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ある事故が同僚に起こった

私はあるオランダの美術館で決まった曜日の午後に週一度でボランティアを10年以上している。
前日美術館から連絡があり、この日は珍しく午前のシフトに入っていた。

自転車事故は普段から多い。



「みんな席についた? 今日はショックなお知らせ。実はプナル(仮名)が事故にあった。今、xxx市の病院にヘリで運ばれた。みんな知ってるようにあそこに運ばれた人は重体だ。大きな手術をする。彼は今昏睡状態だ」

どういうふうにプナルが事故にあったのかとか、ボスは大声で説明をしだした。

驚きで全員が静かに聞いてる中、「その人誰? 知らないわ〜」と言って大声をだしたオランダ人女性がいた。
みんな無視。
入って間もないのだろうけど、少しバカっぽい。
周りを見渡したらわかる、
みんな、私も含めて固まっている。

ボスは私を見て、「意味わかった?」と聞く。
えっ? あまり私と話したことがないので、長年通っていても私がどのくらいオランダ語を理解しているかわからないだろうとは思っていたけれど、この人はこういう時にそういう聞き方をするのだな〜と思う。慌てすぎだし無神経。

大丈夫わかってるから、と私は答える。
興奮しすぎていて顔が赤く、ボスの方が倒れてしまいそうで、むしろ心配になる。

事故に遭ったプナルは美術館のセキュリティで市の職員だ。
セキュリティで、市の職員になってる人は半分だ。
残りの半分は外部の警備会社からの派遣で構成されている。
と言っても、三回ほどインタビューがありそこをくぐり抜ける。

ただその人たちは他の職場もある。市役所とか、大手電気店とか。
プナルは、美術館だけが職場だ。市の職員なので待遇もいい。

プナルはトルコ人とオランダ人のハーフ。日本好きなので、私とも時々喋る。

それにしてもなんていうことだろう。事故か……!

今朝、オランダは雪が降り少し積もった

あっという間に積もる


3月の初旬なので今までもあったっことだから雪自体は大して驚くことではない。

ただ、オランダ人のほとんどはこういう日でも自転車だ。少々デコボコの道が滑っても必死で自転車を漕ぐ。人によっては電気自転車。

車の場合、ドイツと違い法律で冬タイヤが義務と決まってないので半数以上がつけてない。夏タイヤのままだ。事故が起きても夏タイヤの人が悪いわけではない。

冬タイヤをつけてる私からしたら、法律でつけるようにしてくれよ〜、と叫びたい。とにかく誰も彼もがトロトロ運転。私は、車で大破を冬しているので、冬タイヤをつけていてもトロトロだ。

そして、悪天候でなくても自転車の事故は普段から多いのだ。
だから、そのために学校で自転車の乗り方を教えたり、テストもある。
が、この国は移民、難民も多い。その教育を受けてない人もいる。

乱暴な運転に巻き添えを喰うことはある。私も、ぶつけられたことが二回はある。誰にでも自転車の事故はある。特に最近は多いらしい。

雪だからバスを使えばいい。


と、うちの夫は彼らが必死で漕ぐのを見ながら雪の日には言うのが常だけれど、長野出身の私からしてみたら、それは簡単ではないとわかる。

普段バスに乗らない人たちは、そう簡単に頭のスイッチを変えられない。雨だろうが、雨具を装着して自転車。雪の日も、どんなに雪が降っていても道がガタガタでも漕ぐのである。
毎日自転車だ! それは彼らの誇りのようなもののようにも見える。

ミーティングは始まりから終わりまで、ボスは彼の話をなん度も繰り返しする。

僕は彼ともう20年近く一緒に働いている、とそんなことも言う。オランダ人は普段冷静なので、彼のショックぶりの方に気を取られプナルのことも一瞬忘れる。一人になった途端に、プナルの家族の事を考えた。彼より背の高い奥さんと、まだ小さい幼子。想像するだけで心配になる。

この日の午前中、子供のグループや、中学生のグループが来て大変賑わったが、実は、私たち美術館のスタッフの心は、プナルの無事を祈っていた。(バカ女は多分違うけど)

休憩の時にはすでにキャンドルと、祈りを込めたカードがあった。私はそこへは書く気になれず、彼のことを考えながらお弁当をもしゃもしゃ食べた。

次の日、他の同僚と二人でお見舞い用のカードを買い、そのお店の片隅で、二人でお見舞いの言葉「Betershap」を書いた。私は日本語で。

書きながら、彼の姿が浮かんだ。柔道をやってる彼はよく私に、「イチ、ニー、サン」といいながら技をかける真似をした。

少し前に他のボスから彼の状況についての説明メールがある。
意識は戻り、一般病棟へ移ったようだ。

良かった
まだどちらかの半身が麻痺してる状況なので、障害が残らないようにおそらくこれからはリハビリなのかもしれない。

何にしても冬は凍りつく道路、雪、どちらにも気をつけなくてはいけない。

オランダに生きるということは、水との戦いとよく言われるけれど、冬との戦いも半端ない。






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