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H君

H君は、大学の時に仲の良かった十人ぐらいの友達グループの一人だ。大学を卒業しても、そのグループの友達とは、毎年、同窓会をしている。でも、飲み会の場所は、たいてい、大学があった京都で、奈良に住んでいるH君は、大学卒業後の最初の数回だけ来て、それから、飲み会には来なくなった。そのうち、友達同士の連絡方法がLINEになると、飲み会の連絡もできなくなった。
今回、ツーリングで奈良に行く、と決めたときに、すぐにH君のことが思い出せたのは、毎年、年賀状に住所を書いていたおかげかも知れなかった。年賀状の住所は、手書きです。年賀状ソフトが、うまく使えないんだ。
住所さえわかればなんとかなるのは、2年前に九州にツーリングに行ったときに学んだ。手紙に、メールアドレスと、電話番号を書いた。20年以上、年賀状しか来なかった相手から、いきなり封書が届くと不安になるだろうから、九州の時と同じように、驚いたと思うけど大した用事じゃないから心配しなくていい、と、手紙の最初に書いた。
四日後にSMSで返事が来た。返事には、驚いた、と、書いてあった。
 
約束の時間の10分前に、ホテルのロビーのソファに腰を下ろした。H君は、5分後に現れた。前回会ったときと、見た目は全然変わっていなかった。
とても久しぶりに会うH君は、見た目も、話し方も、全然変わっていなかった。勝手な思いつきで急にやってきた私を見て、ずいぶんと喜んでくれた。学生の時よりもたくさんしゃべるようになった、と思ったら、久しぶりの再会に、少し興奮していたみたいだった。けっこうなピッチでお酒を飲んで、一時間後には、しっかり仕上がっていた。楽しそうに、いろんな話をしてくれた。
H君は、いろんな話をしてくれたけど、断片的だったので、細かいところはよくわからなかった。しばらく会わない間に、いろいろあったらしい。大学を卒業して25年も経てば、その間に、就職して、結婚して、子供ができて、子供が家から出ていく、くらいのことがある。そりゃ、いろいろあるだろう。細かいことがわかってもわからなくても、H君は、その間に、見た目も、話し方も、あまり変わっていなくて、今は、子供が二人いて、諸事情により転職して、今は、某お菓子メーカーで働いている、というのがわかった。それだけ分かれば、十分だった。
大学の友達のグループLINEにも招待した。今でも、年に一回は飲みに行っている、と言ったら、すごく驚いていた。H君は、驚いたあと、子供も大きくなったし、仕事も、少しは落ち着いてきたし、と、付け加えた。この次に会うのは、20年後、ということは、なさそうだった。
 
次の日、ツーリングの途中で、コンビニに寄ったときに、アイスクリームのケースを見たら、某お菓子メーカーのアイスキャンデーがあった。もちろん、買った。アイスキャンデーを食べるなんて、何年ぶりだろう。おいしかった。体が涼しくなって、夏のツーリングには、ぴったりだった。でも、久しぶりのせいか、量が多かった。
H君、ハーフサイズを開発してくれないかな。

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