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【133話】【ネタバレ】俺だけレベルアップな件【翻訳】

「凄惨な光景ですね」

「建物を壊して、木は根こそぎ抜いてしまい···まるで人間の痕跡は全部消そうとするように歩き回っています」

ヘリコプターからレポーターが、眼下で暴れ回る巨人たちを見て唖然としていた。

「何よりも···人間を食う」

「そ、それなら私達も···!」

「手に届かない高さにいれば、先に攻撃しない限り安全だよ。 複数回の観察で確認された事実だから信憑性は高い。
それより、巨人たちの中で一番巨大なアイツ。他の巨人たちは四方に散らばったのに、一人でゲートを守っているんだ」



「誰かを待っているのか···ゲートを死守しよとしているのか。理由は誰にも分からないけど」

カメラマンがレンズに巨人を捉えながらつぶやいた。

「僕の個人的な感想ですが…あいつ、生きている感じがしません。
確かに呼吸もして、動きもしますが···プログラムに合わせて動く機械のようです」

「機械か···本当に機械だったら砲撃が通じるのにな。ゲートから出てきた巨人31頭のうち2頭だけ討伐に成功した。ダンジョンブレイクは何日目だろう? 」

「二日目ですね。」

「果たしてこの地が全壊する前に防げるのか···」

レポーターが絶望の色を含んだ声を出す。
巨人が通った後のビルは至る所から火の手が上がり大きく破壊され、ほとんどの窓が割れて亡くなっていた。



「え!?DFNに行くってことですか?」

賢太は目を剥いて声を荒げた

「報道をご覧になったじゃないですか!架南島とは規模が違います!あんな超大型魔獣は見たこともありません、兄貴!」

机から体を乗り出して必死に訴える賢太に対して、旬は落ち着いた声で応えた

「成功すれば、我進ギルドの名を売るチャンスだ」

「それはそうかもしれませんが…」

(いつも信じてついてきた賢太さえ心配するのか…もっともあの惨状を目にしたら無理もない…)

「分かりました、兄貴。
私もついていきます!!」

「え!?」

「レッドゲート事故、架南島レイド、 そして最近起きた二重ダンジョン事件まで。 兄貴はこの記事たちに共通する点が何かご存知ですか? 」

「そうだな…」

「僕がどこにもいないということです、兄貴!」

賢太はさめざめと泣きながら一冊の分厚いスクラップブックを開いて掲げた。
スクラップブックには旬の活躍に関する記事の切り抜きがきれいに貼り並べられていた。

「僕が人前で堂々と自慢できることは、兄貴のそばを守ることだけです! 自分の口で言うのは恥ずかしいですが、 兄貴は僕の自慢なんです! 」


賢太は更に泣きながら訴える。

「どう考えても財閥二世の口から出る言葉じゃないな…」

「だから僕も兄貴のいらっしゃる所にいたいです。 必ず連れて行ってください!」

「ついさっき止めたのはどの口だ···俺がどこへ行くって言ったか忘れたのか」

「僕は兄貴を信じます。 だから兄貴が無事なら、僕も無事ってことです」

旬は一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、すぐに視線を逸らした。
その口元が綻んでいたことを賢太は見ていない。

「冗談だよ。この時期に日本に行くわけないだろ?」

「兄貴?」


「今日はもう退勤するよ。お疲れ様」

「兄貴!」

旬は振り返ることなく事務所から出ていった。

夕暮れの中を自宅に向かってゆっくりと歩く。

(影の兵士こそ使えなかったが···設計者はレベル100を超えた俺と同レベルの強さだった。
俺の強さをを上回る奴らは、思ってるよりずっと多いってことだろう)

(世の中は広い。俺より強い存在はまだ十分いるだろう)

(俺が行かなければ解決できないという考えは捨てたほうがいい。 僕は英雄じゃないし。 )

自宅のアパートの扉を押す

「ただいまー」

「旬帰って来たの?夜ご飯食べるでしょ?」

(選択···)

「葵は?」

「食欲がないみたい」

(そうだな、選ばないと)

母の料理を前にして、旬は諸菱会長とのやりとりを思い出していた。
金額の書かれていない小切手を差し出された旬は、それをすぐに突き返した。

「申し訳ありません。残念ですが、私にできることはありません。

「ではお母様はどうやって完治されたのですか?」

「会長。私がもしその理由を知っていて、それでお金を稼ぎたかったら、今まで黙っている理由があると思いますか?」

「···わかりました」
納得した様子ではなかったが、諸菱会長は肩を落として一言そう言った。

「では、これで失礼します」

エレベーターの扉が閉まると同時に、旬の口から思わずため息が漏れた

「ふぅ…でも賢太のお父さんなのに···」

(でも俺は彼を知らない。 諸菱会長がどんな人なのか、彼が本当に病を患っているのかどうかさえ…)

(命の神水は残りの個数に限りがある。 だからもう少し慎重に使うしかない)

(提示した条件は破格だったが···心が動くことはなかった。 もし今が全てを選ばなければならない時なら、俺は….)

「お母さん、俺行ってきます」

母が作った料理を口に運びながら、台所に立つ母の背中に向かって静かに言った。

(俺より強い人はまだいくらでもいる。 だが···俺がレベルアップし続ければ…)

(強くなるために戦場に向かわなければならない)

「あなたのお父さんも火事の連絡を受けると、ご飯を食べている途中でもかまわず飛び出していったりしたわ」

こちらに背中を向けている母の表情は分からない。

「ご飯の後、荷造り手伝ってあげる」

食事の後、旬は布団にくるまっている、葵の真っ暗な部屋を開けて声をかけた。

「葵、寝てる?」

「うん」

「ちょっと話そう」

「 私寝ないと」

とりつく島もない返答を気にすることなく、葵のベッドに腰掛ける。



(どこから話せばいいのか···)

「兄ちゃんさ、最近死ぬところだったんだ」

「……」

言った後に、友達を亡くした葵にむかって何てことを言ってしまったんだと焦った

「いや、そうじゃなくて············いつも死にそうにはなってたけど
「今回は本当に死ぬかもしれないな」と思ったというか。
ちょっとだけ危険だったんだ」

「とにかく生還できた。 家に帰るたびに、生きて帰ってきた瞬間がありがたくて大切に思う」

「だから、今回も戻ってくるよ」

背中を向けて丸まっている葵の頭を優しく撫でる。


「ありがとう」

予想外の言葉を聞いて葵の瞳に涙が溜まっていく。



「今まで俺に行くなって言ってくれなかったからさ」

「どうせ行くんじゃん」

「うん、行ってくる。 安心しろ。遠くいても兄ちゃんが守ってやる」

そう優しい言葉をかける旬の影から、昆虫特有の鋭い牙を持つ影が現れた。

全国民に向けた後藤会長と旬の会見の後、記者団の激しいフラッシュが焚かれる空港を大きな荷物を持って歩く青年がいた。
見慣れたその姿にため息を吐く旬

【水篠旬S級、我進ギルドマスター】

【諸菱賢太D級、我進ギルドサブマスター】



2人は巨人が暴れ回るDFNへと飛び立った

※今回は飛んだご褒美回でしたね!
旬の後ろ姿のエロいこと……その腰のラインけしからんすぎ。

それに葵の頭なでなで!!!

さて、次回は7日0時更新予定ですね!
皆様良いお年を!

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