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絶景温泉200#13【指宿温泉・砂むし会館・砂楽】

新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。

第13回は、指宿温泉の砂むし会館・砂楽(鹿児島県)

鹿児島県・薩摩半島の東南端に湧く指宿温泉は、そのロケーションから南国の雰囲気が漂う。1960年頃から始まったハネムーンブームでは、「東洋のハワイ」と呼ばれていたとか。

「指宿温泉」は指宿市東部にある温泉群の総称で、海岸沿いに大型の温泉旅館が建ち並ぶ「摺ヶ浜温泉」がその中心である。

摺ヶ浜は長さ約1kmに及ぶ砂浜だ。ここで指宿の名物ともいえる温泉に「埋まる」ことができる。そう、温泉に浸かるのではなく、砂浜に「埋まる」のである。

公共の入浴施設「砂むし会館・砂楽」では、天然の砂蒸し風呂を体験できる。

脱衣所で浴衣に着替えたら、外の砂浜へと降りていく。砂浜には、すでに30人くらいの客が頭だけを残して埋まっているのが見える。目の前には、オーシャンビューが広がり、すぐ近くまで波が押し寄せている。海風も心地よい。ロケーションは最高である。

そもそも、砂蒸し風呂とは、温泉によって加熱された砂に埋まる入浴方法。実は、摺ヶ浜の下には、後背地の山の手を泉源とする90℃を超える温泉が流下しており、自然湧出している。だから、砂浜を数十センチ手で掘るだけでも、じんわりと熱い温泉が湧き出してくるのだ。自らの手で温泉を掘れば、大地のパワーを体感することができる。

シャベルをもった係員のお兄さんの指示にしたがって、浅く掘った砂の上に浴衣姿のまま横たわる。お兄さんが少しずつ砂をかけてくれて、とうとう頭以外がすべて砂の中に埋まってしまった。

想像していたよりも砂はずしりと重いが、全身を指圧されているようでクセになる気持ちよさ。砂の熱さも恐れていたほどではなく、普通の湯船に入っているときよりも体への負担は感じない。

体の芯から徐々に温められていくので、汗も一気にではなく、じわじわと噴き出してくる。サウナと違って、呼吸が苦しくないのもありがたい。想像していたより、砂蒸し風呂はずっと気持ちいい。

砂浜に埋まりながら太平洋を望む。ここでしか体験できない絶景である。大地に抱かれているような気分で、目の前に広がる水平線と真っ青な空をぼんやりと眺めていると、自然と心もリラックスしてくる。しかも、さざ波と海鳥の鳴き声がBGMとなり、眠気を誘われる。

指宿の海岸はウミガメの産卵地としても知られている。摺ヶ浜に近い長崎鼻という岬には浦島太郎伝説が伝わり、乙姫様を祀った龍宮神社も鎮座している。「ウミガメも温泉で温められた海岸を気に入って卵を生みに来ているのかもしれないなあ」とうつらうつらとした頭の中で考えていたら、いつのまにか夢の中へ吸い込まれてしまった。

普通は15分ぐらいが目安らしいが、30分ほど砂蒸しを楽しんだ。だらだらと流れだした汗が砂にしみこんでいくのがわかる。ゆっくりと体を起こすと、火照った体に海風が吹きつける。その清涼感は、通常の温泉では体験できないものだ。「サウナのあとの水風呂が気持ちいい」という人の気持ちが少しわかったような気がした。

※トップの写真は、砂むし会館・砂楽の公式サイトからお借りしました

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高橋一喜|温泉ライター
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