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絶滅危惧種

昨日、大和郡山市で一緒に飲んだH君に会ったのは20年ぶりだったけど、今日、宮津市で一緒に飲むT君も、会うのは20年ぶりだ。
H君は、連絡先が住所しかわからなかったので、こちらの連絡先を伝えるのに、封書の手紙を送った。ハガキに、電話番号やメールアドレスといった個人情報を、むき出しで書くのが不安だったからだ。でも、T君は違った。今年、彼から届いた年賀状には、ケータイの番号が普通に書いてあった。
私が心配しすぎなのか。T君が無防備なのか。とにかく、T君が、個人情報やITに疎いのは、間違いなかった。だって、T君、ガラケーしか持ってない。しかも、会社支給。つまり、彼は、自分のケータイを持っていません。しかも、家にwifiもない。つまり、彼は、家がインターネットにつながっていません。もしかして、と、思った人、正解です。家には、PCもない。家族は文句言わないのか、と聞いたら、奥さんと、子供は、スマホを持っている、って言ってた。
家がインターネットにつながっていない、というのは、衝撃だった。印象としては、風呂は薪で沸かしてんのか、とか、洗濯板で服を洗ってんのか、とか、そんな感じだった。大学の時の彼は、どちらかというと、真面目でおとなしい方で、ワーワーうるさい私や他の友人を、ニコニコと見ているような人だった。20年の間に、こんなに立派な、どこに出しても恥ずかしくない変人になっていたとは。家にインターネットがないんですよ。これは、変人でしょう。よく生活できるな、と、思うけど、本人は、何の不便も感じていないようだった。便利を知らなければ、不便はわからない。
しかしな、T君、普通はスマホを持っていて、普通にLINEのアカウントがあるものだ。君以外の大学の時の友達はみんな普通だから、LINEでグループを作ってあって、同窓会の連絡も、すぐにできるんだ。これが、便利、というものだ。でも君は普通じゃないので、会社支給のガラケーしか持ってなくて、LINEのアカウントもない。これから、毎年、君にだけ、SMSで同窓会の案内を送らないといけないわけだ。これが、不便、というものだ。
でも、25年前、大学を卒業して初めての同窓会で幹事をしたときは、みんなにEメールを送り、メールアドレスがない人には電話をした。携帯電話を持っていない人は、実家に電話して、折り返し連絡してくれるように頼んだ。私も、当時は、携帯電話を持っていなかった。それと比べれば、SMSを送るだけなんて、とても便利だ。でも、今は、これを、不便、と言ってしまう。果たして、普通じゃないのは、T君なのか、我々なのか。
そう考えると、今の時代にスマホを持たないT君が、貴重な絶滅危惧種に見えてきた。最初に彼がスマホを持っていないという話を聞いたとき、最近はスマホも安くなっている、というようなことを、T君に言ってしまった。T君は、大学の時と同じように、ニコニコと笑っていたけど、返事はなかった。だから、スマホの話は、それで終わりにした。今思い返すと、危険な行動だった。絶滅危惧種は、保護しないといけない。
しかし、家にインターネットがなくて、スマホもPCがないとなると、家では何をしているんだろう、と、不思議になった。T君からしたら、お前はインターネットで何をしているんだ、という話だろう。どうでもいいことしかしていない、としか、答えられない。時代に踊らされているのは、きっと、こっちのほうなのだ。インターネットがなくても生きていける現代の仙人のような彼なら、迷える子羊の私に、目の覚めるような啓示を与えてくれるかもしれない。
T君、あなたは、普段、家では、どのように暮らしておられるのですか?
答えは、ツタヤで海外ドラマを見まくっている、だった。今は、スパナチュ、って言ってました。
 

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