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『0メートルの旅』が旅立った話
先日投稿したこの記事が嬉しいことに反響が大きかった。今回はその記事の続きなので、先にこちらを読んでから下に進まれることをオススメする。
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岡田悠さんを初めて知った時から岡田さんのエッセーの虜になっていた。だから『0メートルの旅』が出版されたときは心底嬉しかった。寝る前に『0メートルの旅』を自分の部屋で読むというまさに0メートルの読書旅を堪能していた。
どうにかしてこの本のファンであることを示したくて考えた挙句、同じ本をもう1冊購入することにした。しかし、その後のことはいっさい考えていなかった。どうしようか。このもう1冊を活かす方法はなにかないのか。
「そうだ、親友のSにサプライズでプレゼントしよう。彼なら訪れた国やスタイルは違うが僕と同じ旅好きであることには違いない。Sにもこのすばらしい本を手に取って読んで欲しい。きっとなにかを感じ、なにかを得られるはずだ」
こうしてもう1冊の行き先が決まった。しかし、これは誕生日プレゼントではないから何の前触れもなくプレゼントとして送ると困惑するだろうし、不審に思われるかもしれない。だから軽いノリでは済まされない。
もっとも恐れたのは、「送りつけられた」「読むことを強制させられている」と捉えられ、一方的な望んでいない善意を押し付けたような印象を与えてしまうのではないかという不安だった。
その結果、サプライズでのプレゼントはやめて、Sの同意と納得があったうえですることにした。親友にプレゼントをするのでより一層慎重になった。
ここで一つまた別の問題が生じた。どうやってSが納得するようなシチュエーションを作ればいいのか。
自分「なあなあS、『0メートルの旅』すごくいい本で旅好きなSにはぴったりやと思うからこの本をプレゼントするよ。だから読んでみてよ」
いや、これではただの俺の一方的な押し付けにすぎない。旅が好きであるからといって旅の本を読むことが好きだとは限らない。こっちからなにかアクションを起こすのはよくないな。ダメだ。
でもぱっと思いつくのはこのシチュエーションしかなかった。どうしようか。途方に暮れた。他にいいアイデアがないかな、と考えれば考えるほど頭が真っ白になった。焦燥感だけが僕の前に立ち塞がっていた。
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ある日、ラインの通知が届いた。Sからだ。
S「noteの方にもコメントしたけど、「岡田さんと0メートルの旅」の記事のクオリティが劇的に上がっててよかったよ」
これは驚いた。まさかお褒めの言葉をいただけるなんて。
S「読みにくい箇所がなくて、感情がしっかり伝わってオチもよかった。「2冊買いました」は想定外でそうきたか!という感じやったな。感動したよ」
S「岡田さんとその本に対する愛がストレートにかつ斬新に感じられてとても満足感の高いまま終われたよ」
嬉しさで胸が高鳴った。
自分「今までこんなにSに褒められたことがなかったから超嬉しいですわ。ただ2冊目は本当にどうしようか考えてないんだよなぁ」
S「じゃあ私にくださいな」
これだ!まさに自分が望んでいた最高の展開だった。これでSも納得して本を受け取れる。でも軽いノリで欲しいと言ってたら困るので念を押して聞き直した。
自分「本当に言ってる?冗談とかじゃないよな?」
S「えぇ、ほんと、です...」
なんとも中途半端な返事だ。しかし長年の関係から冗談で言ってないことは間違いなかったので、
自分「わかった。あげるよ」
S「まじか!ありがとうな」
こんなにあっさりと「あげるよ」と言われるとは思ってもいなかったのだろう。驚きと嬉しさが滲んだ返事だった。
これで正式に2冊目の『0メートルの旅』の次なる旅先が決定した。
ちょっと待てよ。ただ本を送るだけでは新鮮さがないな。これではなにもおもしろくない。プラスαが欲しい。僕なら他にできることがあるはずだ。「そうだ、メッセージを添えてこの本を送ることにしよう」。そう思って深夜のテンションで手紙を添えることにした。
手紙にはただただ思ったことや思いついたことを赤裸々に書いたので脈絡や論理は一切なかったけど、僕の思いは届くに違いない。
「実は俺この本をSに読んで欲しかった。買った当初は本当にどうしようか何も考えていなかったけど、読み終わって強く思った。これはSにぴったりの本だって。
けれども、どう送ればいいのか悩んだ。急に送ったら送りつけられたと思われかねないし、強制的に読ませているような印象を与えてしまうかもしれない。だからベストなタイミングをずっと待っていた。
「俺にちょうだい」と言われたとき、ベストなタイミングが舞い降りたと感じて嬉しくなった。これで気兼ねなく送れると思うとすごく気が楽になった。
まだまだ自由に旅に出れそうにはないけど、次の旅は2人で行きたいな。そして旅先で旅とは何かについてゆっくり話ができるといいな。
俺らにはどうしても成し遂げたい旅があるからなんとしても昨年できなかったリベンジを果たそうな。
この本がSにとって良書でありますように」
自分の思いをストレートにすべて書いた。
後日Sから連絡があり、本と一緒に手紙が添えられていたのは想定外すぎて夕食中に開封し、思わず「うわぁ手紙や」と声を漏らしてしまったらしい。
本を突然送るのではなく、手紙を添えて送るという違う形でのサプライズプレゼントができたのだ。
こうしてもう1冊の『0メートルの旅』は手紙とともに次なる目的地、親友という大切な人のもとへとたどり着いたのである。