ヨルン・リーエル・ホルスト     「警部ヴィスティング 鍵穴」

個人的な読書の傾向として、「偏らない」というのがある。これは連続して同じジャンルや同じ作者の本ばかりを読むのが得意ではない、ということ。基本、ホラー以外は読めないジャンルの本は無いので周期的に読むようにしている。その中で密かにブームが来ているジャンルに関しては回ってくるペースが速い、という感じ。ただそればっかりをずっと読むのではなく、ミステリーを読んだらSF、次に青春小説・・・みたいな流れになる。そんな中で個人的に最近のブームは翻訳ミステリ。海外ミステリを紹介している動画を見るのにハマっていて、読みたいのがどんどんに増えている。普段は月に1冊程度読むのだが、この周期が早まるかも。

ということで、今回はヨルン・リーエル・ホルストのシリーズを読む。邦題は「鍵穴」ホルストはノルウェーの作家で元警察官。その経験を活かして書かれているのが警部ヴィスティングシリーズだ。日本での翻訳はこれが3作目で、1作目の「猟犬」はハヤカワで、それ以降は小学館で翻訳されている。シリーズの中ではコールドケース4部作と言われており、その2作目。通算ではシリーズの第13番目となる。シリーズといっても順を追わなくても問題はなく単体でも十分に面白い。

物語はこんな感じ。大物政治家が持病の悪化で死去。その際に彼の別荘から大金が発見された。それを見つけた同じ党の幹部からその金がなんであるかを依頼されたヴィスティング。彼は有能な鑑識員をチームに迎え極秘に調査を進めることになる、というもの。

俗にいう北欧ミステリーの部類に入る作品。「ミレニアム」のシリーズ以降このジャンルが盛んに翻訳された。読んだ印象としてはその北欧らしさとそうでない所の両方が出ている気がした。らしさというのが重厚ながら地に足のついた筆致で派手さは無いが確実に真実に迫っていく点。ユーモアやセンスで読ませるというより確かな足どりで読ませるという印象。そうでない所というのが北欧と言えばが無い点。結末が陰鬱で暗く重い、また登場人物がみな影がありトラブルを抱えているというのが北欧ミステリーの定説かな、と思っていた。しかしヴィスティングに関してはそこまでではない。1作しか読んでいないため分からないのだが、重たくなりすぎない空気がこの小説からは伝わってきた。北欧ミステリーが好きとか嫌いとかではなく、その型にハマっていない感じが私には好感を持って捉えることが出来たのだ。

ただ、どうしても地味すぎるのは否めない。登場人物が良くも悪くも「見たことあるな」という印象を持つので、そういう読み方をする人にとっては凡庸で退屈な小説となるかもしれない。加えて名前がやはり覚えにくく、人物覧を何度も見返し、ああこの人物か、と確認しなければならない可能性はある。まあ、この作業自体が翻訳ミステリを読んでる!と思わせてくれる所以でもあるのだけれど。後、ミステリーとしては犯行の動機がどうしても気になる。作中、行方不明の人物を追うことになるのだが、そうなった動機がどうも首を傾げる。まあこればっかりはお国柄もあるし好みの問題もあるので良しとしよう。

長くなったがかなり好印象な作品だった。図書館本のため、あったこの作品を手にとったわけだが十分に面白い。ここから前作の「カタリーナコード」に戻るのもいいし、次作の「悪意」に行くのもありか。あらすじ的には前作は落ち着いた雰囲気で「悪意」は派手めな話っぽい。うーん、北欧ミステリー、面白いな。


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