飲食店大進化論Ⅱ投稿集202306
初来店のお客様は美味しいかどうか分かるはずもないから、とにかく「この店よさそう」と感じてもらわなければ端から土俵に登れない。「あれもこれも何でもあります」では個性が死ぬから、何かひとつコレという傑出した強みを打ち出そう。コロナ禍以降はこの傾向が顕著になっている。
見た目のインパクトやマスコミで取り上げられる情報は誰にでも分かりやすい要素だが、調理技術や手間ヒマのかけ方などは殆ど分からない要素だ。
多くの料理人は微妙なサジ加減が評価につながると信じているが幻想にすぎない。提供側で考える美味しさと食生活の中で感じる美味しさは違う。
料理はきっかけにすぎず食事客は幸せ感を求めて飲食店に来ている。空腹を満たしたいのだけならば他にも選択肢がある時代だ。あえて外食してくれるには相応の理由があるので、そこを見誤ると再来店意欲が萎えてしまう。単に美味しい料理を提供して終りの店には顧客生涯価値(LTV)が生まれない。
初来店の前と後では飲食店のアプローチが異なる。行く前は店での食事を思い描いてワクワクさせられるかどうかが鍵だろう。
ワクワク感はずっと続くわけがないから、店での食事をライフスタイルに組み込んでもらうためのコミュニケーションが継続の力になる。そのために飲食店はコト体験を研究する必要がある。
来店前の高揚感と来店後の継続フォローで新時代を開くのがNFTレストランだ。NFTとはブロックチェーン上で管理できるデジタル資産。
アナログな人から見れば関係ない話だろうし、投資絡み故の胡散臭さがつきまとうが店には便利な面が多い。将来に向けて準備を始めれば店舗力が強化される。
ブロックチェーン上のNFT技術はデジタル資産に紐づけることで鑑定書の役割を果たし所有権証明が可能になる。
購入すると価値のあるコンテンツを自分のものにできる仕組みで、メンバーシップカードなどと異なり、NFT会員制は第三者へのリースや転売が可能だから資産として現金化できるところに注目したい。
絵画や音楽の分野でデジタル作品のオリジナル性証明が可能になったと話題になったNFTだが、食関連では開発レシピを味データ/仕上がり画像/調理動画と一緒にフルオンチェーンで作品化したフードNFTが生まれている。
ラーメン店ではノウハウの知財化で暖簾分けへの応用が始まった。
自家農園野菜オーガニックレストランWeAreTheFarmは非公開の秘密基地実現にNFT会員制を活用した。ラグジュアリーな客席の利用権だけではなく、毎月の旬野菜配達と野菜収穫/醤油搾りや出張料理を組み合わせてファン層との関係性を強化している。飲食店を飛び出した総合化に着目したい。
寿司職人の技をNFT化したのが銀座渡利だ。こちらは会員オンリーではなく非会員も利用できる店なのだが、NFT会員だけ提供されるイベントに工夫がある。NFTは会員権のほかに寿司食べ放題イベント参加の年賀状も配布しており、更にはBBQや花見も企画しファンのコミュニティを育成している。
フライフイッシュクラブも一般客を受け入れているが、予約はNFT会員しかできない。また店奥に14席の特別室があり、おまかせ料理のライブパフォーマンスを堪能できるが、こちらは上位の特別会員のみしか利用できない。NFTはイーサリアムという暗号通貨で購入されるが、店での支払いは米ドルで行われている。
NFTは所有価値を備えたデジタルデータなのでコレクションから始まったが、現在最も盛んなのはコミュニティ運営型のビジネスだ。会員権にNFTを活用しNFTを持つ人だけが参加できるサービスを展開する。飲食店の売上を安定化するのはファンダムだろう。自店コミュニティの育成に役立てたい。
フライフイッシュクラブを運営するVCRグループはNFTの導入理由を以下とし、NFT市場で会員権が流通するほど店の価値が高まると説明している。
・より誠実な会員コミュニティが形成できる
・会員に新しい体験を提供できる
・新しい現代的な財務モデルを生み出し、
今後何年にもわたって持続可能な商品を提供できる
フライフイッシュクラブが発行したNFT会員権にはDiscordがもれなくついており、無料のコミュニティが交流チャンネルになっている。
店外ではZOOMを介したクッキングデモやワインテイスティング、パーティ形式での様々なポップアップイベントを展開しファンダムを育成。NFTで飲食店の域を超えたサービスの実現を目指す。
街おこしで生まれ変わったマルカンビル大食堂はステーブルコイン(仮想通貨の一種)を使い、全150種のメニュー画像に紐づいたNFTを各1種限定で発行している。 特典は会員割引の他、新作メニューの命名権や企画会議への参加権などで、お客様を巻き込む一体運営によるファン化を試みている。
コロナ禍で外食に求めるものが大きく変わった。コスト高を客数の量的拡大で埋めるには困難が伴う。飲食店はコミュ力でお客様の質的深化を図る必要がある。時代は着実にブロックチェーンへ向かっているが、今はピンと来ないとしてもお客様との関係性を高めていけば将来のNFT導入準備になる。
NFTを支えるブロックチェーンは分散台帳というデータ共有の技術だ。コピーを繰り返すだけだったネット上の情報に価値を移行できるようになった点が画期的で、イーサリアムの登場により管理者不在でアプリの構築や決済ができるようになった。既にリアルがデジタルに飲み込まれ始めている。
NFT化されるコンテンツは単なるコレクションの域を超えて多様化しつつある。アナログとデジタルの融合社会を実現する中心がデジタルアセットでありNFTはその代表格だろう。NFTはデジタルデータのオリジナル性を証明する技術なのでインターネットの住所から識別するドメインに似ている。
希少かつ高額販売されることが多いNFTはブランド力のあるB2C企業にコロナ禍で損なわれた顧客接点を補うデジタル販路として注目されており、デジタル完結でリアルへの干渉懸念が小さいからアナログ度合いの高い業界ほど社内軋轢が起こりにくく参入しやすいと言う。 飲食業の救世主になり得る。
飲食店側が持つ権利を切り出してNFTに紐づけ発行する仕組みなので所有者情報を書き換えるだけで権利移転できる。だからお客様側で自由にNFTを売り買いできる訳だ。NFTは希望価格にするかオークションにするかを選択して再出品されるので、店側にも評判を高めて価値を上げる必要が生じる。
NFTの購入にはまず資金を暗号資産でプールする必要がある。OpenSeaであれば暗号資産取引所に口座開設し暗号資産のイーサリアムを購入する。NFTを購入するにはウォレットが必要だからMetamaskに開設し暗号資産取引所から送金する。OpenSeaにウォレットを接続すればNFT購入の準備が完了。
自店NFTを発行するにはマーケットプレイスとウォレットに手数料がかかるので手数料用の暗号資産をウォレットに送金しておく。 作品を管理するコレクションという格納場所を用意したら、作成したコンテンツに情報を加えてNFT化し登録する。販売手続きが済んだらマーケットに出品できる。
NFTは親和性が高いゲームになぞらえるとイメージしやすい。
育成バトル系ではゲームにかけた時間もお金も情熱もプレーヤーの財産にしてNFT市場で売り買いができる「遊んで稼ぐ(P2E)」が実現した。以前はリアルに現金で垢売却(RMT)するだけだったが、今はゲーム内で手に入れた余剰取得データのみを売却が可能になっている。
NFTが飲食店の会員権をお客様の裁量で再販できるようにした。
売価は店の価値に左右される。高く売って稼ぎたければ店の価値を高める必要があるから、NFT会員権は単に店から与えられるものではなく社会的評価が高まるよう店と一緒に高みを目指すものになった。店側と客側の協力関係が求められるわけだ。
コロナ禍で思い知らされたが、日本には昔ながらの同調圧力が存在する。その一方でネット生活により多様性を実感してからは個性や自分らしさが大事になった。 流行りは試してみたいけれども以前ほど食べたいわけではない。自分にとって必要だという外食の意味づけが重要になってきている。
戦後復興の貧しい日本はモノ持ちが嬉しかった。高度成長でモノが溢れると所有に満足できなくなりコト消費の意欲が高まった。東日本大震災以降は消費に社会的な意味を重ねるようになり、SNS上にバエる画像が溢れるとコト消費の非再現性が重要になった。コロナ後の今はエモいに注目したい。
飲食店はお客様目線で提供内容を組み立ててみるというのが今も昔も変わらない運営のセオリーだが、美味しい料理という商品自体の魅力(機能性)だけではお客様を引っ張れなくなってきている。 コロナ以降は特に、買ったときに得られるであろうエモさ(共感性)に移ってきているからだ。
SNSへの画像アップは日常の一部になり、飲食店側も思わず共有したくなる話材づくりにしのぎを削っている。ちょっと前までは"バエる"が競われていたが、コロナ禍のイライラ感を経てからは更に一歩進んで幸せの記憶を呼び起こす"エモい"シチュエーションの提供が求められるようになっている。
ペルソナから"エモい"は探れない。 飲食店集客では商圏のターゲットやそのボリュームから一定の法則を導き出してきたが、多様な価値感で買う目的がバラバラになった社会ではリアルターゲットに購買理由を聞く必要がある。マーケティングは複数の利用動機を集め共通項を探り共感率を高めていく。
従来のマーケティングはトレンドに後れまいというお客様が固まっていたので投網を打てば一度に沢山捕まえることができた。しかし人が受け取る情報量は飛躍的に増えており多様化が進んでいる。個人個人の考えが異なるからこれからは金魚すくい方式で一人ずつ丁寧にすくい上げていくしかない。
コロナ禍を経て飲食店には不可抗力の環境変化に動じない強い事業体質が求められているから、お客様を巻き込んでお店とお客様の二人三脚による店づくりが急務になっている。
飲食店集客の労力は不確実な未利用客の認知促進に力を注ぐよりも、既存客のロイヤル化で“推しの店”を実現させるべきだろう。
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