詩『電』
稲妻がビビッドに空を走るさなか
ヒューズの飛んだぼくは停電していた
結局はONかOFFしかないのに
ファジーな世界に疲れてしまった
住人をなくした水槽はそのまま水をまわしている
せせらぐ音は心地よく気分を落ち着かせてくれる
プラグを抜けば終わる現象ではあるが
生命の起源も電気じかけだ 構わない
そこでソリッドな思考が小突いてくる
停電した自分は生きているのか
足に合わないシューズを引っ掛け
豪雨の刺す屋上へと躍り出る
メソッドが存在するのかどうか
ミューズでさえも歌えやしない
単にONかOFFでしかないのなら
人の生死はなぜ心を揺さぶるのだろう
閃光 休符 空を割る音
グラーヴェ グラーヴェ
グラーヴェ!
ステージの明滅と暗転
鳴り止まぬ雨音の喝采!
照明に浮かぶ紅潮した顔はほかならぬ自分
終演を目指し鉛色の雲が流れ去る
ずぶ濡れも気にせず見送りながら
遠のく雷鳴を聴いていた
クリアな世界に一方的に憧れて
ヒューズを飛ばしてきたぼくは
シューズを両方蹴り飛ばし
スイッチが入ったようにひとり笑った