薄紫色の花束を、君に
時系列では春田が上海に発って一か月後くらいの話です。まだまだ楽しさの方が淋しさより勝ってる頃。MVが発表された当時に即興で書いたものです。Revival-おっさんずラブEdition-配信記念に。※全年齢
「誘いたいたいヤツが居るんスよ、いいスか」
「うん、いいよ。全然。誰?」
「え?誰って、あれですよ。もしもし牧?今着いたとこ。どこ?うん、うん、俺はスキマスイッチっていうバーに来てる。ほら、駅ビルの地下の。うん、そうそう、マスターたちに紹介したいからさ、牧もおいでよ。うん、じゃあまた後でねー」
春田は電話を切るとマスターたちに向き直った。
「ちょうどこれから家に帰るとこだったらしくて、今から来るそうです。ほら、一度会ったじゃないですか。俺とサンドイッチマンやってたヤツです」
『ああー!』
二人のマスターが同時に頷く。
「牧 凌太って言うんですけどね。実はー俺ら婚約したんです」
「マジかー?」
「おめでとう!!」
「いゃぁ~えへへへ。まだ、式とか指輪の交換とかなーんも出来てないんスけどね。それが今、俺、上海勤務なんですよ~。だから今日は一時帰国しただけなんスけどね、一度マスターたちにふたりできちんとご挨拶しようと思って」
「そうかぁ〜嬉しいなぁ~。それなのに遠距離なのか。そりゃ寂しいな。お、そうだ!春田、いいもんやるよ」
ヒゲを蓄えたマスターはそう言うと、小さな花束を取り出した。
「おーいいねぇ」
と、もうひとりのマスターも賛同する。
「え?なんスか?それ」
「これはシオンっていう花なんだけどさ、花言葉は『遠くに居る君を想う』っていう意味なんだ」
「へぇー!俺たちにぴったりじゃないですかー?!」
「だろ~?だからこれを彼氏にそっと渡しなよ。きっと喜ぶと思うよ?」
「アザース!そうっスね。牧、植物が好きなんで、花とかもよく飾ってるんですよ」
◇ ◇ ◇
「あーもう!春田さん、ちゃんと靴揃えて上がって下さいよー」
「うぉぉぉい帰ったぞぉー!!」
「あははは、この酔っ払い~。マスターたちのバー、かっこよかったですね」
「だよなあー?!わんだほうもいいけどさ、たまにはあんな店もいいよな、ちょっと隠れ家的な感じ?」
「ふふ、そうですね。あ、春田さん、疲れたんじゃないですか?先に風呂入っていいですよ」
「お!サンキュー。その前に喉乾いたわ。ちょい、水、水っと」
そう言ってキッチンを横切ろうとした春田は、テーブルの上に飾られている花を見つけた。それは牧が活けたもので、春田がマスターたちからもらった薄紫色のシオンだった。
(牧も同じものを…)
春田はそれには気づかない振りをして「じゃーお先ー」と風呂場へと消えて行った。
翌朝、牧が花瓶いっぱいのシオンの存在に気がつくのは、あと数時間先のお話。