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絶景温泉200#10【杖立温泉の鯉のぼり祭り】
新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。
第10回は、杖立温泉の鯉のぼり祭り(熊本県)。
期間限定の絶景である。温泉街を貫くように流れる川の上に、おびただしい数の鯉のぼりが泳ぐ。こどもの日(端午の節句)に合わせて開催される「鯉のぼり祭り」である。
舞台は熊本県と大分県の県境、阿蘇郡小国町に湧く杖立温泉。開湯1800年の歴史を誇る温泉地だ。杖立川沿いに、大型ホテルから湯治宿までバラエティーに富んだ16軒の宿が並ぶ。
100℃近い高温の源泉が湧くことでも知られ、温泉街のいたるところから、白い水蒸気が勢いよく立ちのぼっている。その風景は「ああ、温泉に来たなあ」と湯の街の情緒とともに、どこか懐かしさを感じさせる。
狭い谷間に形成された温泉街なので、平坦な土地が少ないのも特徴だ。そのため、駐車スペースは河川敷につくられているほか、斜面に屋根を重ねるようにして建物が軒を連ねている。
迷路のような路地が多いのは増築を繰り返してきた結果だろう。ちなみに、この町並みは「背戸屋」と呼ばれる。昭和の香りが残るレトロな建物や看板を見学しながら、細く入り組んだ小路を散策するのも楽しい。
杖立温泉は、バブル時代までは歓楽温泉街として栄えてきたが、同じ熊本県内の黒川温泉が脚光を浴びるのとは対照的に、衰退する傾向にあった。しかし、今では昭和レトロな温泉街の鄙び加減が脚光を浴び、再び人気を呼んでいるという。
杖立温泉の名前は、旅の途中で立ち寄った弘法大師(空海)が持っていた竹の杖に由来するとも、「湯に入りて 病なおれば すがりてし 杖立ておいて 帰る諸人」という弘法大師の歌に由来するともいわれている。杖をついてやってきた人が、温泉に入ることで病が治り、杖なしで帰る。それほどに効能が高い湯というわけだ。
普段の温泉街の風景も味わいがあるが、「絶景」が現れるのは端午の節句を挟む4月から5月にかけてである。名物の「鯉のぼり祭り」が開催され、杖立温泉が最もにぎわうシーズンだ。
温泉街を流れる杖立川をまたぐように3500匹以上の鯉のぼりが気持ちよさそうに泳ぐ光景は、圧巻のひと言に尽きる。特に、小さなお子さんがいる人にはおすすめである。
「鯉のぼり祭り」の歴史は古く、1963年までさかのぼる。河川の上に鯉のぼりを泳がせるイベントは全国で見られるが、杖立温泉はその発祥地だといわれる。元祖ゆえに、その規模や迫力も群を抜いている。
杖立温泉は、硫黄の香りとツルツル感が特徴の透明湯。まろやかな塩味も確認できる。
100℃を超える源泉から、「激アツのハードな湯」というイメージかもしれないが、意外と肌になじむソフトな湯で、長湯も苦ではない。古くから「美人の湯」と呼ばれるのもうなずける。
鯉のぼり祭りは、例年4月初旬からGWまで開催されている。川に面した部屋であれば、夜にライトアップされた鯉のぼりも含め、一日中絶景を拝むことができる。早めに宿を予約して出かけたい。
【写真は、杖立温泉観光協会の公式サイトからお借りしました】
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