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第19回「そいつ」2024年2月❸

週一で、同じ映画を見る。ただそれだけ。
観る映画は「遊星からの物体X」、つまり「THE THING」です。

ルール

  1. 毎週1回「遊星からの物体X」をみる

  2. 毎週1回みて、気づいたことを書く

  3. 木曜または金曜の通勤時間で見る

  4. ネタバレとかは気にせず書く


基本は通勤中のiPhone se(3G)。
イヤホンはAppleの有線イヤホン。
ということだったが、最近はもう気にせず休みの日に家で見ることも増えてきた。

第19回目 2024/2/24(土)


前回からの道のり

(前回の記録からわたし自身の変化)

2/13(火)〜15(木)
カセットテープ通勤を始める。買ったのに聞けてなかったカセットテープを聴き始める。
Matthew David、pulse emitter、内容はいいのに通勤に合わなかった。Nurse with woundいい。カセットウォークマンのノイズとの相性もいいのか、あまり気にならず。

仕事後、「STOP MAKING SENSE」の4Kを観に行く。ボロ泣き。
born under punches初めて聞いて名前をメモした高校生の頃の気持ち、speaking in tonguesのカラーヴァイナル(ケースが何層もある限定版)をあり金を全部出して買ったらthis must be the placeで針が飛んだこと。
思い出が蘇り、でも思い出も塗りつぶされるように。まるで初めてみた気持ちで興奮してしまう。
デヴィッドバーンのあざとすぎるランプ抱き抱えショット。クリスの走り癖がライブバンドである証明あり、ティナの捻れるダンスは決してバーンだけがヒーローではないことの証明であり、他のメンバーの奔放っぷりは間違いなくジェリーの実直な仕事ぶりの証明。トーキングヘッズを好きでよかった。

2/16(金)
親友のEri Nagamiと会い、食事しながら楽しく話す。親友はいい。面白いし、新しい価値観をまだまだくれるし、僕のヤボな話も真面目に聞いてくれる。親友のためにかっこよくなりたい。

2/17(土)
市内のAEONにヤーレンズが来るとのこと。整理券をもらい、兄と妻と3人で漫才を見る。ジャンケン大会にて、なぞに勝利の方程式が全部みえ、(楢原さんは絶対同じ手を出すと思った)、サイン色紙を勝ち取った。応援していたことが実り、なんか解放された。
サインという文化には馴染めないため、色紙をどうしていいかわからない。
Der Planの来日時に、彼らの自伝にサインもらったことがあるが、適当に指差してサインをお願いしたため、3人中2人が違うメンバーの顔の下にサインしている。恥ずかしい。慣れないことはしないほうがいい。

帰宅して、伊丹十三の「静かな生活」を見る。酒を飲みながら見て、面白い部分とすんなりお飲み込めない部分があった。

2/18(日)
朝から「静かな生活」を見直す。面白い。
ものすごく映画的だった。
「エル・スール」を見るため外出。大好きな映画だと再確認。
呼びかける、ということを意識して見る。
存在する人、不在の人、存在と不在のハザマの人。帰れない故郷に置いてきた家族や元恋人。映画の中だけで殺され続ける女優と鏡の中の男であり。ベッドに隠れた娘でもあり、闇の中から交信してくる父でもある。この狭間に呼びかけること、それを拒否してしまうことの残酷さ。それを肯定することの無邪気さと危うさ、そして美しさ。
ミツバチのささやきと並び、美しい作品だとわかる。素晴らしい新作「瞳をとじて」をみて、よりその味わい深さに感じいる。

2/19(月)
親友の横山匠が、出身部活について語る会に顔を出す。親友が話のうまさを発揮していて興奮する。僕の親友、話すの上手いんすよ。二十代の参加者にしっかりと話す機会を渡そうと努力している。二十代の子もいま思うかっこいいを発現しようと努力してる。

2/20(火)
帰宅後、ジュラシックワールドを妻と見る。うーん…ジュラワ三部作は「炎の王国」が面白いと思う。ツッコミは抑えて、恐竜のことを考える。
恐竜は、現れるだけですぐ恐ろしい。モンスター映画は、存在するはずないものだからこそ怖い。どうやってその怖さを分からせるか。恐竜はデカさと歯だけで怖い。目の前で人が食べられればもうQ.E.D.

2/21(水)
カセットウォークマン、完全に死んだかも。ノイズが流れる。

2/22(木)
体調不良、仕事でクタクタとなり寝込む
2/23(金)
親友regoさんのライブを見にいく。
見るたびに自分の好きな曲ランキングがグチャグチャに変わるような、曲への驚きや発見が満ち溢れてる。世の中で聞かれるべき。
2/24(土)
パンを焼く、寝かせている合間に物体X。


今週のテーマ選定

意外とやってなかったテーマがまだまだたくさんあることに気づく。
「物体X」それ自体の観察は何らしていなかった。本作を名作たらしめてる要因のひとつはロブボッティンのSFXであることには異論はない。
僕は特殊効果などの知識はないし、海外のホラーやモンスターも特別詳しくない。そのうえでモンスター物体Xのことを観察してみるのも面白い。
モンスターの定義を探したが、荒俣さんの内容が面白かったので引用。

改訂新版 世界大百科事典
怪物 (かいぶつ)
monster

正体不明の生物や物体,とりわけ醜悪・不快・恐怖などの念を抱かせる存在の総称に用いられる語。また奇形の意味にも用いられる。奇形の誕生は古代にあって凶兆とされ,モンスターという英語もラテン語のmonstrum(兆候,警告の意)に由来する。一般に怪物と呼ばれるものは想像の産物が多く,いくばくかの事実や伝承を核に,人間の持つさまざまな不安や畏怖が投影されて成立した一種のシンボルともいえる。分類すれば,(1)ドラゴンやバジリスクなど,何種類かの生物の形態を混合したもの,(2)巨大ないし矮小なもの,(3)正常な同種と形態を異にするもの,に大別できる。

いいかげんあなたの顔は忘れてしまいました

まず物体Xが出現する時を書き出して見る

❶00:22〜00:26(約4分)
遺体を皆で確認して、解剖するまで
❷00:28〜00:33 (約5分)
犬小屋で、犬THING登場
❸00:33〜00:35 (約2分)
犬THINGの解剖シーン
❹00:46〜00:48 (約2分)
ベニングスの変身。腕がキムチごぼう。
❺01:15〜01:17 (約2分)
ノリスが変身。腹からモンスター
❻01:23〜01:25 (約2分)
パーマーが変身。血が吹き出し頭がそのまま口に変形。
❼01:35〜01:36 (約1分)
ブレアの姿のまま、ギャリーを捕食
ぜんぜん変身していない。
❽01:37〜01:39 (約2分)
ブレアのモンスター変身状態で対決。

ざっくり測定ではあるが、映画内で物体エックスが出てくるのは約20分。
❶❸で言うとすでに死体。❼に関しては変身もしていない。なので変身状態の危険なモンスターというと、13分くらいしか出ない。
1時間48分の映画と考えると、登場シーンは12%くらい。ホラー映画ってそんなものかもしれないけど、モンスターはそんなに顔を出さない。
ジュラシックパークみたいに恐竜を出し続けれるホラー映画は珍しいのかも。
さらに登場シーンごとの間隔もみたい。
0〜❶22分
❶〜❷  2分
❷〜❸  0分
❸〜❹11分
❹〜❺27分✳︎
❺〜❻  6分
❻〜❼10分
❼〜❽  1分

冒頭から登場まで22分とかかるのは、少しずつ異変を気づくためかなと思う。
❸犬小屋〜❹ベニングスでは、犬だけでなく人間も怪物になるという事実に納得させるためのパート。同時に仲間割れが少しずつ起きている。そのために11分間、モンスターなしで推進してくる。故にベニングスの変身は隊員に衝撃が走る。

その後の❹〜❺の27分こそ特徴的。モンスターなしの時間が長い。
人間のパラノイアから行動が異常になる、というだけで面白さが加速していく、27分間。
ところが、ノリスの腹が裂けた瞬間の驚き。あーモンスター映画だったーという再緊張。
この27分間の緊張→緩和→再緊張の波を作ってる。今回は、この27分越しのビックリに耐えられるだけのビジュアルがいかに重要か。ここを考えねば。

良い子は近づかない

❶ノルウェーと❷犬THINGの大きな違いは、❶の時点ではモンスターの存在を認めきれてないこと。あくまで変死した謎の物体。

❷はモンスターの存在を、登場人物から観客まで理解させないといけない。
冒頭の引用の通り、怪物は何かよくわからないモノだから怖い。
でも、何か分からなすぎるモノは「怪物」にはならない。安全か危険かどうかもわからないなら、命知らずのバカはズカズカと近づく。
モンスターが「モンスター」と認識されるのは、「理解できない」が「危険だと理解できる」という両項目を満たす、いわば理解/謎のバランスが必要なんだろう。
そこで、❷の犬THINGである物体Xが捕食する重要なシーンだ。
以前、食べることが物体Xの特徴だと観察した記録がある。犬THINGが頭部から裂け始め、大きな舌を出す。粘液で体を溶かしたり、触手で絡み付いたりするのは、結局はその大きな舌と口で飲み込んでしまうためだ。

犬THINGの舌、ノリスの腹から口、パーマーの頭が口。物体Xがもつ攻撃性はまさに「食べ」ようとしてくることにあらわれ、その姿形のなかに大きな記号として現れる。
もしも、謎の物体でしかなければ、「自分が食べられる」という危険な記号も見分けられない。
モンスターのデザインをする際に、見たものにこの食べられる恐怖を植え付けるために、大きな口が必要となる。
もしも❼のギャリーに捕食された時のような、片手で捕まるシーンだけでは恐怖が弱い。やはり、赤ずきんとオオカミ同様、恐ろしさは大きな口に現れる。

知りすぎた観客

いまさらながら、モンスターの危険性に気づくタイミングが登場人物と観客は違うことに気づいたら。
観客は犬変身シーンを見ているため、モンスターは犬に隠れたことを知らされてる。
でも、隊員は違う。マクレディが駆けつけた時にクラークは言う。「なんか分からねえが得体の知れない奴が」。
まだこの時点では、犬から変身したことも
彼らが犬THINGのヤバさを完璧に理解するのは、体液で溶けた犬を触手で引き寄せる時。ここで登場人物はモンスターの危険性を理解する。
遅れてきたチャイルズだけ理解が追いつかず、攻撃されそうになってやっと火炎放射器を放つ。食べられるって理解しないと身の危険を理解しきれない。
隊員は身の危険をさきに理解して、その後、解剖シーンで犬からモンスターに変身していたことを理解している。そう思うと、ベニングスが変身するまで、擬態の恐ろしさを信じきっていなかったニュアンスがあるのかも。

クルーエルの誕生(配列のエラー)

これだけなんでも形を変えれると、不定形のゼリーのようなモンスターでもよかったかも知れない。映画「ブロブ」はゼリー状の宇宙人に捕食される。
「遊星よりの物体X」のような、まんまフランケンシュタインのモンスターというのもどうなんだろか。(製作ハワードホークスもなかなかモンスターのフォルムにゴーサインを出せずに、最終的にあきらめてフランケンモンスターにしたとか)。

本作はあくまで人間同士の疑い合いによるサスペンス要素を盛り上げたいので、人間に隠れていて、変身することで気味悪いフォルムに変わっていくほうが面白い。
実際、物体X本人も、威嚇のために変身をしているところがある。犬THINGが変身していく中で、なぜか目玉が4つくらい表れるところがある。機能性は度外視の四つ目。

どうやら「自分たちの身体とは違う」という違和感が、気味悪さや恐怖を生んでる。そして物体Xはそれを理解している。
身体の中からいくつも腕を生やし、首の付け根から別の口を生やす。口や目、腕と、部分ごとには理解できるのに、自分が考えている場所に配置されてないことが、僕らには気味が悪いし不愉快だ。
身体分解と、メチャクチャな身体再構築。
記号の配列エラーで、バグを見たような印象。擬態、同種化で隠れ切った彼が、変身の過程をみせつけられ、バグを誇示することで物体Xは異種性を解き放つ
ここはブロブとの大きな違いだ。形を持たないブロブには、記号はほぼない。そのため配列エラーは起こさない。ブロブに飲み込まれれば記号はnullへと帰す。

クルーエルの誕生(混成)

カラブツ内のモンスターをみると、目とか口などのパーツ配列だけでなく、あらゆる生物の特長を見れる。犬THINGは体内から、蜘蛛のような毛深い足を生やす。天井に逃げる時は、ムカデのような脚を並べて走らせる。壁に拡げた身体の中からは食虫植物の花弁のような口が飛び出してくる。ノリスの頭がひっくり返った途端に、蟹のような目と脚が生え始め、コソコソと逃げ出す。最後の地下室での決戦では、タコのような触手が伸びてくるし、ブレアの腹から飛び出す、「犬、むいちゃいました」。常に犬の頭部を露わにするのは、「お前に威嚇してんだぞ」と相手に伝えるためだろう。

なぜ生物を混ぜるのか…とか考え始めると神話論やらなんならの幻想文学を引っ張り出して、はたまた無意識と潜在意識とかかがなんとかかんとかみたいな勉強しないといけない。アラマタ定義にもあるとおり、昔からこういう創造にはつきものらしい。
もちろん、その動物の部分がなにかのメタファーという話もできるのかも知れないけど…
(犬が裏切り者など)。
今回は深読みしすぎずに、シンプルにモンスターを作る上で、あらゆる動物が参照されていることを認識する程度に。

そういう意味でも言及できるのは、物体Xは捕食したことがある相手から生物の特長を取得してるということだろう。
初めから人間の格好をしていないのは、アメリカ隊の人間の構造を理解していなかったからだろう。(もしかするとノルウェー隊員はわかってるかも知れないが)。
犬、虫、ムカデ、タコ。どこで出会ったのかは分からないが、彼が捕食して身体を大きくしていく過程で、その構造を取り入れてきたのだろう。
生物ごとの機能を理解して、場面ごとに使い分けるという能力の高さ。そのコピー能力の高さが、ごちゃ混ぜなパーツの羅列、コードの再構築、そしてバグとも繋がっている。
混成された生き物から放たれる多すぎる記号に、人間は自分の持つ文化コードから理解ができず、ただただ慄くしかない。

クルーエルの誕生(中心のなさ)

モンスターと言ったら個人的に1番最高なのは、ノリスのスパイダーヘッド。燃やされてる身体と分離した首がボトン…と床に落ちて、脚が生えてくるシーンだ。パーマーがみんなの気持ちを代弁してくれる
「You gotta be fxxxxxx kidding」
ここまで不気味なモンスターの変身を見せられてきたけど、さらにここは「分裂しても生き残れる」という事実を突きつけられる。
彼らの恐るべき生存本能は、自分の体すらも集まっては壊す、その「中心のなさ」と「終わりのなさ」からくる
終わりのなさ。自分たちの容赦ない攻撃すら強かに逃げまわるモンスターの姿から、「ここまでまやってもまだダメか」という絶望感。このアナーキーな細胞たちの朽ちることない自己分裂と自己統合こそ、このモンスターの強みであり、人間の頭部の上下も関係なく使いまわして捨てる。

クルーエルの誕生(傷の共有)

このモンスターの最後の特徴は、血液の放出だ。彼は正体を露わにして威嚇する時はいつも皮をベリベリとめくり、血液を大量に流し始める。
血液に慣れてる慣れてないは別として、これが結構、気味悪い。

血液テストのシーンで指を切るノウルズを観ると、いまだにイテーっと口に出してしまう。でも別段、犬がベリベリとめくれても痛いなーとは思わない。ただし、赤色に染まる画面にいい気持ちはしない。最初のベニングスの4針だって嫌だし、解剖シーンだってかなり嫌だ。やっぱり血だらけってゾワゾワする。
物体Xの奴は、「見つかりましたか〜ガハハ」みたいな感じで、自分の恥ずかしい傷をガシガシ拡げ始めて、血だらけになって見せつけてくる。マジで痛々しい奴だ。
パーマーに関しては、変身するときにめちゃくちゃ時間をかけて血を流しまくって変身する。みんなに傷を見てもらいたいとか、痛々しい奴だと思うと、何年か経って可愛いやつと思えるんだろうか。

名前をつけてやらない

危険性はあるものの、その生態を理解し、反応をコントロールすることを始めれば、人間たちにとって「モンスター」は謎の物体Xを卒業する。彼らは名前をつけ始める。分類をしてwikiにでも書き込む。
「トレマーズ」を思い出して見ると、謎の怪物に対して、その特性を理解し、対処をし始める人間たちは、お互いの知識を共有し合うためにグラボイズと名づける。彼らはその生態を整理しようと共有している。
本作では、隊員たちはモンスターに名前をつけない。ソイツ(THE THING)とだけ呼ぶ。ソイツは何にでもなるし、なにか決まったものでもないし、なんなら隊員がお互いで共有しているイメージも違うのかも知れない。名前をつけられるほど、なんにも知らないからかも知れない。名前をつけたところで、理解できないと諦めてるからかもしれない。
ただし制作者の意図からすれば、あえて物体Xが何かを突き止めたくなかったのだろう。ソイツを何かのメタファーにするのは簡単だが、肝心なのは人間がソイツを巡って、おかしくなってくことが重要な映画ということを忘れたくない。


来週に向けて

思いついたことを書き連ねたのでかなり長い。書いてくうちにアラマタ定義とかなり近いものになった気もする。

  • 音無し鑑賞

  • 光のことをもっと考える

  • 顔、その視線

  • マップ使いながら視聴

  • カメラの位置

  • BGMの特定

  • 別の言語の字幕/吹替

  • そろそろ原作読む

  • 物語に駆けつけるキャラ

  • そろそろオーディオコメンタリ分析

  • 運ぶ

無理だったら普通に楽しむ。
好きな映画のいいところは、普通に楽しめることだと思う。

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