ドルフロ考察④「プロジェクトD‐戦術人形開発史・IOP編‐」
ドルフロ考察その4です。今回はゲームの主役である「戦術人形」について、その開発経緯や各バリエーションによる違いなどから、ドルフロ世界における人形たちがどういった存在なのか考えていきます。
1.戦術人形の開発系譜
自律人形および戦術人形は、第三次世界大戦(以下、WW3)を節目に戦前~大戦中に開発された「第一世代人形」と大戦後に開発された「第二世代人形」とに大別されます。以下の系統図を参考に、各世代ごとの開発経緯をたどってみましょう。
・1-1.第一世代人形~自律人形開発とその軍用化~
○ALR(Auto Labor Robot)シリーズ(2035~)
ドルフロ世界で人型ロボット開発が本格化するのは、新ソ連(ロシア)が2031年に始動した「シベリアライフライン計画」がキッカケです。この計画はシベリアのイエローゾーン(汚染区)内にある鉱山や工場を完全オートメーション化し、シベリア鉄道を使って各地へ運搬するという国家プロジェクトです。
ここで求められたのが画期的な作業用アンドロイド――「自律人形」でした。従来のロボットアームや作業機械によって産業をオートメーション化するには生産ラインを全て一から作り直す必要がありますが、「自律人形」ならば既存の設備をそのまま利用できるメリットがあったのです。
そしてハーヴェル・ウィトキンを責任者とする開発チームにより2033年に研究がスタートし、2年後の2035年に全ての自律人形のプロトタイプにあたる「ALR-50(T)」が開発されます。(注1)
「ALR-50(T)」は組み立て工程が多く量産に不向きであったため、すぐに開発チームは改良を加えた2種類の後続機「ALR-50E2(T)」と「ALR-51C(T)」を開発します。
この2機のトライアルの結果、試作1号機「ALR-50E2(T)」が正式採用され2036年11月に初の量産型自律人形「ALR-52P」として量産が開始されます。これにより新ソ連・中国ではイエローゾーン内の労働力として「自律人形」が普及しました。
2030年代の人形は第二次産業での利用(無人化された鉱山・工場内での作業)が主流だったため、金属フレームやセンサー類がむき出しのまだまだロボット然とした外見だったようです。またこの時期は国営工場や大企業などの国家・法人からの発注がメインで、一般人には縁のない存在でした。しかし「ALRシリーズ」によって「自律人形」という呼び名が定着するなど、人形開発におけるブレイクスルーとなりました。
なお、欧米ではイエローゾーン内の産業を放棄したため「自律人形」は普及していません。(「オーロラ事件」で被災した中央・東ヨーロッパの一部からは需要があった)
○CSD(Common Strengthen Doll)シリーズ(2037~)
ハーヴェルは2035年にウクライナで人形メーカー「I.O.P.社」を設立し、新ソ連・中国政府からの「ALRシリーズ」大量受注によって大きな資産を獲得します。(注2)
その一方で、ハーヴェルには技術者として『次世代の「自律人形」を開発したい』という願望がありました。そして当時EUが開発していた車両自動運転システム「アサルト・アーテラリ」の試験に、一旦はお蔵入りになっていた試作2号機「ALR-51C(T)」を提供します。
この共同開発によって「ALR-51C(T)」はより人間的な造形に改造され、「TD-01 ベイビー」へと改称されます。この機体こそ、後の「戦術人形」に代表されるIOP人形の始祖となる人形です。
「TD-01 ベイビー」は半年間の研究を経て、2037年にソフトウェアの改良や駆動系に人工筋肉を取り入れた汎用型人形試作2号機「CSD-02」へと改造されます。以後、ハーヴェルは「CSD-02」の改良に資産を投入し、より人間に近い「CSDシリーズ」の開発に力を注ぎます。
(「CSD-03H」はセンサー系を改良した人形。「CSD-04/05」は設定資料に記述がないものの、より人間的な外見を目指した機械骨格や人工筋肉・人工皮膚などの改良過程にあった人形だと推測されます)
この頃、ヨーロッパでは相次ぐ紛争で国外へ避難する若者が続出し、高齢化による労働力不足に陥っていました。これに商機を見出したハーヴェルは、2043年に満を持して第一世代サービス人形「CSD-06/07/08 ニンフ(Nymph)」をリリースします。
「ニンフ・シリーズ」は都市労働用に開発された女性型のサービス人形でした。ゲームに登場する人間と見分けのつかない外見をした「自律人形」はこの時に誕生した訳です。「ニンフ・シリーズ」は人々から歓迎され、新ソ連を含む東ヨーロッパ各国で流行します。(アメリカ・西ヨーロッパについては設定資料に記述がなく、またも普及しなかったようです……orz)
2040年代前半の人形は「ニンフ・シリーズ」の登場により第三次産業(福祉・サービス業)へと需要が拡大し、特に老人介護・生活補助の分野で一般家庭にも広く普及しています。ウェイトレスや家政婦・メイドロボットとして人形が人間社会に溶け込んでいったのはこの頃です。
この時期のIOP社は人形の軍用化には消極的で、「ニンフ・シリーズ」による民間市場メインで需要を伸ばしています。そこに転機が訪れたのは2045年、WW3開戦により「IOP社」は「鉄血工造」と共に軍に接収され、自律人形の武装化を命じられたのです。
○CSD-08A/B(2047~)
IOP社は軍部のオーダーに応える形で「CSDシリーズ」を武装化し、2047年6月に汎用型武装人形試作機「CSD-08A/B」を完成させます。しかし、この機体はほぼ「ニンフ・シリーズ」に銃を持たせただけの急造品であったため、前線の兵士からは「ウォーキング・ターゲット(動く的)」と揶揄されるお粗末な性能でした。
「CSD-08A/B」は2047年8月に米ソが激突した「ドイツ戦線」に投入されるも、『自律性が低く近距離で指揮する必要がある』『構造が複雑で故障が多い』と評価は芳しくなく、もっぱら後方の予備陣地で銃座代わりに使用されたとされます。
IOP社の軍用人形開発が難航する一方で、「鉄血工造」製の軍用人形は「イェーガー・シリーズ」を中心に前線から高い評価を得ていました。
『このままでは鉄血にシェアを奪われてしまう……』
2049年、焦りを抱くハーヴェルとIOP開発チームのもとに思わぬ救いの女神が現れます。「90wish」と戦術人形の母となる天才科学者・ペルシカです。
○ACDシリーズ(2050~)
「90wish」がインターネットで公開していた革新的な論文を目にしたハーヴェルは、メンバーをスカウトするため各方面に働きかけます。そして元メンバーであるペルシカとリコリスを発見すると、二人に人形開発への協力を依頼したのです。
これによって2049年に後の「16LAB」の前身となるダミー会社「ハーミット」が誕生しました。「ハーミット」を隠れ蓑にペルシカとリコから技術提供を受けたIOP社は、「CSDシリーズ」の性能改善に取り組みます。
そして、2050年に次世代型軍用人形「ACD-50」を実用化します。これは「CSDシリーズ」の機動性を犠牲に構造をシンプル化し、防弾性能を強化した機体です。
『被弾率を減らすため頭部を小型化』『カメラを保護する防弾板』『制御系は装甲で守られた胸部に移し、導管で頭部と接続』と設定資料にあることから、「ACDシリーズ(注3)」はゲームで正規軍が使用している「キュクロープス」だと思われます。
※ゲームに登場するのは「ツェナー・プロトコル」への対応などいくつかの改修がなされた「ACD」後継モデルだと推測される。
「ACDシリーズ」の人形は2050年~2051年にかけて「貿易風作戦(イタリア・フランス攻略)」に投入され、大きな戦果を上げます。「ACD-50」は現場から高く評価され、2051年に登場した改良型「ACD-51」と合わせて大戦期に最も多く生産された軍用人形シリーズになりました。(派生モデルであるR型とT型は生産数が少なくあまり使用されなかった)
これによりIOP社は鉄血からシェアを取り戻し、「ACDシリーズ」はIOP製軍用人形ブランドとして2060年代でも軍に使用されるヒット商品となったのです。
○IADシリーズ(?)
「ACDシリーズ」が成功を修める影で、IOP社は「CSD-08A/B」を改良したもう一つの武装人形シリーズである「IADシリーズ」を開発しています。
「IADシリーズ(注4)」の内部モジュールは「戦術人形」の雛型となっており、いわば「第0世代戦術人形」と呼べる直系のプロトタイプなのですが……詳細は不明です。今のところ設定資料には『CSD-08A、CSD-08Bとその派生型のIADシリーズ』としか語られていないため、製造年代や型式番号含め全てが謎に包まれたミッシングリンクとなっています。
* * *
大戦期(2040年代後半)の人形は兵器としての利用価値が見出だされ、軍からの需要が拡大しました。米ソの勝敗を分けたのは「人形部隊」の有無にほかなりません。その一方で、この時期の人形はソフトウェア――つまりAI技術がまだ発展途上にあり自律性に欠けていました。「第一世代型人形」は外見や戦闘能力は人間に追いついても、その中身(=AI)はまだ与えられた命令を実行するだけの「ロボット」の域を出ていなかったのです。
これら「第一世代人形」の弱点は、戦後に登場する「第二世代人形」によって克服されていきます。
・1-2.第二世代人形~16LABと戦術人形の登場~
○SSTシリーズ(~2054?)
2051年にWW3が終結すると、戦火で失われた労働力を補うため民間からの人形需要が拡大します。戦後のヨーロッパでは国力の衰えた各国政府が地方の管理を民間へ委託したことでPMC(民間軍事会社)が台頭し、「民生用の武装人形」という新たな需要が生まれていました。
IOP社は複数の大手PMCやグローバル企業と取引を交わし、なかでも2053年に創業した民間軍事会社「グリフィン&クルーガー」と業務提携を結びます。
グリフィンの最高責任者・クルーガーは元軍人であり、WW3で多くの部下を失った経験から戦術人形の導入に積極的でした。IOP社と「ハーミット」はグリフィン社から得られた人形の運用データをもとに「CSD-06/07/08」と「SST-02A/03」をバージョンアップします。ハーヴェル・クルーガー・ペルシカは互いに面識があり、密接な協力体制を築けたのです。(注5)
「CSD後期型」と「SSTシリーズ(注8)」には擬似感情ソフトウェア(感情モジュール)が導入され、顧客の要望に合わせ機能をカスタマイズ可能になり、高いコミュニケーション能力と美しい外見で好評を博します。自律人形が感情豊かなAIを持つようになったのはこの時期です。
(設定資料にはこの時のバージョンアップで『明らかな性別上の外観が加えられた』とあり、つまりオパーイや局部も精巧に作られたってことですね)
またこの時期は動力面でも大きな発展がありました。2052年に新ソ連・国立大学研究所が新型の「プラズマ・バッテリー」を開発したことで、人形の稼働時間が20時間から150時間へと大幅に伸びたのです。それまでは毎日充電していたものが、週に一回で済むようになったのは画期的です。
「CSD後期型」のサービス人形は政府・企業・一部個人の間で飛ぶように売れ、この成功を受けてペルシカはより高性能な「第二世代戦術人形」の構想を打ち出すのです。
* * *
――と、ここで問題になるのが2053年時点でいつの間にか「第一世代戦術人形」が登場してる点です。(注6)例によって設定資料では「SST-02A」と「SST-03」が、いつどのように開発されたのか記述がないという……(汗)
前項で触れたように戦術人形の型番である「SSTシリーズ」は大戦時に開発された「IADシリーズ」から発展しているので、ペルシカが参加した2049年から2053年の間に「第一世代戦術人形」の開発がスタートしたと推測できるのですが、この辺りの系統図が分かりません。
仮説としては、開発初期の「ALR-51C→TD-01→CSD-02」のように「CSD-08A/B」が「IAD-01」に改称され、さらに型番が変更されて「SST-02A」「SST-03」…と続く戦術人形シリーズが誕生したという解釈があります。
しかし、困ったことに設定資料vol.1の年表(P.124)では『2054年、IOPの第一世代「戦術人形」が完成』となっているのです。巻末資料『機密文書』(P.254)では2053年時点で「SST-02A/03」がすでに存在しているように書かれていて矛盾が生じます。また肝心の第一世代(SST-02A/03系)と第二世代(SST-05系)をつなぐ「SST-04」に関する記述も抜けていて、またもミッシングリンクです。
可能性として『2054年の「第二世代戦術人形プロジェクト」開始にともない過去に振り返ってシリーズの型番を「SST-○○」に改め、それ以前の人形を「第一世代戦術人形」と再定義した』とすれば、なんとか辻褄が合いそうな気もするのですが……現在入手できる情報からは、これ以上の推測は難しそうです。3冊目の設定資料などでより詳細が明らかになることに期待します。
(グリフィン社は「第二世代戦術人形」完成前から戦術人形を運用しているので、ひょっとしたらグリフィン人形のなかには元は「SST-02A/03/04」型だった古参がいるかも知れませんね)
* * *
2050年代前半の人形はペルシカとリコが率いる「ハーミット」の活躍でハードウェア・ソフトウェアの両方が進化し、「自律人形」は大戦のダメージが残る新ソ連及びヨーロッパ各国にとって欠かせない存在になりました。人間同様の容姿とコミュニケーション能力を獲得した、いわば「1.5世代型」の人形たちはすでに立派な社会の一員です。
また、ゲームシナリオ・システム面でちょくちょく出てくる「人形と企業の雇用形態(人形契約書)」や「人形たちの経済活動(給与所得と私物の購入)」「ロボット人権運動(ランダムマスのニュース)」など、一部で人形が人間の労働者に準じた存在として扱われるようになったのもこの時期だと思われます。
しかし、さらなる進化を求めるペルシカの「第二世代戦術人形」構想の先には、パートナーであるリコとの別れが待ち受けていました。
○SST-05シリーズ(2058~)
「第二世代戦術人形」開発においてペルシカは『ハードウェアの改良とネットワーク化』に主眼をおいていたのですが、リコは『自律AIの運用効率を高めること』が重要だと考えていました。自身の研究予算をカットされたリコは「ハーミット」を去り、2054年にライバル企業である「鉄血工造」へと身を寄せます。(注7)
リコの離反を知ったハーヴェルは、鉄血に対抗するためにペルシカの研究への投資を増やします。それによってペルシカは「ハーミット」の開発チームを拡大し、2057年に「16LAB技術研究所」を設立しました。
それまでペルシカは他の「90wish」メンバーから身を隠すために正体を隠して人形開発を行っていたのですが、もう安全だと確認できたことで自身が元「90wish」であることを公表し、大手を振って「第二世代戦術人形」の開発に没頭できるようになったのです。
ペルシカは2057年にIOP人形の基本プロトコルを「ツェナー・プロトコル」に書き換えると、続く2058年には自身の研究テーマであった「エッチング理論(二つの物体間に特殊なリンクを確立するもの)」を発展させた「スティグマ技術」を完成させます。これにより「戦術人形」は自身の使用する武器と一心同体となり、単体戦闘能力は大幅に向上しました。
また新プロトコルの適用で、人形部隊は人間に指揮されていない状態でも事前にインプットされた作戦計画またはネットワークを介してある程度まで自律した作戦行動が取れるようになったのです。
さらにペルシカは「ツェナー・プロトコル」を発展させた指揮ネットワークである「ダミーネットワーク・システム」を開発します。これにより人間の指揮官は一体の人形に指示するだけで、何十体もの人形を一度に指揮できるようになりました。これは人間が前線で一体ずつ指揮する必要があった大戦期の「CSD-08A/B」や「ACDシリーズ」に比べて大きな進歩です。
※上の図のように大戦期は1人の下士官が4体の軍用人形を直接指揮していたが、第二世代戦術人形では1人の戦術指揮官が1体の人形を後方から指揮するだけで何十体もの人形に指示が行き渡るようになっている。人的損害リスクの最小化を図った設計思想は、クルーガーの要望だったのだろう。
この「ダミーネットワーク」の完成によって、「戦術人形」のハードウェアは本体である「メインフレーム」と「ダミー」の2種類に再設計されます。「メインフレーム」にはメイン演算ユニットとダミーコントロール用モジュールが追加され、「ダミー」は演算ユニットを簡略化しスティグマと作戦行動用ソフトウェアのみを搭載しました。本体よりも安価な「ダミー人形」を使用することで、人形部隊をより低コストで運用できます。
これらの新技術の導入により、IOP人形は他企業の製品より抜きん出た優位性を獲得するに至ります。そしてペルシカはこれらの技術が標準装備された人形を「第二世代型」と定義し、OSと各種モジュールの生産規格を統一するため一連の技術を公開しました。(スティグマとダミーネット技術の特許はIOP社が取得しており、ライセンス料によって大きな利益を得ています)
時に2058年――「自律人形」開発から実に35年もの月日をかけて、ついにゲームの主役である第二世代戦術人形「SST-05シリーズ」が誕生したのです。
①ツェナー・プロトコル
ネットワーク化による集団自律作戦能力の獲得
②スティグマ・システム
銃器とAIのマッチングによる戦闘能力の向上
③ダミーネットワーク
一人の人間が複数の人形部隊を運用できる指揮システム
④規格化された機能モジュール
モジュール規格の統一。オープンソースによる生産性・信頼性の向上
これらの技術を標準装備していることが「第二世代戦術人形」の定義となります。機能的にはこの時点で完成されたと言っていいでしょう。
* * *
クルーガー「この第二世代戦術人形の性能は合格。だが、人形が人間の兵士に並ぶためには一つ欠けているものがある。スペックを最大限に引き出す『メンタルモデル』だ。勝てるかどうかは、メンタル次第――」
……実際にクルーガーがこんなことを言ったのか分かりませんが、グリフィン社の要望を受けIOP社は2060年に最新のAI記録方式である「メンタルモデル」を外部から購入します。これによりグリフィン人形は本体に保存された「メンタルデータ」を定期的に本部のサーバーへ伝送することで、「記憶と戦闘データ」のバックアップを取ることが可能になりました。(注9)
戦闘で人形本体が破壊されても、グリフィンのメインデータベースに保存された「メンタルモデル」を別のボディにインストールすることで再生可能になったのです。これにより貴重なデータや経験を積んだAIを失わずに済みます。
※SOPMODⅡ MOD3の胸元にあるのが「メンタルモデル」が保存されているメンタルコア・ユニット。人形本体が破壊されてもメンタルコアさえ無事なら新しいボディに記憶を引き継ぐことができる。(そぷ子の胸にあるのは無理やり外付けされたROのメンタルコアで、本来は胸元の奥に格納されている)
2061年に「胡蝶事件」が起こり、IOP社が人形市場を独占するとペルシカは民間からのニーズに応えるため、従来の「民生用サービス人形(CSD系列)」と「軍・PMC用武装人形(ACD・SST系列)」のモジュール統一化を図ります。
そして各種戦闘用ソフトウェアをパッケージングした「火力制御コア」を開発し、「第二世代戦術人形」の戦闘機能をこれに集約します。このユニットは換装が容易で、「コア」を取り外すだけで戦術人形の戦闘能力を解除できるようになりました。(注10)
※ゲームの解体コマンドで「コア」を外された戦術人形は、元の民生人形に戻る。(解体というよりも解雇?)
「メンタルモデル」がAI機能の中枢なら、「火力制御コア」は戦闘機能の中枢です。前述の4つの技術にこれら2つのコアモジュールが追加され、2060年代の「第二世代戦術人形=グリフィン人形」を構成する六大要素が完成します。
ゲーム本編の時間軸である2062年時点で、グリフィン社には「SST-05型」「SST-05A型」「SST-05A2型」の戦術人形が所属しています。
初期モデルである「SST-05」型人形はメンタルモデル用のデータベースを多く確保することで膨大な戦闘データを蓄積できるように設計されています。高い演算能力とスティグマによる武器互換性のほか、人間とより自然なコミュニケーションが取れるよう感情シミュレーション用の記憶領域が大きく取られているのが特徴です。生産数も多く、IOP社の主力製品になりました。
※M14は開発過程における無数の実用試験に合格したただ一人の人形であり、「SST-05」早期生産モデルのテスト機だった可能性がある。
そして「SST-05」が蓄積したデータをもとにアップグレードされた改良モデルが「SST-05A」型人形です。「SST-05」のメンタルデータを流用することで「メンタルモデル」の運用効率が高まり、ハードウェアの性能も向上しています。ゲームに登場するグリフィン人形のほとんどはこの「SST-05A」モデルです。(元民生人形である彼女たちは後述する「SSD-62D」から「SST-05A」に換装された人形だと推測されます)
さらに第二世代戦術人形には特殊部隊仕様に改造された「SST-05A2」型人形が存在しています。「SST-05A2」は軍用人形並みの性能を持ったハイエンドモデルで、感情シミュレーション領域を削減する代わりに多数の戦闘関連ソフトウェアがインストールされているのが特徴です。また作戦時の機密保持のために、メンタルデータの伝送は独立した暗号化と保存がなされています。
「SST-05A2」型はかなり高価な人形で、グリフィン社にもほとんどいないようです。ゲームに登場する戦術人形ではおそらく「反逆小隊」のAN-94やAK-12がこれに該当するのではないかと思われます。(「反逆小隊」は国家保安局に所属している人形なので、厳密にはグリフィン人形ではないのかも知れませんが)
このようにゲームで活躍する「グリフィン人形」たちはIOP社と16LABが培ったテクノロジーの粋を集めて開発した、最新の戦術人形シリーズなのです。
○SSDシリーズ(2062~)
2062年以降、IOP社は軍事用・民生用人形のモジュールをほぼ統一します。これにより『軍用人形ブランド』は「ACDシリーズ」に限定され、「SST-05シリーズ」と「CSDシリーズ」が『民生用人形ブランド』としてカテゴリーが統一されました。進化の過程で枝分かれした2つの系統が、20年の時を経て一本化されたのです。
戦術人形と規格が統一された「CSD後期型」人形は、新たに第二世代サービス人形「SSDシリーズ」として生まれ変わります。(注11)
「SSDシリーズ」型サービス人形は感情シミュレーション用の記憶領域が大きく取られ、サードパーティー製の初期サポートシステムを追加することでよりユーザーフレンドリーな人形になりました。さらに外見を自由に決定できるカスタマイズ機能が追加され、あらゆる需要に対応できます。(オンラインゲームのアバターのように、数百種類におよぶ外観モジュールの組み合わせから容姿を選択できる仕様です)
「SSDシリーズ」の人形は主に一般サービス用の「SSD-62D」と、セレモニー用の「SSD-62F」が存在します。さらにこれらの人形に「火力制御コア」を搭載すれば、限定的な武力を行使する警備・警察用人形としても使えます。
「SSDシリーズ」は「SST-05シリーズ」と互換性があり、グリフィン社に所属する戦術人形の多くはこの「SSD-62D/F」型サービス人形に「火力制御コア」をはじめとした各戦闘モジュールを追加することで「SST-05A」に換装された人形たちだと推測されます。
グリフィン人形はメンタルモデルとの相性によりどの銃種に対応するスティグマをインストールするかが決定され、各メンタルモデルごとに最適な銃がマッチングされています(逆に言えば、人形たちは自分で好きな銃を選べないってことですね)。ですが適合率が低い場合は運用効率が下がり、AIとのマッチングが悪いとスティグマがインストールされた銃器でも命中精度が低かったりするなど個体差が大きいのです。
※どの銃種とマッチングされるかはメンタルモデルとの相性次第。人形によっては適合するスティグマが極端に少ないケースも存在する。
加えて元がカスタマイズ性の高い「SSD-62D/F」型なので、工場出荷時から人形ごとにハードウェア・ソフトウェアの性能に違いがあるのも悩みどころです。「メンタルモデル」の適性によっては戦闘自体が苦手で、もっぱら物資運搬などの後方支援ばかり担当している人形もいます。
「グリフィン人形」が個体ごとにスペック差が大きい理由には、こんな事情があった訳ですね。
なお、「SSDシリーズ」には軍・警察の特殊部隊用に開発された非常時専用モデルである「SSD-62G」も存在するのですが、このタイプの人形はD/F型に比べコストが高くあまり市場に出回っていないようなので、グリフィン社に「SSD-62G」型がいるのか定かではありません。ひょっとしたら、元警察官だった人形はこのG型だったりするのかも知れませんね。(注12)
* * *
2050年代後半~2060年代の人形たちは、より性能の向上した「第二世代」へと進化を遂げました。「メンタルモデル」に代表される新技術により第一世代の弱点を克服し、第二世代人形は高い自律性と汎用性を備えた存在です。
しかし、モジュールの統一化によって軍事用・民生用という垣根がなくなり、また社会に広く浸透したことで人間とロボットの共存に関する一つのジレンマ――「人形のAIにどこまで権限を与えるべきか?」という問題が浮上します。
この新たな命題に挑むため、ペルシカは「第二世代戦術人形」をベースにある「特別な人形」たちを開発したのです。
・1-3.AR小隊の誕生~第三世代へ~
○AR(ANTI RAIN)小隊(2061~)
ペルシカが独自に開発した「特別な人形」こそ、ゲームの主人公役を務めるエリート小隊「AR小隊」の人形たちです。同小隊はM4A1と同時期に開発された3体の人形(M16A1、M4 SOPMODⅡ、AR-15)によって、2061年に誕生しました。
(AR小隊の正式な型式番号は不明なため、この記事の系統図では便宜上「SST-05-X」としています)
「AR小隊」はIOP製ではなく「16LAB」製のエリート人形です。そのため量産型である「SST-05シリーズ」よりもハードウェア・ソフトウェアともにより戦闘に適したカスタマイズがなされています。高品質な骨格フレーム・人工筋肉や演算ユニットを採用することで、一般的な「グリフィン人形」よりも戦闘能力が高いのです。
そして、ハードウェア以上にソフトウェアに大きな改良が加えられています。特に小隊長格であるM4A1と追加メンバーのRO635には、独自の指揮システムとして「指揮モジュール」が実装されているのが特徴です。これはグリフィン社の戦術指揮官(プレイヤー)が使用する指揮システムと同種のものです。
なんらかの事情で指揮が寸断された状況でも、M4A1とRO635は「指揮モジュール」により人間の指揮官に代行して全グリフィン人形部隊の指揮することが可能になります。このため2体の「メンタルモデル」には人形部隊の指揮権である「指揮官権限」が特別に与えられています。これによって一般的な人形の権限を超えた意思決定ができるのです。(注12)
※第七戦役では指揮官の代わりにROがグリフィン人形部隊を指揮することで危機を脱している。
また、「AR小隊」人形は隊長格以外でもスタンダードな「SST-05シリーズ」より上級の権限が与えられています。例えば一般的な「グリフィン人形」は人間に危害を加える権限が与えらていないのですが(このため正規軍の人間部隊とは交戦できません)、「AR小隊」は状況次第で人間にも攻撃できる権限を持たされています。
他にも一般的な人形は人間の命令がないと自発的な行動を起こせない「指示待ち」状態に陥ってしまうのですが、「AR小隊」はある程度なら自己判断で作戦行動を継続できるようにAIが改良されています。このように「AR小隊」の人形には、より高度な自律性が与えられているのです。
「AR小隊」が特別な理由は、彼女たちが第二世代に続く「第三世代人形」のプロトタイプだからです。
なかでもRO635の「メンタルモデル」は第三世代人形のアーキタイプ(原型)となる可能性を秘めています。他の「AR小隊」メンバーのメンタルモデルはバックアップ不能であるのに対し、ROはメンタルデータをバックアップできるのはこの辺りが関係していそうです。
さらに「AR小隊」メンバーには、他の何よりも優先して『隊長であるM4A1を守る』という「中枢命令」が与えられているのですが、RO635にはこれが設定されていません。これは『与えられた「命令」ではなく自らの「感情」に基づいて行動して欲しい』とペルシカが意図したからです。ROが最初は「AR小隊」に配属されず「パレット小隊」での任務に就いていたことにも、メンタルモデルに経験を積ませ「感情」を育ませるという目的がありました。
つまり、ペルシカは人形のAIに人間同様の主体性――「自我」と呼べるものを目覚めさせようとしているのです。そして、その先にこそ彼女の考える「第三世代人形」が存在しているのではないでしょうか?
これはかつてリコが目指していた『より人間らしい自己意識を備えた完全なるAI』という研究テーマとも符号します。「リコの遺した研究データ」が物語の発端となっていることからも分かるように、【胡蝶事件】でリコを失ったペルシカは、彼の研究を彼女なりのやり方で継承しようとしているのです。
もし、ゲームのその後の世界で「第三世代人形」が誕生するとしたら――それは人間を上回る能力と高度な自我を備えた、人類とは異なる「新たな知的生命体」と呼べる存在になっているのかも知れません。
* * *
リコは「鉄血工造」へ身を寄せる前に、ペルシカから「AR小隊」に使用されるメンタルモデルの原型となる「M4プロトタイプ」のブレインスキャンデータを受け取っています。ペルシカが語るには、それは「魂とでも呼べる何か」であり、「AR小隊」のメンタルモデルはそれをコピーしたものです。
この時期にペルシカが「第二世代戦術人形」の構想を打ち出しているのは偶然でしょうか?
ゲーム本編の10年近く前、「第二世代戦術人形」の開発以前からすでに存在していた「M4プロトタイプ」とは一体なんなのか。また、そのオリジナルに近い「メンタルモデル」を有している「戦術人形M4A1」にはどんな秘密が隠されているのか――。
これらの謎は、今後のシナリオで明らかになってゆくことでしょう。
* * *
リコを迎え入れたことで「鉄血工造」の人形は大幅な進化を遂げ、そして彼の開発した人工知能「エリザ」によって企業としての終焉を迎えます。果たしてゲームの敵である「鉄血人形」たちはどのような形で開発され、現在の姿になっていったのか――。
と、いうことで次回『鉄血工造の人形開発史』をお楽しみに♪
ペルシカ「お疲れ様。コーヒーを飲んでゆっくりしてね」
追記:長くなりすぎて書くのに二週間もかかった上に、またも記事を二つに分ける羽目に――。もうちょっと簡潔にまとめられるようになりたいですorz(異性体の攻略で忙しくなるので、次回はまた間隔が開くかも知れません。気長にお待ちください)
注1:設定資料vol.1の「2033年に研究開始、2035年にALR-50完成」とvol.2の「2034年にALR-51Cの量産を承認」で矛盾していたが、11月20日のアップデートでゲーム内に追加されたデータベースでは「2033年から製造と研究が始まった」と書かれており、この記事ではvol.1の情報を優先している。
注2:vol.1ではIOP社設立は「2046年」となっているが、この記事ではvol.2の「2035年」を採用。(vol.1の記述ではALRシリーズの開発は「レイバート社」と「スチェベール社」によるものされる。この2社が合併しIOP社が誕生した)
注3:設定資料に記述はないがACDは「Advanced Combat Doll(先進軍用人形)」または「Assault Combat Doll(強襲軍用人形)」の頭文字か?
注4:こちらは「Infantry Armed Doll(歩兵用武装人形)」または「Infantry Assault Doll(歩兵用強襲人形)」の頭文字か?
注5:大戦時にハーヴェルの依頼でペルシカをIOP社の用意したセーフハウスまで護送した人物がクルーガーだった。
注6:『戦術人形』は広義では戦時中のACDシリーズから鉄血人形まで含めた武装人形全般を指す言葉としても使われるが、この記事では混乱を避けるため狭義の「IOP社が開発した武装人形のシリーズ名」で統一している。
注7:鉄血の地下研究所へ移動するリコを手助けしたのがまたもクルーガーで、IOPの仕返しを怖れるリコのためにグリフィン社は専属ボディガードまで派遣していた。その報酬としてグリフィン社はリコの研究資料を求め、これがゲームプロローグの『第3セーフハウス事件』へとつながってゆく。
注8:やはり設定資料に記述はないがSSTは「Smart Soldier Tactical-doll(戦術的高性能兵士人形、略して戦術人形)」の頭文字か?
注9:「メンタルコア」は人形の擬似人格プログラムが保存された専用のメモリーチップ(記憶装置)で、いわゆるCPU(中央演算装置)とは別物。また「メンタルモデル」の適性によって演算能力に差が生じることから、おそらくCPUのアクセス処理を管理するMMU(メモリ管理ユニット)としての機能もかねている。
注10:ゲーム中では「火力制御コア」と表記されるが、おそらく「fire control core」の訳なので軍事用語のFCSにならって「射撃管制コア」や「火器管制コア」もしくは「FCSコア」って書いた方が分かりやすい気がする……。コア技術はIOP社の重要機密であり、ペルシカ以外に詳細を知る者はいない。
注11:SSDは「Smart Service Doll(高性能サービス人形)」の頭文字か?
注12:M870Pは(自称)元ハイウェイパトロール、SPAS-12は元GIS(イタリア軍警察特殊部隊)に所属する人形だったらしい。
注13:ゲーム中ではAR小隊の隊長2体のほかに、404小隊の隊長UMP45も「指揮官権限」を行使している。