行動指針はチームのコミュニケーションを滑らかにし、チームを強くする
1.チームにおける「仕事への取組み姿勢や価値観のズレ」を引き起こす要因とは?
キャピタリストという職業柄、一日のスケジュールの大半はスタートアップとのミーティングがメインになるのですが、よく経営者から相談を受ける内容として、事業の話と同じくらい多いのが組織の話です。
シードステージでは、顧客が抱えている本質的な課題の発見とそのソリューションとしてのプロダクトの磨き込みに集中し、初期的なPMFを目指す。そしてシリーズAでの資金調達を完了し、組織が急拡大していく中で、起業家や経営チームをさまざまな角度から悩ませ始めるのが組織の問題です。
これまで、組織トラブルを回避するために意識すべきポイントや、シードスタートアップの組織論というテーマで、強いチームを創る上で意識すべきポイントなどについて書きましたが、
このnoteでは、行動指針(Code of Conduct)について書こうと思います。
なぜ行動指針についての記事を書こうと思ったのか。それは、チームが急拡大する中で、チームにおける仕事への取組み姿勢や価値観がだんだんズレてきている気がする、といった相談を経営者や経営チームから受けることが多くなってきたのがそのきっかけです。
相談を受けた相手に対して、どのような場面でそれを感じるのですか?と聞いてみると、
「自分一人で仕事を抱えるのではなく、仕事のプロセスをオープンにし、色々な人を巻き込みながらチームならではの大きな成果を目指す。そういう共創型の仕事をぜひみんなに実践してほしいと思っているのですが、個人プレイが目立つのですよね。」
「心理的安全性という言葉が盾となり、本音での対話ができなくなりつつあるんですよね。意見の相違を避けるために本音で話せなくなった結果、一人で不満を溜め込んでいたり。お互いに傾聴の意識を持つことで、意見が異なることをむしろ楽しみ、大きな成果に変えていけるとよいのですが。」
のような答えが返ってきます。
このような伝達ロスが経営者を悩ませているケースはとても多いと思うのですが、CI(Corporate Identity)が既に存在し、ともにビジョンの実現に向かっていける優秀な仲間が採用できているという前提に立てば、これらの大半は、「仕事への取組み姿勢や価値観」が属人化してしまっていて、「仕事への取組み姿勢や価値観」がチームとして共通言語化されていないことが引き起こす問題だと考えています。
このnoteでは、支援先スタートアップとの実践を通じて培ったナレッジや、私たち自身がこれまで実践してきた経験をもとに、チームのコミュニケーションを滑らかにし、強いチームに向かうためには具体的に何をすべきかについて書いてみようと思います。
2.行動指針の役割
ビジョン、ミッション、バリューと並んで、行動指針(Code of Conduct)というものがありますが、行動指針とはどのような概念でしょうか?
調べてみると、「企業が活動を行う中で経営理念やビジョンを実現する為に社員の規範となる行いを定めたもの」、「何かを行う際に、自分の進むべき道、取るべき態度を決めるための羅針盤となるもの」といった説明があります。
あくまでこれらは一例であり、他にもさまざまな定義や捉え方があると思いますが、改めて行動指針の役割について考えてみたいと思います。
私たちは、日々仕事をする中で、仕事への取組み姿勢や価値観について、たくさんの分岐点にぶつかり、A or Bの選択を積み重ねています。一例を挙げると以下のような感じです。
成果の選択:
言われたことをやる or 相手の期待を大きく上回ることを目指す
スピードの選択:
納期に間に合えば良しとする or 納期を大きく短縮することを目指す
コミュニケーションの選択:
仲間に気を遣って意見が違うことを回避する or 本音で対話して本質的な解決を目指す
そして、チームが急拡大する中で、ある人はAを選択するが、ある人はBを選択するなどの違いが頻繁に発生しはじめると、「チームにおける仕事への取組み姿勢や価値観が合っていない状態」を生み出していきます。
行動指針の役割の一つは、個人が持つ個性や多様性を侵さない、仕事に対する基礎的な価値観の領域において、チームとしての仕事への取組み姿勢や価値観を共通言語化しておくことで、A or Bの選択をする際の羅針盤としての役割を果たすことだと考えています。
3.私たちの取組みについて
私たちの場合も、仲間が増えるにつれて同じような壁にぶつかり、行動指針を定めた経緯があります。以下の様子は、2019年12月にジェネシアの全メンバーが中国/上海に集まり、経営合宿をした際の一場面ですが、全員参加型で、仕事への取組み姿勢や価値観についての棚卸しと言語化を実施しました。また、なぜその取組み姿勢や価値観が重要だと考えるのかの背景についてもできる限り議論しました。
そして、全員で紡ぎだした言葉を、General Partnerの鈴木とリレーションシップ・マネージャーの吉田(愛)がプロジェクトオーナーとなり、行動指針として落とし込んでくれました。もちろん、行動指針を決めるだけではなく、その実践者をチームメンバーが定期的に表彰したり、slackのスタンプでリアクションしたり、試行錯誤しながらチームの共通言語として深く浸透させるべく頑張っています。また、行動指針もこれが完成形と言うわけではなく、カルチャーブックのような形で、時代の変化やチームのフェーズに合わせて、チーム全員でじっくりと育てていくつもりです。
尚、行動指針を策定する際に意識すべきことは、経営チームだけで行動指針を決め、メンバーとそのプロセスを共有せずに結論だけを渡すという方法を採らないことです。この方法を選択してしまうと、一人一人が当事者になりえないどころか、自分の言葉として心の中に染み込まず、仕事の分岐点における羅針盤として本質的にワークしないので、出来るだけ早いタイミングで、みんなを巻き込んで共創していくことが重要だと感じています。
4.行動指針はチームのコミュニケーションを滑らかにし、チームを強くする
私たち自身の経験も踏まえて、私たちが感じている行動指針の策定による効用ですが、ざっと思いつくだけでも、以下のような効用があると感じています。
・仕事への取組み姿勢や価値観についてのチームとしての共通言語が持てたことで、意思決定のズレが減り、事業のスピード感が高まった
・一人一人がよりハイスタンダードを意識し、実践するようになった
・ジェネシアらしさを形作る、いわゆるカルチャーの礎を創ることができた
とはいえ、行動指針はそれ単体でワークするものではなく、CI(Corporate Identity)が既に存在し、チームとして成し遂げたい世界観や、チームとして向かっていく方向性がシンクロできていてはじめて、大きな威力を発揮するものだと思います。このあたりはこちらのnoteも参考にしてください。
最後に、この記事を読んでくださった人の周りに、もしスタートアップの組織創りに関わっている方、組織創りに悩んでいる方がいれば、是非シェアいただければ嬉しく思います。
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