unlearnとしての軽出版

 軽出版などというプチbuzzword化した言葉をつかっていると、ナカマタさんはもう何十年も編集や出版の世界でやってきたのだから、いろんなことを知っているでしょう、なのにどうして、あるいは、それだからできるんじゃないですか、というようなことを、ときどき聞かれる。私にとって自分で商品をつくって売る経験は、初めてではないにしてもアマチュアとしての経験のみで、おもな仕事としてやってきた雑誌編集やライターとは、やはり根本的に違う。それでも過去のさまざまな経験や知識は生きていて、それが土台になっているとも感じる。
 この感じをうまく伝える言葉はないかしら、と考えていたら、なんども読み返している鶴見俊輔の本にでてくるunlearnという言葉が思い浮かんだ。私にとって軽出版は、これまでの出版業界での経験をときほぐして編み直すような体験なのだ。知りすぎてしまったこと、オーバースペックなこと、必要のない虚飾。そうしたものを少しずつ脱ぎ捨てて、自分にとって本質的な行為としての執筆や編集、出版にもどっていくこと。それが自分にとっての晩年の仕事 late workとしての軽出版なんじゃないか。いま、そんなふうに考えている。


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