$2 Wave shaper & VCA module-DIY Eurorack Modular Synthesizer
モジュラーシンセサイザー のWave shaper & VCAを自作したので、その備忘録。
背景
自作モジュラーシンセの44作品目。
ダイオードクリップによるディストーションモジュールが欲しいと思って設計を進める中で、歪みをCVで制御できないかを考えていた。
「面白いダイオードないかな」とブレインストーミングをする中で、MOSFETの寄生ダイオードが頭に浮かんだ。
試しにMOSFETのゲート電圧にCVを入れてドレイン-ソースの電圧を確認してみたところ、面白い電圧特性を見つけた。
ディストーションには使えないが、他の用途がありそうだと思い、今回のモジュールを思いついた。
制作物のスペック
ユーロラック規格 3U 12HPサイズ
電源:なし!パッシブモジュール
Wave shaper機能
入力した音声信号の波形を変形し、倍音を変える。CVで変調できるので、LFOやEGを使う事で、音声の倍音に時間的変化を与えることが出来る。
VCA機能
入力した音声信号をクリップしていくことで、音量を下げる。CVで変調できるので、VCAとして使用できる。音調が小さくなるほど、クリップ量も増えるので、倍音も増えるのが特徴。
VCAとして使用する場合、スイートスポットが若干狭い。音声信号の出力インピーダンスが大きい場合、正常に動作しないことを確認している。おそらく出力側の分圧比率の影響を受けている。
また、音声信号がCV入力に対して大きい場合でも、正しく動作しないようだ。
VCAとしての機能は、おまけとして考えていただきたい。
全般
音声信号の入出力ジャックを入れ替えることで、Wave shaperとVCAの機能を切り替えることが出来る。
可変抵抗はCV入力の分圧に使用する。CV入力が無い場合、可変抵抗を回しても意味はなく、このモジュールも機能しない。
音声信号の入力は5Vp-pだと、スイートスポットを見つけやすいと思う。
CV入力は0 - 5Vを想定している。
音声信号電圧のフィードバックでクリップを発生さているため、入力電圧によっては思ったように動作しない可能性がある。その場合、電圧を増幅したり減衰したりして、スイートスポットを見つけると良い。
製作費
総額約200円以下
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フロントパネル 100円
MOSFET(2N7000L) 15円
可変抵抗 30円
ジャック 8円*3個
汎用部品は下記リンクを参照
ハードウェア
構成
MOSFETと可変抵抗の2部品のみ。
MOSFETは2N7000LというNchの汎用品を使用。2N7000のセカンドソース品なので、2N7000でも代用可能。
可変抵抗はCVを分圧して、MOSFETのゲート電圧を調整する。
動作原理(未検証)
今回のモジュール、なぜ動作しているのか、よくわかってない。
可能性としては2つあると予想している。
1.ゲート電圧Vgsが音声信号のフィードバックを受けることで、FETのON/OFFが切り替わり、波形がクリップされる。
2.VgsとVdsの特性により、波形がクリップされる。
予想1.フィードバックの原理(有力な予想)
Nch MOSFETはスイッチとして使われる。ゲートとソース間に電位(Vgs)が発生すると、ドレインとソース間のスイッチがONになる。
今回の使い方では、ソースの基準電圧が音声信号によって常に変化することで、スイッチのON/OFFが繰り返され、信号がクリップしていると思われる。
予想2.VgsとVds
Nch MOSFETの電気的特性として、負電位領域のVdsがVgsの影響を受けるというものがある。MOSFET内の寄生ダイオードの順方向電圧が、Vgsの影響を受けているように見受けられる。
この特性により、信号がクリップしているのかもしれない。
動作原理はよくわかってないが、動けばそれでいい。
「原理が分かっていなくても、使えるものを使う」というのが工学だ。
人類はガラス転移点の原理を十分に解明できていないが、ガラス転移点が重要な役割を果たすゴムやプラスチック製品を日常的に使用している。
人類はトンネル効果の全てを理解していないが、トンネル効果を応用した半導体製品を多く使用している。
工学とはそういうものだ。
使ってて壊れないか
動作原理がわかってないのは良しとして、使っている最中にモジュールが壊れたり、他のモジュールを壊すことは良くない。
そこは、しっかりと検証する。
他のモジュールを壊さないか?
他のモジュールを壊すことはない。なぜなら、パッシブモジュールだから。
このモジュールは単なるスイッチの様なもので、他のモジュールを破壊するエネルギー自体は持っていない。
壊れないか?
まず、電圧定格について検証する。
ドレイン-ソース間の正の電圧は、60Vまで耐えられるので、壊れない。
ドレイン-ソース間の負の電圧は、寄生ダイオードを通過して流れるので、電圧については検討する必要はない。
ゲート電圧は、±20Vまで耐える。例えば、ソースに12V、ゲートに-12Vが印加されると、合計で24Vとなり定格を超えてしまう。しかし4V程度の超過なら、実力では耐えられる領域だろう。そもそも、+12Vと-12Vが印加される事は滅多に無い。
次に、電流定格(電力定格)について検証する。
ドレイン-ソース間には115mA(DC)の電流を流せる。一般的に、モジュラーシンセの信号源には約500ohmの制限抵抗が設置されている。例えば、Mutable instrumentsのモジュールの様に500ohmの制限抵抗が設置されていたとして、流れる電流は24mA程度であり、定格の115mA(DC)に対してマージンがある。
Vgsが閾値の2Vくらいだと、オン抵抗が増加して発熱の懸念もある。私の環境でテストしてみたが、発熱は全く感じなかったので、電力定格も問題ないと思われる。
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