異世界人来たれり#1

 「よく眠れましたでしょうか。」
 開いた扉から青年が出てくる。なかなかに顔が良く、よくもわたしのような女(しかも酔っ払い)を家に連れ込んだものだと感心した。最早イケメンにはどれも同じに見えるのかもな。
 それにしても、幾分か若すぎるような気がする。わたしと同年代と言えばそう見えなくもないが、未成年のようにも見える。
 「すみません、泥酔していてなんにも覚えていなくて。」
 「気にしないでください。いいようにさせてもらいましたから。」
 ニコリと微笑むと青年は、ところでとわたしの体調を伺う。
 安心してくれ、二日酔い以外は至極健康だ。
 「それはよかった。早速ですがあなたに会わせたい人がいるのです。」
 まさか一夜を共にしただけでご両親へ紹介されるのでは?と驚愕していると察したか、安心してください。両親ではありませんよ。とまた微笑んだ。
 彼の手にあった衣服を渡される。ワンピースか、楽でいい。
 「これを着てください。今の姿も十分良いのですが、公には見せたくない姿なので。」
 早速ということで男物のスウェットを脱ぎワンピースを手に取る。すまんな、醜いものを見せてしまって。青年は瞬間面食らったような顔をしていたが、すぐに先のようなイケメンの顔に戻った。
 「順応性が高いのですね。」
 すまんな、これは順応性が高いんじゃなく関心が薄いだけなんだ。などと言えるわけもなく微笑むだけで曖昧に濁した。
 「つかぬことをお伺いいたしますが、本日は西暦何年の何月何日ですか?」
 「えっと。」
 確か飲みに行った昨日が十九日だから、今日は二〇十七年の三月二十日だったか。そう答えると青年は少し眉をひそめた。なにか間違えたか?もしや、二日ほど寝込んでいて日付を間違えてしまったとか…
 「なるほど。では詳しいことはまた後で説明しますので、着替えたらこちらにいらしてください。朝食を用意しておりますので。」
 
 「は?」
 「ですので、あなたはこの世界線の住人ではないということです。」
 二〇〇三年六月と表示されたカレンダーを見せられる。よもやカレンダーごときでそんなこと信じられると思うか?面白くもない冗談だ。
 「そう言うと思いました。では、会わせたい方がいると言いましたね。その方の元へ行きましょう。」
 彼は一時代前のガラケーと言われるものの特に昔の分厚く画面の小さい携帯取り出しどこかに電話を掛けはじめた。設定を従順に守る感じ、嫌いじゃないゾ!
「さあ、車を待たせていますので行きましょう。」
 やんわりと腕を引かれ、家を後にした。
 乗せられたタクシーは何事もなく進んでいく。車窓から見える景色は馴染みがあるようで全くない。だが馴染みのある番号の国道が見えるので、そこまで馴染みがないわけではなさそうだ。この前の遠征に通ったかもな。
 なまえさん、と彼が口を開いた。名前を教えた覚えはないが。
 「ご無礼を承知で手荷物を漁らせていただきました。それにしても荷物が少ないのですね。」
 「余計なものは持たない主義だから。」
 「そうですか、至極合理的です。」
 少し話をしていると住宅街へタクシーは進んだ。マンションの前で停車すると扉が開いた。
 支払いのために財布を取り出す手を抑えられた。支払いは彼がするのか?と思ったが支払う様子もなく降ろされた後、タクシーは走り去っていった。
 「さて、みなさんお待ちです。」
 エントランス手前で慣れたように部屋の番号を入力しインターホンを鳴らす。
 「古泉です。お連れいたしました。」
 そういえば青年の名前を聞いていなかった、コイズミというのか。などと思いながら、扉を眺めていた。扉が開くと、すき間から可愛らしい小柄な女の子がいた。
 「入って。」
 透き通るような声で端的に述べられ、言われた通りに行動する。
 彼女の後を付いて行くとあと二人ほどが待ち構えていた。少年と、え、かわい、おっぱいが大きい!
 「こ、こんにちは。」
 挨拶をする。目ではなく胸を見て挨拶をしたのは許してほしい。それほどおっぱい…
 「え、えと…朝比奈みくる、です。」
 「あ、わたしは苗字なまえです。」
 ほわわんとした空気が漂いだして、その後の少年の名乗りを聞き逃してしまった。キョンくんと呼ばれているのできっと小泉今日子っぽい名前なんだろう。でも小泉だと青年コイズミと被って大変だね。あ、だから彼はあだ名なのかな?なんて思ったりしたのであった。 
 長門有希という少女の語りを聞いている。見た目によらず、よくしゃべる子なのかもしれない。
 「情報統合思念体はエラーを感知した。しかし、その場所は古泉一樹が所有する空間の中。
 侵入することは可能、しかし情報統合思念体は不必要であると判断した。」
 そこで彼女は言葉を切り、わたしを見た。
 「わたしも、そう、思う。」
 「なぜだ長門。エラーなら修復するべきではないのか。」
 「これは、彼女は、エラーであってウイルスではない。修復の必要のない微細なエラー。無害な不安定要素。
 情報統合思念体は、このエラーがこのまま続いても問題はないと判断した。もしも懸念するものがあるとしたら、それは………」
 わたしがエラーだとして、修復ということは、わたしを消すということなのだろうか、と他人事のように聞いていた。別段わたしが消えたところで困ることもないしなあ。それにしても、長門さんのとキョンくんの言うことは難しくてよくわからないや。

 長門さんの口から信じられないものを聞いた気がする。
 「懸念事項が、古泉?」
 彼も同じことを思ったのか、長門さんの言葉を反芻している。
 どうして僕が、懸念事項となりえるのか。それは彼女自身ではないのか、と懸念大本命であるはずの彼女に目をやると、彼女は意に介さないような顔で窓の外を見ていた。話を聞いていないのかこの女は、と少し腹立たしく思えた。
 「お言葉ですが長門さん、何故僕が懸念事項になるのでしょう。」
 少し言葉尻を強くすると朝比奈さんが委縮した。今はあなたではなく長門さんに言っているのだが。
 「…それは、あなた自身がこれから気付いていく。」
 「教えてください、長門さん。」
 「今のわたしには、これまでが限界。でも…そう…」
 少し考えるような間があった。言葉を選んでいるのか、はたまた情報処理に時間がかかっているのか。
 「おとぎ話のようなもの。」

#夢小説  #古泉一樹 #小説

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