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「温泉ワーケーション」は新しい湯治スタイルである

私が提唱する「温泉ワーケーション」の定義は、連泊を最低条件としている。

1泊2日でもワーケーションを実行することは可能だが、時間が限られるので、仕事も温泉も中途半端に終わってしまう。移動ばかりで疲れて帰ってくるようでは、せっかく温泉に出かけた意味が半減してしまう。

「温泉ワーケーション」の期間は長ければ長いほど理想的だ。長期間にわたって湯船につかることで、温泉効果を十分に享受できるからだ。これこそ湯治文化の新しいスタイルである。

長逗留は日本の温泉文化

日本には「湯治」という温泉文化がある。

湯治とは、温泉地に長期間滞在し、療養・保養すること。かつては百姓や漁師などが重労働で酷使した体を温泉で休める文化があり、今も地方の温泉地に行くと、長期間温泉地に滞在し、湯治に励む人たちがいる。

現代のように医学が発達していなかった時代は、温泉が医療の役割の一部を果たしていた。温泉に入浴したり、飲泉をしたりすることで、心身の回復を図ってきたわけである。

戦国時代の武将も温泉を大いに重宝した。戦で傷ついた大切な将兵が療養するための場所として温泉地を活用した。武田信玄の「隠し湯」などが有名である。

また、天下を治めた徳川家康は熱海の温泉を愛し、7日間の湯治をしていた。豊臣秀吉も有馬温泉(兵庫県)を頻繁に湯治に訪れたという記録が残っている。

江戸時代、豊後岡藩の領地だった長湯温泉(大分県)には、第5代藩主の中川久通が何度も当地へ赴き、湯治をしている。よほど長湯の湯がお気に入りだったようで、「またまた長湯へ」と記述した記録が残っている。

今のように交通手段が発達していなかった時代だから当然だが、一度、温泉地に出向いたら、長く逗留して心身を休めるのが常識だったのだ。

湯治は「1週間」単位

湯治を象徴する言葉に、このようなものがある。

「七日一回り、三回りを要す」

つまり、湯治は1週間を3回、21日という長期間にわたって滞在するのが常識であった。

「温泉に入ると体調がよくなる」というイメージをもつ人は多い。だが、現実をいえば、1泊、2泊の湯浴みから得られる効能は限られる。1週間単位で温泉に入り続けることで、温泉の効能は享受できるとされている。

もし短期間の温泉旅行でも体調がよくなったのであれば、「転地効果」である可能性が高い。要は、非日常の空間に身をおくことで、気分がリフレッシュされたにすぎない

「湯治」と「温泉ワーケーション」の共通点

湯治は働かずにひたすら体を休めるのが目的ではあるが、長期間にわたって「バケーション」を楽しむという点においては、「温泉ワーケーション」と共通している。

私が温泉ワーケーションを実行する際は、できるだけ長期間滞在できるようスケジュールを調整する。理想は1週間、最低でも4泊は滞在したい。本音を言うと、予算と仕事のスケジュールの問題がクリアできれば、2週間くらい滞在したいくらいである。

一日に数回、温泉につかる生活を続けていると、疲れていた体の各部位が本来の機能をだんだんと取り戻し、それにつれて気力も充実してくるのを実感できる。

1泊2日の物見遊山の温泉旅行は効果がないとはいわないが、温泉の本当の効能というのは、連泊することでようやくあらわれるものだと思う。

湯治文化を受け継ぐ新しい入浴スタイル

昔ながらの湯治文化は廃れる一方である。湯治宿もどんどん廃業をしていく。今も湯治を習慣にしている人は、おもにお年寄りにかぎられる。

だが、せっかくの湯治文化がこのまま廃れていくのはもったいない。ビジネスパーソンが主役となる「温泉ワーケーション」は、湯治文化を受け継ぎ、新しい温泉文化となる可能性を秘めている。そう期待せずにはいられない。

現実には、1週間以上「温泉ワーケーション」ができる立場のビジネスパーソンはかぎられるだろう。まずは、3泊でも4泊でもいい。近年は若い世代に向けて「プチ湯治」という短期の湯治プランを提供する温泉地もある。

まずは、いつもより長逗留をして温泉に入り続ける効果を体験してみてほしい。

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