同じく浪江町地域おこし協力隊として職人修業中の村田あいりさん。
「未経験からの出発なので、まだまだ私にできることは限られていますが、教えてもらうだけでなく個人的にももっと勉強して、産地に貢献していきたいです。職人というとロクロを回すイメージが強いと思いますが、陶芸はそれだけではありません。いまは主に釉薬の勉強をしていて、箸置きなど簡単なものから施釉の作業をやらせてもらっています。こんなに地元で愛されている焼き物ですから、ぜひ後世に伝えていけるよう、しっかり知識と技を身に着けたい」
現在は、錨屋窯(白河市)と松永窯(西郷村)で2週間ずつ研修を重ねる日々。「毎日が楽しい」という山口さんの、来年の新作が楽しみです。
(2022年3月取材)