LIVE:ALIVE#1

#夢小説 #古泉一樹 #小説

それはあの長い夏が終わりを告げた頃だった。

 「それではこれより1年9組の、文化祭での出し物を決めようと思います」
 文化祭かあ。
 私が昔通っていた高校は3年に1回のスパンで行われていて、最悪なことに私は1年生の右も左も分からない頃にやらされたのだった。なので思い出も何もない。懐かしいと思うのはこの文化祭で浮き足立つ周りの空気だけだった。
 前の席の子なんて小躍りして、楽しみだね文化祭!と意気揚々だ。やはりみんな若い。純粋に楽しみなんだろうなあ…いや、私だって楽しくないわけではないんだけど、やっぱ違うじゃん?熱量とか。
 これはもう私がとやかく言うようなものでもない(元からか)ので、傍観者を決め込むことにした。

 「ということで演劇に決まりましたが、何かご希望ありますか?」
 「はいはーい、無難にハムレットとかどう?」
 しばらく空を眺めていたらどうやら演劇に決まったようだ。しかし演目が無難にって、無難にハムレットが出てくる高校生怖いよ。もう少し桃太郎とか可愛らいしものにしよう?
 しかし私を除く皆はハムレットで満場一致の様だ。ここにいる全員はハムレットを読んだことがあるのか?高校生の演目としてはだいぶ重いのではないかと心配する。
 大人の心配をよそに何人かがハムレット役に推薦された。
 隣の古泉は微笑をたたえ部屋全体を俯瞰して見ているようだった。そのとき、一人の生徒が手を挙げる。
 「更にはいはーい!ハムレット役は古泉くんが良いと思いまーす!」
 こいつ正気か?わたしは驚きその提案をした女子生徒を凄い形相で見てしまい、さらにそれを古泉に見られて鼻で笑われてしまった。これはきっと心を読まれたな。挑発的にわたしを見て頬杖をつく古泉に、彼にしか聞こえない声量で反論する。
 「だって、だって、ハムレットだぞ??」
 言うと古泉は背もたれに身体を預け、誰もが魅了されるような笑みを浮かべた。
 「なるようになりますって」

 え〜〜〜〜こちら、実況の苗字がお送り致しております。文化祭の演目、ハムレットのハムレット役を誰にするかという討論が行われております。クラスの数名のイケメンがハムレット役の候補に上がっている中、先ほど古泉親衛隊の相澤氏が古泉氏を立候補に出しました。実況苗字の横にいます古泉氏は満更でもない顔をしながらも「僕には大役すぎます」と困ったように笑った!その微笑みに相澤氏立ちくらみを起こす!大丈夫か相澤!
 …少し取り乱してしまいました。さて、監督は主役は後にして他の主要メンバーを決めるようだ。そしてライト、手が挙がる。
 「オフィーリアに苗字さんなんてどうでしょう」
 飛び火だーーーー!!!完全に傍観者を決め込んでいたが急に飛び火がこちらに向かって来た!おいそこ笑うな、お前だ古泉!
 「なまえはオフィーリアというより、柳の木ですよね」
 「失礼千万」
 GM、拳の技能振っても良いですか?良いですね?1D100で振りました。4で決定的成功が出ました。古泉に肩パン、通常3ですが、決定的成功なので6のダメージを与えます。自身への反動は無く、良い感じにキマりました。古泉は痛そうに肩を抑えています。そんな古泉に苗字は人差し指を突き出し言います。
 「お前にはギルデンスターンがお似合いだ」

 「イタタ…僕ってそんなに端役感ありますか?」
 「どうかしらね、でも確実に主人公ではないと思うわ」
 「そうですか…」
 山あり谷ありのような主人公ではない、と受け取ったとしてそれは喜んでいいのか悪いのか、自分の人生もなかなか山谷あったつもりなのだと反論していいのか、悩みどころである。
 「苗字さん、私の古泉くんに失礼じゃないかしら?」
 転校してきて数日後にいつの間にか出来ていた自分の親衛隊の女子生徒がなまえに喧嘩を売っているが、対してなまえは気にも留めていない。能天気そうな顔をしていた。もしくは聞いていないのかもしれない。
 「ちょっと、きいてるの!?」
 なまえの表情筋の乏しさにイラついたのか、優等生らしからぬ声の荒げ方をしなまえに近付く女子生徒に大きなため息を吐きそうになる。ああ、やれやれという彼の気持ちが少しわかった気がする。
 「相澤さん、落ち着いてください。僕にもさすがにハムレット役は難しいですから」
 あまり大役は僕にくれないでください。というと女子生徒、相澤は黙った。
 「古泉くんが言うのなら…仕方ないわね」
 引き下がるかと思ったらなまえの耳元でなにか言い、しぶしぶといった表情で離れて行った。性懲りも無く、卑しい女だと思ってしまう。
 彼女のどこがそんなに気に入らないのだろう?なまえはその淡白な喋り方で誤解されがちだが、性格が悪い訳ではない。
 「いやはや~大変失礼しました」
 ワハハ、なんて笑って誤魔化しているが、奥底では気にして傷付いて悲しんでいるのだ。でもここで僕が気にしてしまってはなまえのプライドが許さない。
 だから僕は一拍置いて発言する。
 「さあ、本題に戻りましょうか」

 一悶着あったが、無事に主人公の座は別の生徒の手に渡った。
 『調子に乗ってんじゃないわよ』
 そう耳元で囁かれたとき、背筋が凍るほど悪寒がした。
 なぜ調子に乗っていると思ったのか、わたしにはさっぱりわからないが、古泉親衛隊の彼女の目には私がそう映ったのだろう。何か悪いものに目をつけられてしまったなと思った。
 クラスメイト全員の視線が向けられ場の空気の悪さを感じ、何も問題はないと伝えるために茶化したが、もしかしたら顔が引き攣っていたかもしてない。
 一拍置いて古泉が本題に戻ろうと言わなかったら私は泣きだすところだった。
 古泉に庇われてしまった。 ここに来る前を思い出す。死にたくて死にたくて仕方がなかった。四半世紀も生きて何の得もなかった。
 ここに来て人生が変わる、やり直せる、幸せになれると思ったのに…また、傷付けられていくのだと、絶望した。
 「なまえ、なまえ」
 小声で私を呼ぶ声がした。優しい声の主は古泉だった。
 「気にしなくて良いのですよ」
 そう言って目を細めて笑う古泉に、不本意ながら、誠に不本意ながら、胸がきゅっとした。

 文化祭での出し物が決まり、ネタ合わせをする。我が組には文学の知識に富んだ生徒がいるようで、放課後には台本が出来上がっていた。一体いつ仕上げたんだ?内容としては元の話と変わらないが、だいぶ端折られている。しかし言葉の言い回しなどが現代的で面白い。
 ああきっとこのような子供たちがこの先の未来を創っていくのだろう。ただただ、私のようにひねくれず、真っ直ぐに育ってほしいと願うのであった。

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