大沢在昌「漂砂の塔」
大沢在昌さんの「漂砂の塔」を読む。大沢さんは今年2冊目。「パンドラアイランド」を3月に読んだところだか、養分が足りなくなってきたので(笑) で、何故にこの本なのかというと、本人もおっしゃられているが、大沢作品は孤島ものに縁がある。先の「パンドラアイランド」では柴田錬三郎賞を「海と月の迷路」では吉川英治文学賞を受賞している。前者は東京の遥か南の架空の島で後者は軍艦島が舞台だ。その孤島もので最近の作品が本作の「漂砂の塔」評判もまずまずだし個人的にも好きなタイプなのでこちらを手にとった次第。ちなみに今回の舞台は北方四島にほど近い、架空の島、オロボ島。
こんな内容。潜入捜査官の石上はボリスというロシアンマフィアをミスから取り逃がしてしまう。命の危機もあるため、上司からある島で発生した殺人事件の調査を提案される。そこは北方四島にほど近い島でロシアの企業が日本と中国と一緒にレアアースを採掘している場所だった。日本の企業で働いている青年が何とも猟奇的な殺され方(両目をえぐられていた)をされていたため、社員の不安を取り除く目的もあり調査を依頼されたのだ。捜査ではないのには理由がある。島自体がロシア領のため全ての管理をロシアが行っており、日本としては捜査権も逮捕権も持っていないのだ。そんな孤立無援になるだろう状況の中、石上は1人で少しづつ真実に迫っていく、というもの。
いや、想定はしていたがやはり面白い。映画ダイハードのマクレーンみたく、石上がブツブツ言いながらも真相に近づいていく様は楽しく、グングン読める。現実世界では起こるはずがない三国(日本、中国、ロシア)が同時に生活している島のため、誰しも信用が置けない。日本人にしても企業の社員だけなので頼りになるはずがなく、逆にロシア人や中国人に敵視される始末。またあからさまに怪しい女医のタチアナにせまられると、分かっていてもなびいてしまう駄目っぷり可笑しい。だが、警官としての捜査能力は鋭く、本人は否定するのだがかなり優秀な人物となっている。物語としては連載ということで大沢さん自身、最初のプロットのみを組み立てただけの影響か場面の転換が多い。特に中盤以降はミステリー要素が薄まり、アクションサスペンスの要素が強くなり、読み口が変わってくるので、そこがどう捉えられるかがポイントだろう。またそれに伴い、日本人の登場が徐々に減っていく。逆に最初は危険な人物像だった人物がめちゃカッコよくなり、連載ものらしいなあ、と感じた。
とこの辺りが気になるところではあるのだが、流石の大沢作品でページターナーぶりは凄まじい。メリハリの効いた会話にテンポでハードボイルド作家としては貫禄があると言えよう。加えて凄いのが、この島の造形を含め全くのオリジナルということ。本人はその方が自由に出来るからいい、というのだが一から作り上げる剛腕ぶりには唸るしかない。やはり大沢在昌は孤島と相性が良い。「海と月の迷路」も読まねば。
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