おばあちゃん家のトイレのロンダーネ
おばあちゃん家のトイレには
カレンダーの風景写真の切り抜きが貼ってあった。
赤、橙、黄、茶、ベージュ、ほんの少しの緑
それらの綾錦が丘陵地一面を覆い、眩しく輝いている。
それでいて、なんとなくの淋しさを伴う風景。
上天気のわりには、肌をピッと刺すような冷たい風が吹いているようである。
丘陵の手前には、湖の緑青があったような気もする。
小学1年生頃の私は、ああ、きれい、と思って
おばあちゃん家のトイレで用を足すたび、その風景写真に見入った。
カタカナが読めるようになり、これはどこの風景なのか気になった。
風景写真の右下に小さく、こう書いてあった。
ノルウェー ロンダーネ
ノルウェーなんて聞いたこともなかったし、どこにあるかも分からない。
ウェーという3文字をどんなふうに発音すればよいのか
小さな私は、いつも悩んでいたような気がする。
それでもトイレに入るたび、その耳慣れぬ響きの言葉を呪文のように繰り返し、頭にたたきこんだ。
ノルウェー ロンダーネ
ノルウェー ロンダーネ
ノルウェー ロンダーネ
いつか行ってみたいなあと思いながらも、時は過ぎ
おばあちゃんも逝き、その風景写真もいつの間にか外され
今は兄夫婦の自宅として使われている。
10数年前、北欧に関わる仕事をしており
なんとなくノルウェーが身近になったけれど、今だに行く機会はなく。
ふと思い出した時に、Google先生にロンダーネを尋ねてみたけれど
似たような色味の風景写真は多くあるものの
おばあちゃん家のトイレでみたロンダーネとは少し違う。
あの風景がみたい!!
おそらく、生まれて初めて覚えた外国の名であり
生まれて初めて「行ってみたい」と思った国である。
今はまだ、あこがれの地のままだけれど
いつかはその地を訪れなければ、と思う今日この頃なのだ。
だれか、連れて行ってください。