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見えるのに、見えない

ツーリングでは、訪れた都道府県の中で、どこか一か所は必ず観光することにしている。でも、大阪は難しかった。マップルを見ても、食いだおれと、買い物ばかりで、ツーリングで観光するようなところは載っていなかった。加えて、大阪ではバイクが迫害されていた。信貴生駒スカイラインも、箕面ドライブウェイも、二輪は終日通行止め。平日も休日も時間帯も関係なく、バイクはダメ。ずいぶんな塩対応だ。やっと探し出した磐船神社の岩窟めぐりは、バイクは良くても、御一人様での観光はNG。
なんやねんそれー。行くとこないやんけ、わーれー。
結局、妥協した結果が、太陽の塔だった。高速道路で西の方に向かうときに、吹田ジャンクションから見えるアレ。アレ、いつも、通りがかりに、ちらっと見るだけだから、ちゃんと見てみることにした。昔は、エキスポランド、という遊園地だったけど、遊園地はずいぶん昔に閉園して、今は普通の公園になっているはずだった。そこにちょっと寄って、大阪を観光したことにしようとした。
と思ったら、公園は有料だった。大阪、がめついわぁ。有料で、開園は九時半から、ということに、ルートを立ててから気が付いた。気が付く前に、朝早い、人が少ない時間にちょっと寄るだけのルートを立ててしまった。ここまでやって、今さら、太陽の塔をちらっと見るために、ルートを考え直す気にはなれなかった。ストリートビューで見ると、太陽の塔は、正面ゲートの真正面にあった。正面ゲートの左横が鉄柵になっていて、そこからでも、十分見えそうだった。太陽の塔の造形を心行くまで眺められれば、それで満足なので、鉄柵越しでもよかった。そこから太陽の塔を見たら、それで、大阪は観光した、ということにしよう。観光対象をストリートビューで先に見てしまっていることからも、太陽の塔にかける意気込みは伝わるかと思う。見えたらええねん。見えたら。
 
吹田インターで高速を降りて、万博記念公園駅の前の駐輪場にバイクを止めた。
正面ゲートに向かう歩道橋を渡るとき、正面に、太陽の塔が見えた。いつ見ても、インパクトのある造形だ。てっぺんの金色の仮面のような顔と、塔の中心より少し下にある不機嫌そうな顔は、どっちがメインの顔なのか。不機嫌そうな顔の横から、上に向かって伸びる左右のとがった部分は、子供のころは、腕だと思っていたけれど、今見ると、角のようにも見えた。今にも動き出しそうだけど、どうやって動くのかは、想像できなかった。
そんな太陽の塔をよく見ると、あちこちにひびが入っていた。左右の腕というか、角というか、あの部分は、根元から折れてしまいそうだった。もともと、万博のための展示物で、長持ちするようには作っていないので維持が大変だ、と、どこかで聞いたのを思い出した。
そんなことを考えながら歩いているうちに、正面ゲートに到着した。あとは、左側の鉄柵の隙間から、太陽の塔の全体像の写真を撮るだけだった。これで、大阪は観光したことになる。
そのはずが、いい写真が撮れなかった。左側の鉄柵のところから太陽の塔を見ると、公園の中に植えてある木が邪魔で、太陽の塔が半分くらいしか見えなかった。とりあえず、写真を一枚撮った。
じゃあ、と、正面玄関のゲートから、のぞき込んでみた。今度は、ゲートの屋根の部分が邪魔で、上半分が見えなかった。とりあえず、写真を一枚撮った。
正面玄関の右側にも、幅が狭い鉄柵があったので、そっちに回ってみた。
こ、これは…!
こっちも、木が邪魔で、全然見えなかった。こっちの鉄柵は、幅が1メートルくらいしかないので、太陽の塔を見る角度は、一つしかなかった。その、鉄柵と太陽の塔を結ぶ直線上に、木が一本だけ植えてあった。この一本が、見事なほどに、太陽の塔を隠していた。緻密、ともいえるほどの、計算された植栽だった。とりあえず、写真を一枚撮った。
3枚の写真を合わせたら、太陽の塔、全部見たことになるんちゃう?もうこれでええわ。大阪観光したことにしとこ。

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