フィンランドでの在外研究への道程
EU加盟国かつシェンゲン協定加盟国であるフィンランドでの在外研究に行くまでのプロセスを備忘録として残しておこうと思います。
アアルト大学
2020年4月から1年間のサバティカル(研究専念期間)の承認を勤務校から獲得したので,2019年4月頃から滞在先を探しはじめました。前回のサバティカルでは,アメリカのワシントン州にあるThe University of Washington, Foster School of BusinessのVisiting Professorとして迎え入れてもらった(受け入れてくれたのは御大Terry Shevlin先生ですが,すぐ移籍したため,実際のアドバイザーはDawn Matsumoto先生)ので,次はヨーロッパに行こうと思い,調査を始めました。
そこで趣味と実益を兼ねて,候補地として検討されたのが,
- Amsterdam Business School
- Stockholm University
- Aalto University
の3校でした。北欧デザインや建築,文化に関心があったため,北欧に行きたいという強い動機もあり,これらの大学を候補地としました。
まずは各大学のウェブサイトに行き,ビジネススクールに所属する教員らの専門分野,どんなジャーナルに論文を掲載させているのか,どんな授業をしているのか,を調べました。その上で「誰々とこんな研究がしたい」というメッセージと共に,
- Working Paper
- Research Proposal
- 履歴書
を,Department of Accounting & Business Law のHead(Seppo Ikäheimo先生,ちなみに現在のHeadはTeemu Malmi先生)にメールで送付しました。すると,快く受け入れてくれたのが第一希望だったAalto University, Business Schoolでした(本当にありがとうございました!)。学会などで知り合った先生にお願いするケースもあると思いますが,前回は決定権限をもつエラい先生に直接メールを送って受け入れてもらっているので,今回もその作戦でいきました。
在留許可証
シェンゲン協定加盟国であるフィンランドに滞在する場合,任意の180日間で最長90日であれば日本のパスポートのみで入国・滞在が可能ですが,それを超えて滞在する場合,在留許可(Residence permits)が必要になります。ここでは,研究者のための在留許可(residence permits for researcher)の取得までのプロセスを説明します。詳しい情報は,フィンランドの入国管理局のウェブサイトにあります。必ず参照してください。
https://migri.fi/en/researcher
在留許可証を受け取るまでのプロセスは大きく,
1. 必要な書類を集める。
2. Finnish Immigration Serviceのウェブサイトに必要事項を入力し,各種書類をスキャンしたPDFファイルをアップロードする。
3. フィンランド日本大使館のウェブサイトから面接日を予約する。
4. 許可が出れば,在留許可証が届く
となります。以下ではそれぞれのステップについて説明します。
必要な書類
在留許可を得るまでに必要な書類は,
1. Hosting Agreement
2. アポスティーユのついた,公認翻訳者による証明書のついた全部事項記載の戸籍謄本
3. 渡航者全員の有効なパスポート
4. 所属大学が発行する英文の派遣証明書
5. 所属大学が発行する英文の所得証明書
6. 出身大学院が発行する英文の学位証明書
となります。
Hosting Agreement:
フィンランドにある大学からVisiting researcherのポジションで招聘される場合,Hosting Agreementという書類を相手の大学に作成してもらう必要があります。おそらくAcceptance Letterと一緒に送ってくれると思います。これは紙でなくても,PDFファイルでも大丈夫ですが,相手の受入教員のサインや,受入期間,受入部門などが記載されていることが重要ですので,よく確認しておくと良いでしょう。Aalto Universityの場合は部門の秘書さんが全部やってくれました。
アポスティーユ付き,公認翻訳者の証明書付き,全部事項記載の戸籍謄本:まずは自分の本籍地で全部事項記載の戸籍謄本を取得します。これを外務省に持って行き,アポスティーユをつけてもらいます。郵便局のレターパックプラスを購入し,自分の住所を書いて持って行くと郵送手続きも簡単にできます。
アポスティーユについてはこちらを参照ください
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000548.html
僕は大阪の谷町4丁目にある外務省の大阪分室に戸籍謄本を持っていけたため,提出翌日にはアポスティーユのついた戸籍謄本が手元に届きました。
次に戸籍謄本を英語に翻訳する必要があるのですが,ここで注意点として,自分で翻訳するのではなく,決められた公認翻訳者に翻訳をお願いし,証明書をつけてもらう必要がある,ということです(正確には自分で翻訳することも可能だそうですが,お勧めできないとのことでした(外務省の人談) )。よって僕は
リーガルトランスレーション栄古堂さん
http://www.naati-translators.com/family-register/familyregister-finland.html
に戸籍謄本の翻訳をお願いしました。費用は約45,000円くらいで,納期は2週後だったと思います。これでアポスティーユのついた戸籍謄本と翻訳が完成です。アポスティーユや翻訳はホッチキスで戸籍謄本の原本に留められているので,破れないよう気をつけて折り曲げながら,コピー機でスキャンしてPDFファイルにしました。
渡航者全員のパスポート:
渡航予定の全員の有効なパスポートが必要です。パスポートの写真のページのみならず,スタンプが押されているページすべてをスキャンしてPDFファイルとしてアップロードする必要があります。
所属・所得・学位の証明書:
最後に,勤務校に発行してもらえるであろう所属と所得の証明が必要です。僕の勤務校の場合は,所属大学と所属学部,そして直近年の年収と在外研究のための資金を米ドルで記載してあったため,1枚で所属と所得の証明書になっていました。研究者のための在留許可の場合は学位の証明も必要なので,出身大学院の英文の学位証明書も用意します。もちらんこれらの書類もすべてPDFファイルにしておきます。
ウェブで情報入力と書類提出
書類が揃ったら,次はフィンランドのimmigration serveceのウェブサイトにアカウントを作成し,必要な情報を記入していきます。すべて英語で指示があるので,Google翻訳などを利用しながら入力すれば,間違うことはないでしょう。
注意点としては,1人で行く場合は自分のアカウントだけを作成し,自分の情報を入力すればよいのですが,家族で行く場合は,研究者である自分のアカウントの中で子供の情報を入力します。しかし配偶者のアカウントは配偶者自身が作成し,情報を入力する必要があります。研究者用の申請は420ユーロ,子供は1人240ユーロ,配偶者は470ユーロと,なかなか高額の申請料が要求されます。もちろんクレジットカード払いです。
用意した書類のPDFファイルをアップデートし,適切な内容を入力すれば,電子申請は終わりです。というものの入力項目が多く,なかなか面倒なので時間がたっぷりあるときに行うことをお勧めします。
大使館で面接
電子申請が完了したら,次は東京都の高級住宅街である南麻布にあるフィンランド大使館での面接を予約します。申請者全員が面接を受ける必要があります。フィンランド大使館のウェブサイトの予約システムから面接日を予約することができます。
https://finlandabroad.fi/web/jpn/ja-frontpage
しかし,このシステムがなかなかのもので,何度やっても予約日が選択できない,という不具合が発生しました。そんなときは大使館に電話して,対処方法を尋ねるのが確実です。
大使館での面接に持って行くものは,
- パスポート
- パスポート申請サイズの顔写真
- 電子申請で提出した書類の原本
となります。
滋賀県から自家用車で大使館に向かったのですが,大使館の近くにはコインパーキンはすべて満車で,少しは離れた場所にしか駐車場を見つけられず,しかも1時間で3000円とか田舎者からすれば超高額なところしかなかったので,最寄り駅からタクシーで行くことをお勧めします。
面接で行われることは,指紋の採取と書類の確認,在留許可証が届くまでのプロセス,在留許可証を自宅に送ってもらうための封筒作成(600円),でした。Hosting AgreementはメールでPDFファイルを送ってもらった,といえば原本が無くても問題ないですが,一応プリントアウトして持って行きましょう。
噂では,スウェーデンの在留許可の取得には面接などなく,オンライン申請のみで完了するらしいです。
終わり
面接が終われば,後は在留許可が下り,在留許可証が届くのを待つだけです。Finnish Immigration Serviceのウェブサイト上で,プロセスの進捗が確認できます。もし書類などに不備があり,追加の情報を求められる場合は,このFinnish Immigration Serviceを通して追加情報のアップロードを要求されるので,定期的に確認するようにしましょう。全く問題なければ,面接日から約2週間で許可が下り,そこから約2週間で許可証が届きます。
在留許可証が手に入れば,後はフィンランドに行き,1年間の在外研究生活を満喫することができます。以上,ほぼ自分のための備忘録でした。
(追記)
某ウィルスの影響により,EU圏の封鎖に伴い,フィンランドも事実上の国境封鎖となりました。したがってこれが解除されるまで,フィンランドへの入国は困難な状況にあります。在留許可証を持っているものは入国できる,という文章も確認できるのですが,急いで行ったところで,大学も機能していないので,5月までは日本で待機することになりました。無念