短編小説「私だけの特別」【オリジナル】
私は特別な人間じゃない。
腫れぼったい目、低い鼻、変な癖毛。
頭も良くないし、運動も得意ではない。
人付き合いも下手だし話し下手。
特別じゃないどころか最底辺の人間かもしれない。
そんな私には一つ趣味がある。なにも特別な趣味ではない。洋服を買う事だ。
たくさん服を買い、好みの服で自分を着飾れる感覚、例えるならプリキュアの変身のように自分を変身させられるような気分になれるのが好きで、服をこれでもかと買う。
すでに持っている服はダメだ。私のような特別じゃない人間が所持している服は、もう特別じゃない。新しい服を手にした時始めてほんのちょっぴり特別感を感じる事が出来るのだ。
同じような感覚を持つ人は案外、少なくないと思う。
家にはもう一千着以上の服がある。どれも同じものはなく、全て色や形、ブランドや価格が違う物だ。
必要かと言われるともう必要ない。なりたい自分のイメージに合う服はいくらでもある。そこら辺の狭い古着屋よりたくさん持っているだろう。
しかし、特別じゃない私が持っている服は特別ではないし自慢出来る程の数ではない。
たくさん服を持っている人は大勢いる。もっと高いハイブランドの服を数千着持っている人もいるだろう。そんなセレブな人に私ははなれない。
私は特別じゃないから。
ある日、またいつものように服を買いに来た。
持っている服の中でも値段の高いものを合わせ、いつもより気合を入れて来た。
しかし、別に誰かが振り向くわけでもないし、褒められる訳でもない。
私は特別じゃないから。
数十分店内を物色したのち、3点の新しい洋服を買い、丁度昼時でお腹が空いたので、昼ご飯を食べる事にした。
これと言って好きな食べ物はないのだが、偶然土用の丑の日でうなぎののぼりを見かけたので、うな重を選んだ。
土用の丑の日にうなぎを食べるというのは良くある話だ。特別な事はない。
ランチ時で少し安かったうな重だったが、艶々のタレに包まれた香ばしいうなぎ。
ふっくらとした米にもタレがしっかり染み込んでいて、うなぎの皮の香ばしい香り、身の柔らかさ、そしてタレと米の甘みが混ざり合い、味の黄金比と言っても良いほど絶品だった。
「……なんて特別な味なの」
私は小声でそう言った。
私は特別じゃないし、特別な趣味もないし、何も特別じゃないけれど、世の中の「特別」は私がどうかなど関係なかったという事だ。
何も特別じゃないうな重に、私は特別を感じた。「特別」は私がなるものではなく、そこに「あった」
その日から私は、服を買う事をやめた。自分を卑下する事もやめた。セレブを見て劣等感を感じるの事もやめた。
だって
「特別」があったから。
END
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