LIVE:ALAIVE#2
結局、わたしはオフィーリアの役を演じることになった訳だが…
「オフィーリアって意外と登場シーンとセリフがあるのよね」
「ええ、ハムレットの恋人ですからね」
一応役柄を貰った身の責任としてセリフを覚えることに専念しようとしているが、一向に頭に入らない。これも加齢による脳の欠損なのか。
個人練習としてセリフの少ない古泉に台本の読み合わせを手伝ってもらっている。
「授業もあるのに台本も覚えろなんて無茶言うわね」
「そうですか?10代の脳ならできると思いますけど」
「そうね、10代ならね!!」
ふんっと鼻を鳴らし台本を閉じた。どうせわたしはアラサーですよ。
「怒らせるようなこと言いましたか?」
ニヤついて人を見下すような目で見てくる古泉にわたしは心底怒りを覚えた。
「この……いや、いい」
クソガキと口に出そうになったのを深く息を吸って治める。
ハムレットの大まかなストーリーは頭に入っている。学生の頃何度も読まされたからだ。オフィーリアの初めての登場シーンは確かハムレット王子に一目惚れをする場面だ。
「それにしても、なんでわたしがオフィーリアなのかしら」
見た目年齢的に王妃ガードルードで良かったのではないだろうか。
「あなたは謎かけや詩はお得意なんですか?」
「ばかな!逆よ。わたしはあまり優秀な人間ではないから。ほどほどの教養しかないわ」
少し嫌なことを思い出した。幼い頃から夢みがちで勉強はおざなりだったため、いつもテストの点数は悪かった。親からもそのことで叱咤され続けて、どうせなりたいものにもなれず死ぬのだからと、適当な高校へと進学しそのまま就職したのだ。
「わたしにも彼女のような地位や教養があれば人生は変わっていたのかしら」
うわごとのように呟くと古泉はじっと何かを思うような目つきでわたしを見た。それを振り払うように「どうせならローマの休日がやりたかったわね!」と明るく言い放った。
「人生は不自由ばかりですよ」
「……その通りね」
僕は立場上、人の感情の機微を察知しやすい。
未来であり異世界である場所からやってきた彼女は幸せな人生を送ってきたとは言えない人だったのだろう。ある意味、オフィーリアとは真逆だ。オフィーリアは、ハムレットに愛を求めるまではとても恵まれた人生だったであろう。
彼女はハムレットよりローマの休日の方が好きだと言った。与えられた役割から逃れようと必死にもがくが、最終的にはそれを受け入れることになる。それはとても──彼女らしい選択だと思った。
彼女は自分には教養はないと言ったが、他に人間としてとても大事なものを持っている。
「少なくとも、僕はそう思いますよ」
覚えられないという台本を再び開き読み込み始めていたが、僕の一言で顔を上げた。
「…独り言です」
僕はきっと、そのときすでに彼女に心を奪われていたのかもしれない。