「あるがままの身体がそこに」
#8 浅井信好(月灯りの移動劇場主宰)
ソケリッサの踊りを観ると、熱いものが込み上げる。同時に舞踏家として嫉妬心を抱かずにはいられない。
アオキさんと出会ったのは私がまだ、二十歳の頃だった。
某振付家の事務所で私がアシスタントとして働き出した頃、アオキさんはすでにCMやMVの振付家として活躍し、何度も現場でご一緒させてもらった。
屈託のない笑顔で話しているかと思うと、次の瞬間には的確に現場を回していく姿は私にとっての見本でもあり、憧れの存在でもあった。
2006年頃から、アオキさんと舞台作品を何度か作る機会があり、海外公演なども行なったが、常にアオキさんに認められたいと内心は思いながらも、その尊敬の念を感じ取られたくないと思い、尖っていたことが懐かしい。コマーシャルの現場で見せる表情とは違い、創作の現場ではクリエーションだけでなく、小道具製作一つとっても魂を吹き込むように丁寧に製作してゆく。それはまるで、刀鍛冶の職人のようであり、今でもその姿が鮮明に蘇る。
そんなアオキさんがコマーシャルの現場を離れ、ソケリッサの活動を開始した時は正直、驚いたし、勿体ないとさえ思ったが2007年に新宿シアターブラッツでソケリッサの旗揚げ公演を目撃した際、そんな感情は消えていた。そこにあるのは、人間の「あるがままの身体」。紛れもない「生きる身体」がそこに存在し、アオキさん自身が全ての人の身体に対して、平等に敬意を払い、学ぼうとしているのが、ありありと伝わってきた。
そして、アオキさんが何に惹かれ、何を時代に問いかけようと試みているのか、その先の未来に何を見据えているのかを垣間見ることができたように思う。
私はその場所に居合わせた幸運に対して、観客として何を返すことができるのか、あの小さな劇場の椅子に座りながら問いかけた。それは拍手しかないと思い、できうる限りの拍手を送ったことを今でも覚えている。帰宅してもジンジンと手のひらに残る感覚を感じながら、いつか自分も踊り続ける理由を見つけ出したいと強く決心させてくれる作品だった。
ソケリッサが今、横浜と東京の路上でパフォーマンスツアーを試みている。劇場という空間で作品を観ることも確かに素晴らしい。しかし、彼らの大地を踏むリズムと身体が路上という劇場で、誰しもが触れることのできる機会を応援したい。私自身が大きな感動と道しるべをもらったように、多くの人に彼らの踊りが届くことを信じている。
(浅井信好)
写真:高松英昭 第一回公演新人H「ソケリッサ!」2007年1月23日 新宿シアターブラッツにて
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月灯りの移動劇場サイト https://tsukiakari-theater.jp/index.html
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浅井さんは「名古屋ダンスハウス黄金4422」を拠点とし独自の活動は元より多くの振付家やアーティストと関わり、ソーシャルで様々な発展を意識した広い視野でアーティスト活動を行なっている。また最近話題にもなっている『Peepinng Garden』は、木製扉に囲まれた円形舞台を作り扉に開いた穴から観客がパフォーマンスを覗き見るという作品で、コロナ禍を経て新たな形式を提示する姿勢など本当に素晴らしいです。浅井さんとはソケリッサ!の活動前にしばらく一緒に踊っていた関係。その後お互い独自の活動に傾倒し10数年ぶりにトークの企画にて再会。当時とまた違った立場で共に話しているとたくさんの出来事が思い出されてきて、予想しなかった互いの未来の姿に、吹き出しつつも感慨深い気持ちになる。当時の記憶に残るひとつで、ずらり並んだ学生の合唱団が歌う前で、浅井さんが自分の母親を舞台に上げひたすら母親の為だけに踊り続ける作品があり、アバンギャルドさを含め卒倒しそうになった。当時から僕にはできないことに猛進し挑む姿に今も間違いなく鼓舞されてます。
(アオキ裕キ)
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2021ー2022「路上の身体祭典 H!」新人Hソケリッサ!横浜/東京路上ダンスツアーへのクラウドファンディング挑戦を開催中!
目標:150万円
期間:2021/10/7〜11/15
CAMPFIRE
https://camp-fire.jp/projects/view/439611
(ヘッダー写真提供:東京都渋谷公園通りギャラリー 撮影:荻原楽太郎)