フレンド
私は全てをフレンドで満たしている。飲みに行きたい時は飲み友を誘えば良いし、電話したい時はテレ友に電話する。寂しい夜は添い寝フレンドを呼ぶし、性的欲求が高い日にはそう言う友達を呼ぶ。友達がいればどんな時も怖くない。
恋人を作れば全て1人で解決するとよく言われるのだが、わざわざ友達、フレンドに留めているのは、負担を減らすためだ。私は独占欲が強いので、どんな時にもそばにいてほしい。やってしまいがちなのは、彼氏が仕事で忙しくて帰りが遅くなった時の、【私と仕事どっちが大事なの?】。そんな事比べられないし、どんな答えも結局私を満足させるような回答は、その場凌ぎのものだと知っている。私のような彼女を持った男性は可哀想なのである。それに、一緒に過ごして嫌なとこが見えるってのが堪らなく嫌なのだ。今まで好きだった人がトイレの電気を消さなかっただけで嫌いになるあの感じにうんざりしていた。そこで私が選んだのは、その分野のエキスパートフレンドを作ると言うものだった。
車の運転が上手い人はドライブフレンド、観たい映画がある時は映画フレンド、綺麗好きな掃除フレンドとかもいる。よくよく考えてみると映画には邦画と洋画があるし、ジャンルも様々。掃除も水回りに特化したフレンドが欲しい今日この頃だ。
私の欲求を全て満たすような1人に出会う確率よりも、得意分野を1つ持ってる人に出会う方が現実的だった。
唯一のルールは、苦手な事や余計な事はやらない、いや、させないようにしている事だ。こうすれば、気を利かせてやっておいたよと言った余計な親切も発生しない。
あなたがやらなくてもフレンドがいるのよ。
得意分野しかやらないフレンド制度、これこそ私の究極の理想系だ。
ある日の仕事終わり、ドライブフレンドに家まで送ってもらい玄関を開けると、狭いキッチンで中華料理フレンドとイタリアンフレンドがコンロの取り合いをしている。ちょうど今から帰ろうとしているのは、食材買い出しフレンドで調理担当の2人に食材を渡して帰るところだったらしい。その買い物レシートを私に渡すと、家計簿フレンドに渡す用の箱にそれを保管した。先に家に居た飲みフレンドと乾杯すべく、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
今日は早かったじゃん、と先に口を開いたのは、私でも飲みフレンドでも無く、口達者な喋りフレンドで、彼は烏龍茶を飲みながらカップ麺を食べている。イタリアンフレンドと中華料理フレンドはあくまでも私の友達なので、喋りフレンドに料理を作る気はないみたいだ。カルボナーラが机に置かれる。パスタを巻き食べてはフレンド達と談笑をしていた。
どくん。
女の胸がゆっくり、大きな心音を立てた。
いつものポンプではなく、何かがつっかえたような、重い鼓動。
急に胸が苦しくなる。
ううっ、、声にならない呻き声がワンルームに漏れる。誰か救急車を…と言おうとするが声にならない。座って居られなくて、机の上のビールを倒しながら床に雪崩れ込む。自分でスマホを、いや、もう、ダメだ。
フレンドは黙ってその様子を見ている。中華料理フレンドが餃子を焼いて持ってきた。その女に触れる事もなく、淡々としている。
中華料理「あれ?食べないの?仕方ないなぁ、アンタらで食べちゃって」
口達者「あ、良いんすか?やった〜」
飲み「そういう事ならさ、ほらほらみんなで飲んじゃおうよ」
イタリアン「良いですね、ではあなた達も」
イス「うわ〜ありがとうございます!君も貰おうよ」
テーブル「ここ連日来てたからなぁ、たまには良いね」
ぬくもり「だったら買い出し行ってこようか?」
一同「担当以外のことはするなって怒られるぞ」