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サイプレスナッチャー

人格攻撃、誹謗中傷、無差別なメッセージ、無断スクショと無断up(無断転載)などを禁じます。返金はできません。よくかんがえてから購入しましょう。













 19世紀くらいの見た目をしたホーン村。麓に墓場がある。

 男の持った青銅のランタンが揺れる。

 地面がほんのりと照らされる。

「ナンナン~」

 南無とインドとかで食べている平焼きパンを間違えて覚えている男。

 名をヒュー・スナッチャーという。死体盗人。

 垂れ下がった青いぐるぐる目にガイコツみたいな白い肌、貧乏ゆえに頬はこけているのに骨組みのしっかりした体つき、貧乏なのでシャツだけボロで靴下を履いていないというおかしな外見なので夜中に会えば逃げる者もいる。

 そんなアニミズムあふれる外見とは裏腹にあまり知性を感じさせないこの男は、さっきも言った通り死体盗人である。盗んだ死体を依頼主に渡して賃金をもらうという阿漕な商売をしているので、スコップで地面に穴を掘って道をつくって墓場に来た。

手紙

 (確か、アマンダ・ビーチ、ビル・スプリングの墓。めずらしいことに名指しだ。報酬はタンマリもらえるはず。)

 ランタンを腰にぶら下げて、地面から様子を見る。誰もいない。牧師だか神父だかもいない。

 残念ながら彼にその依頼のきな臭さを指摘する者はいない。

 スコップでゆっくりと地面から棺桶をほじくる。墓標を崩さないように、慎重に。死体がおっこちたとき、音が出ないように一部分だけ土を柔らかくしてから。

 足音が上からする。石畳から、つまり入口からだ。 
 坊主たちは眠っている。となれば同業者か?

 ヒューは困った。
 一応こっちの縄張りだ。それに、時間だってお互い被らないように決めたじゃないか。手を組むとなると役割分担が出来て、手際が良くなるが、分け前で揉める。
 約束を速攻で反故にする旨味がない。だったらこいつはモグリの同業者だろう。

 そう思って土の中から顔とツルハシを出す。

 煌々と光る赤い目が間近に迫ってきた。

「ぎゃ」

 あやうく墓地に絶叫が響きわたりそうだったが、済んでのところで飲み込んだ。口と鼻周りをローブの袖が押さえつける。

 土が崩れて目にかかる。

 茶色のローブの裾を掴んで、こちら側へ引き寄せる。

「なにすんだ」

 妙に高い声。掴んだ腕は細いが荷物が多いのか、重い。

「人が来る」

「えぇ?」

 口をふさぐ。坊主じゃない。暗くてよく見えないが、ハンチング帽をかぶった2mの人物と背中の曲がった半妖。

(あれは…半妖は、依頼主じゃねえか。なんで来たんだ!)

 脇腹に違和感を感じる。こそばゆい。
 イタズラにしては状況がおかしい。こらえているとそれが指文字だと分かる。

 おまえ こいつら しってるか

 頷く。

 どっちだ

 太い指で背中をなぞる

 ちいさいほう

 こっちは おおきいほう 

「ウグ…ムググ…」

 脇腹と背中をなぞっているうちにこらえきれなくなる。

「誰だ!」

 半妖のよく通る嗄れ声。
 赤目がすかさず腰に両腕を回した。

(なにすんだ。おれは逃げるぞ一人で。)

 だが、このままいても二人仲良く捕まるだけだ。

(ナン~!)

 スコップをしゃかりきに動かして進む。

 もぐらは土を掘るようにできた手をしてるし、魔法やらPSYなどをまとめて総称する「能力」とやらを持つ人間は、それを使って進む。

 だが、ヒュー・スナッチャーは人間である。この世界に生きているので、どこかしら妖怪やらなんやらと混ざっている可能性は否めないが、「能力」を持たない。したがって、この穴掘りは彼が唯一持ち合わせている技術である。

 もし、赤目が振り落とされたって彼は気にせず進むだろう。というくらい穴掘りに集中していた。

(撒けたか?)

 彼が警戒すべき場所はそこではない

「ご苦労さん。約束の死体は持ってきたんだろうなぁ?」

 待ち伏せだ

「ウゲ!?」「こっ、ここっこ」

 正面だけでも四人。ツルハシやら斧やら石やら。臭い汚いでかい男の集団。

 火薬と鉄の臭い。

「銃だーーーーー!?」

「うごくなよぉ?」「動いたらドッカーンだからな」

 崖っぷち、八方塞がり、袋のネズミ、絶望の底、手詰まり、どん詰まり、カタストロフィ

「おい…」

 スコップを握りしめる。

「おとなしくしたら返してやるからよ…」

 掘り進めた通路から足音がする。よくとおる嗄れ声がした。

「ど、どうせ殺すくせに…」

 依頼主の半妖の男。背骨は曲がっていて、左頬にはバイクのマフラーのような機械が生えている。目はぎょろついていて、右目は黒のスモークガラス。髪の毛はチェーンのような質感の部分と、人間の部分に分かれている。こげ茶のコートにスーツといった服装である。

 半妖は妖怪と人間のあいのこで、片方の形質だけが出る場合もあれば両方の形質がうまく出た場合、ひどい時は外見だけが半分人間半分妖怪といった有様のものもいる。
 人間の美的感覚からして醜悪といえる人外と交わろうものなら、その形質を子も受け継ぐ可能性もある。
 国、村やら町によって法律が違うので一律には言えないが、半妖の存在をややこしいととっている者が多い地域柄であると半妖を迫害する地域、異種族間での繁殖行為及び出産禁止令、地元ルールで親ともども殺そうとしたり、出産すれば間引かれることも多々ある。

 ここでは迫害はされるが、殺すと法律に触れる。一応妖怪とも共存しているがためである。上記の法律などが制定される前は、お互いがお互いの権利を尊重しなかったこともあり、人外や妖怪が人間を襲って子供をつくった事件、逆に人間が妖怪や人外を襲う事件などが多発しており、ゆえに見た目などは純人間であろうが先祖をさかのぼれば人外や妖怪の血が混じっていることが多い。

 そしてこの半妖の小男は機械の人外と人間の子であり、この村でそれなりに幅を利かせている。
 名前をモーガン・チャンバー。
 前の村長を追いやって半妖への迫害を緩めた男として有名でありながら、黒いうわさの絶えぬ男である。
 実際に叩けば出る身なので、男女の死体を死体盗人のヒューに依頼したのだが。

「今は言う事聞いておけ」

 赤目はどうやらヒューより頭が回る方のようだ。
 それを感じ取ったのかスコップ大乱闘は取りやめて、依頼主の指示を聞いてせこせこと先頭を歩く。
 背中に刃物の臭いを感じながら。

 結局墓地の通路に戻された。
 湿った土と苔のにおいが充満した場所。神父が子供の頃よく話しかけてきたものだし、飯を恵んでもらう代わりに毎週一回の説法を聞かされて寝ていたなどと益体もないことを思い出しながら、先ほどやりかけていたアマンダ・ビーチの棺桶を通路内からピッケルやスコップをつかって柔らかな土の下に落とす。

 証拠を残さずにやるのが彼のやり方であり、ポリシーである。道具を使っているにもかかわらず棺桶を傷つけずにこちらへ置いた。

 本当はこんな大勢の素人と来たくなかったと、ヒューは思う。武器や足音がうるさいし、依頼主に至っては機械の半妖だ。
 依頼の手引きは事前に言い含められ言い含めた内容と違うし、脅されるし、散々だ。

 赤目はヒューのそばにいる。

「げ…!」

 棺桶のふたをこじ開けると女の死体があった。

 女の眼球は深く閉じられているはずなのに目がかっぴらいていた。瞳にエメラルドがはめ込まれ、皮膚には幾何学模様のような、青緑の文字が描かれているように見えたものの皮膚のよりかたからして、内側の皮膚を浮き彫りさせているのかと思えば違う。

「皮をはげ」

 男たちの中の何人かがヒューと赤目の腕を縛った。

「いたい、いたい」

 赤目はヒューが考えた通り貧相な体なのでうめき、モーガンの取り巻きと思しき男がねめつける。

 男たちのうち一人、否周りの服装と同じような女が一人前へ出た。
 死体を解体することが得意なのか、鮮やかな手つきで皮を剥ぐ。男たちは横やりをきにして周囲を警戒しているようではあるが、また雇い主のお目当ての品をのぞき込む。

 女死体の内臓よりも奥深くに冷光があった。レントゲンで写した臓腑のように発光している。胃腸や心臓をかきわけ、一つ一つ取り外していくと胆礬に輝く骨が露出し、骨は頭部に近ければ近いほど光が増していた。

「⁉」

 皆が一斉に絶叫の方へ目を向けると、上から土が降りかかる。湿った土が男たちの口と視界を覆う。

 がりがりと軽く乾いたなにかが土をひっかく音が引っ切り無しに鳴り、男たちは土を振り払うべく二人を地面に投げる。ヒューはそのまま男をタックルする。


 瞬間、上と四方をかこんで骸骨と腐乱死体が土を破って飛び掛かる。蚯蚓や蛆が眼窩からはみ出た土葬死体たちが不揃いな歯を鳴らして噛みつく。

「ぎゃああ!」

 赤目は縛られた腕を同じ背丈の腐乱死体に差し出す。腐乱死体は理性でもあるかのように、赤目の真っ白な細腕に慎重な手つきで触れ、縄の結び目を骨や肉が軋むのを無視して指の力だけで千切った。

 その足で倒れているヒューに近づき、死体が縄をひっぱって立たせ、荒々しく縄を引きちぎる。

「逃げるぞ」

 死体の集団とモーガン達の混戦。

 ここが整備された道じゃなくてよかった。機動力のあるモーガンに近づかれたら終わりだ。

 

 


 


 


 

「もう帰れねえな。」

 秋空のように遠くなった村を見る。

「あああ当たり前だよ!身元は割れてるし、村の偉い奴を敵に回したんだよ。しかも死体まで使って大暴れしたんだ」

 なぜ住民ですらない赤目に、ヒューが説明を受けているのか。

「おまけに、依頼品かっぱらっちゃった…」

 ヒューはもじもじしながら胆礬の髑髏があるであろう女死体の頭部を出す。

「最悪だよ!」

 しまえと言わんばかりにズタ袋に押し込む。

「目指せ一攫千金」

「調子がいいな?」

(思ったよりも頭が悪いが、思ったよりは頭が回る…のか?)

(こいつは何の依頼で来たんだ?掘り返したときにハンチング帽はいなかった)


こうして二人の逃亡生活が始まった。






























「くそ…あの二人め…」

 モーガンは頬のマフラーを吹かしていた。
 蒸気に近くの男の顔が火傷する。周囲は騒がしい。村の手配書も意味が無いだろう。

 赤目自体は流浪の占い師。死体盗人の粗末な家にはがらくたばかりで、もぬけの殻。ヒューの身内を人質にしようにも天涯孤独。

「片方は残っているんだな」

 ハンチング帽がいた。影のせいでシルエットしか見えない。
 男たちは一瞬黙った。

「ああ」

「それがきちんと役に立つには、あいつらの持ってるものと一緒じゃなきゃ意味が無い」

 机の上で太い骨格の薄い胆礬の髑髏が照らされた。

 



 

 

 

 

 






 

 

 



参考文献

イトスギの概要:https://www.weblio.jp/wkpja/content/イトスギ_イトスギの概要


捕捉解説

この世界は地域によって文明の進み具合が縄文~近未来ほど異なり、多種多様な魔法や呪文がある。更に人間、半妖、妖怪、龍、概念、神、惑星などの千差万別の種族が混在している。神は我々が現実に知っている神様とは名称も見た目も違う。たまに異界から来る者がおり、どのような世界からやってくるかの法則性は不明。

今回の舞台は19世紀の中世イギリス風の村であり、半妖の居住を合法化している。殺害すれば人間と同じく牢屋送りであり、三人(これには半妖も人間も含める)殺せば死刑。

余談:モーガンは自分の両親と前の村長を殺している。なお、この村での半妖は、人外と人間との子供を指しており、モーガンの片方の親は正確には機械生命体。





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ジャーネィ
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