ドルフロ考察②「アフター・コーラップスの世界」
ドルフロ考察その2です。今回は設定資料から読み解ける北蘭島事件後の汚染範囲を中心に、ドルフロの世界がどのような状況におかれているのかを考えてみたいと思います。
1.北蘭島事件における汚染エリア
上の図は公式設定資料集vol.2の巻末テキストを参考に「北蘭島事件」の汚染範囲をまとめたものです。(以前Twitterに載せた地図の改定版)
「北蘭島事件」でのコーラップス汚染は数段階に別れていて、以下の順に汚染範囲が拡大しています。
STEP①:北蘭島遺跡の爆発により上海ほか海岸沿いの4都市が壊滅(北蘭島事件 2030.1.17)
STEP②:爆発により発生したコーラップス雲により中国東部、朝鮮半島・日本列島の一部が汚染
STEP③:遺跡から射出されたコーラップス容器がユーラシア大陸、太平洋に落下(シベリア汚染 2030.2~3)
STEP④:海流に流された容器が北アメリカ大陸に漂着、西海岸を汚染(アラスカ汚染・パナマ汚染 2030.7)
STEP⑤:米国企業が回収した容器が都市部で爆発、西部一帯を汚染(ソルトレイク壊滅 2030.9.4)
「北蘭島事件」ではこれらの経緯により東アジアから環太平洋、北アメリカ大陸が広範囲に汚染されています。(ヨーロッパの汚染は別件の「オーロラ事件」と呼ばれる災害によるものなので今回は割愛します)
もともと設定資料集vol.1では「遺跡の爆発で発生したコーラップス雲がジェット気流に運ばれ世界各地を汚染した」と書かれていたのですが、設定資料vol.2で上記のように変更されました。
東アジア(中国や日本、朝鮮半島)と北アメリカの汚染はかなり詳しく書かれているのですが、太平洋やシベリアについてはかなりざっくりした内容で正確な汚染範囲が分かりません。また中央アジア・東南アジアの汚染は設定資料で触れられていないため詳細不明です。
アフリカ、オーストラリア、南米などについても言及されてないのですが、いくつかの条件から南半球はほぼ非汚染である可能性が高いと思います。
これは上の地図に各海流を書き加えたものです。太平洋は「亜熱帯循環」により海流がぐるぐると赤道付近を周回しているため、いくつかのコーラップス容器が「北太平洋海流」から「カリフォルニア海流」に乗って南米方向に流されたとしても「南赤道海流」によりニューギニアやミクロネシア方面へと押し返されてしまうのです。またオーストラリア大陸の手前には防波堤となるフィジー諸島・ニュージーランドほか南洋の島々が点在するため、これらを越えてシドニーやメルボルンにコーラップス容器が漂着するのは難しいと思われます。南半球の海流を考慮すれば、南アメリカ大陸やオーストラリア大陸が汚染されている可能性は低いのです。
また北半球の海流に注目すると、フィリピン沖から日本列島に向かって「黒潮」が流れているため東シナ海や南シナ海に漂流物が侵入することは少ないでしょうし、「亜寒帯循環」により「北太平洋海流」が周回しているアラスカとは異なり、オホーツク海やベーリング海はカムチャッカ半島から千島列島沖を南下する「親潮」により漂流物が太平洋へと押し返されます。よって環太平洋エリアの海洋汚染が東南アジアの東海岸やマレー半島・インドネシアにまで及ぶ可能性は低いでしょうし、北海道近海や樺太・シベリア極東も汚染されていないのではないかと推測できます。
これらはあくまで設定資料をもとにした予想ではありますが、おおまかな範囲は合っていると思います。
2.東アジアの汚染状況
次は各地域ごとにより詳細な汚染状況を見ていきます。まずは「北蘭島事件」のグラウンド・ゼロである中国を中心にした東アジア地域。
中国は上海の「北蘭島遺跡」が爆発したことで、上海をはじめとした4都市が壊滅。爆発により発生した「コーラップス雲」による汚染は北京まで到達し、政府機能を西安へと移動しています。また設定資料vol.2によれば香港は汚染されなかったようなので、汚染範囲は上海(北蘭島)を中心にした約1000kmでしょうか。
韓国・北朝鮮は運よく(?)朝鮮半島上空に高気圧が存在したため、爆心地に近かった割りに西海岸と山岳部の汚染に留まりました。しかし、アメリカの内政干渉により「第二次朝鮮戦争」が勃発し、当のアメリカは韓国を見捨てて在韓米軍を日本へと転進させたため、混乱状態に陥った朝鮮半島がその後どうなったかは不明です。
日本は九州から関西地方は汚染されたものの、関東は海岸線だけの汚染に留まり被災者は安全な東北地方・北海道へ避難するはずでした。ところがまたもアメリカの内政干渉により札幌に米軍主導の新政権が樹立し、被災者の受け入れを拒否。本州と北海道をつなぐ「青函トンネル」を爆破し本州を丸ごと切り捨てるという大暴挙を犯してます。これによりドルフロ世界での「日本」の国土は北海道のみとなり、本州・四国・九州は全て汚染エリアになってしまいました。本州では限られた物資を巡り被災者同士が関東派・関西派に別れて争う内戦状態になったらしいのですが、第三次大戦を経たゲーム時間(2060年代)の日本がどうなっているのかはやはり不明です。
また北蘭島遺跡には大量の「コーラップス容器」が保管されていました。大型イベント「特異点」でも登場したこれです。
ゲーム中でもコーラップス汚染をばらまくダーティー・ボムとして利用されたヤバい代物です。これが爆発の影響により大気圏へと射出され、ミサイルのように弾道軌道を描いてユーラシア大陸と太平洋に落下しました。(上図のa、b)
"a"の中国・ロシア国境付近に落下した容器により、シベリア南部が汚染され「シベリア鉄道」および「第二シベリア鉄道(バイカル・アムール鉄道)」が寸断されています。また"b"の太平洋エリアに落下した容器により、環太平洋エリアが汚染されています。"c"は設定資料で言及されていないのですが、仮に南シナ海付近にも落下していた場合は東南アジア一帯が広範囲に汚染されている可能性があります。(黄の斜線の範囲)
もっとも東アジアの上層気流は太平洋からフィリピン沖を曲がり、黒潮ラインに乗って日本へ向かって流れているので(太平洋上で発生した台風がカーブを描いて本州に向かってくるのはこのため)、前段で書いた海流の影響と合わせて東南アジアが汚染されている可能性は低いと考えています。
参考:「異常気象の力学・2.ジェット気流の蛇行と地上の停滞性高低気圧」(東京大学・地球惑星科学専攻・ウェブマガジン第1号)
なお、図に記した"A"と"B"は冷戦時代にコーラップス汚染を拡散する危険な遺跡兵器が使用された場所です。"A"の北ベトナムでは米軍による「コーラップス爆弾」(特異点で使用されたダーティーボムの強化版)が投下され、"B"のアフガニスタン・バイカル峠では旧ソ連が遺跡兵器「バラクーダ」を使用しています。これが原因で東南アジア、中東・中央アジアでは北蘭島事件以前からELID感染症が拡散していたとされていますが、設定資料集vol.2では具体的な国名や地名の言及がないため詳細は不明です。
3.地政学でみるドルフロ世界の中国
東アジアの汚染状況が理解できたところで、今度は「地政学」の視点からドルフロ世界の中国がどのような状況に置かれているかを考察してみたいと思います。ある意味ここからが今回のメインです。
「地政学」とは地理的条件が国際関係にどう影響するかを理解する学問です。簡単にいうと『地図を見ながら地形が国家に与える様々な影響(政治・軍事・経済etc)を考える』ものです。
上の図は東アジアの汚染地図にいくつかの地理条件を追加したものです。天然の国境線となる山岳や河川、海峡や鉄道網によって見えてくる陸海の通商ルートは重要なファクターです。
まず海に目を向けてみると、上海を中心にした東海岸が汚染されたことで東シナ海から太平洋へ進出するルートが完全に失われています。残された海路は香港をはじめとした南部の港から南シナ海→マレー半島(マラッカ海峡)を通ってインド洋へ抜けるルートです。これは2020年現在、現実の中国が推進している「海洋のシルクロード(21世紀海洋シルクロード)」と呼ばれるもので、中国・東南アジアからアフリカ・中東を経てヨーロッパへと続く海洋貿易ルートを構築しようとする計画になります。
東南アジアの汚染状況や中東・アフリカの国際情勢がやや気掛かりですが、「海洋のシルクロード」は中国にとって強力なカードです。同時にこれを失えば中国にはもう海洋貿易手段がなくなります。となれば、敵対国からしてみれば格好の標的となるわけです。いわゆる「チョークポイント(海上封鎖を狙いやすい弱点)」ですね。
ドルフロの世界では2045年から2052年にかけて「第三次世界大戦」が起こっていますが、その戦場のひとつが「アジア戦線」であり設定資料集vol.2にはこんな文章が載っています。
「(前略)中国支局の同志たちが提供した情報によると、米軍は広西省からの撤退を決定し、数ヶ月以内に全軍撤退するとか」(P.437『第一遺跡残骸調査チーム90wish』より)
「広西省(現・広西チワン族自治区)」は中国南部にある南シナ海(トンキン湾)に面した地区です(地図の青い斜線の範囲)。ここから「米軍は中国南部の海と港を押さえることで海上封鎖を狙ったのではないか?」と推測できるのです。それによって発生したのが「アジア戦線」=「中国南部戦線」だったのではないでしょうか。(広西省が少数部族の自治区であることから、アメリカが独立を支援してそれに反発する中国政府と武力衝突に発展……などのパターンが考えられますね)
同盟関係にあったロシア(新ソ連)は中国に援軍を送り米軍と激突するわけですが、ここで問題になるのがシベリア南部の汚染です。というのも、ロシア・中国間の陸路はシベリア鉄道からモンゴルの東を抜けて北京につながっています(①)。このルートが使えないと、中国を支援しようにも軍隊も補給物資も満足に送れません。ここで意味を持ってくるのが「海洋のシルクロード」と共に中国が計画している「一帯一路(シルクロード経済ベルト)」です。
「一帯一路」とはかつてのシルクロード貿易のように、中国から中央アジア・中東を経てロシア・ヨーロッパを結ぶ陸路による「ユーラシア大陸の統一経済圏」を作ろうという構想です。これは西安から天山山脈・アルタイ山脈の間を抜けてカザフスタンへと抜けるルートになります(②)。こちらのルートは北蘭島事件の影響がなく、シベリアの汚染も二つの山脈に遮られるので問題ありません。またドルフロ時代のロシアは「新ソビエト連邦」となっており、カザフスタン経由で直接支援を送れるメリットもあります。
このようにドルフロ世界の「中国」は東海岸の主要都市を失いかなりの痛手を受けていますが、陸海の重要な通商ルートは守られており実はそれなりの国力を維持している可能性が高いのです。西部(ウイグル地区)には有望な油田が多数存在し、また北蘭島事件で日本や朝鮮半島・フィリピンなどの周辺国家が崩壊したため日本海や東シナ海(尖閣諸島)・南シナ海(南沙諸島)周辺に眠るメタン・レアメタルなどの海底資源を独占することも可能でしょう。農作物の生産量が多い東部を失ったので食料自給率は大きく低下しているでしょうが、豊富な資源を輸出して代わりに新ソ連から食料品を輸入したりもできます。
その「新ソ連」は「シベリアライフライン計画」という形でシベリア鉄道沿線の産業の完全オートメーション化を実現しているので(これによりロシア・中国で「自律人形」が普及した)、これを利用すれば「一帯一路」ルートを使った潤沢な支援が期待できるでしょうし、コーラップス被爆の怖れがない自律人形なら①の北部ルートからでも輸送や増援を行えます。やろうと思えば汚染エリアをつっきって東側からアメリカ軍の横腹を突く……なんて戦術もできそうです。設定資料vol.2によれば「第三次世界大戦」には自律人形をはじめとした他脚ロボットが大規模に投入され、特に山岳戦において力を発揮しています。あるいは自律人形を軍事利用する最大の利点は、この悪路やコーラップス汚染すら苦にしない機動力にあったのかも知れません。
「一帯一路による安定した兵站ルート」と「シベリアライフラインを利用した自律人形の大量投入」――これらの条件を加味すると「アジア戦線」における新ソ連・中国同盟軍サイドはかなり有利そうです。
一方、それらと敵対する「アメリカ軍」サイドはどうでしょうか。まず日本列島・太平洋の汚染により海路の中継基地となる「沖縄」や「フィリピン諸島」「南洋諸島」が全て失われています。アジアから距離の離れた「ハワイ」が無事だったとしても、アメリカ西海岸からパナマ運河を含む広範囲が汚染されているため太平洋からアジアへ船を送ることができません。
そうなると考えられるのは東海岸から北アメリカ大陸を反時計回りにぐるっと周り、アラスカからベーリング海峡を抜けて(北極海航路)→北海道→南シナ海へ到るルートでしょうか。
海路が長すぎて補給線を維持するのが大変そうです。また国土の大半を失った日本に「朝鮮戦争(1950-1953)」時のような生産能力は期待できないため、補給物資はカナダ・アメリカ国内で生産した製品を長い航海を経て前線に届ける必要があります。その場合でも汚染された海域を通過するため、艦艇や人員をELID感染症から守る対策が必要になるでしょう(軍艦・補給船に中和設備を増設したり水兵用の防護服を用意するなど)。これは北蘭島事件をキッカケに国力が大きく衰退しているアメリカにとってものすごく不利です。(この辺の詳細は次回で)
ぶっちゃけ、これじゃアメリカが勝てるわけないですね(苦笑)
上の引用にある通り、アメリカはアジア戦線で新ソ連に敗北し2050年には中国から全面撤退することになります。このアジアでの勝利により新ソ連軍は勢いに乗り、今度は「一帯一路」ルートを通じて中国から支援を受けながら欧州戦線(イタリア・フランス戦)でも快進撃を続けることになります。しかも、新ソ連はドイツ戦線(2047.5-8月)でもすでに米軍を撃破しているのです。
ドルフロ世界のアメリカは、なんでこんなにボロクソなんでしょうか……。
その謎は「北アメリカ大陸の汚染状況」により判明します。北蘭島事件後のアメリカは、爆心地である中国よりも悲惨な状況になっているのです――。
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と、本来はこのままドルフロ世界のアメリカを考察する予定だったのですが、思ったよりも記事が長くなったので次回に分割します。(つづく)
追記:こうやって地図にまとめるとまた違った視点でゲームの世界観を楽しめて面白いですね。特に中国の汚染範囲が絶妙に「一帯一路」を避けているのを発見した時は興奮しました。(おそらく中国の開発チームは狙ってこの設定にしたんだろうなぁ)
※この記事で使用している地図素材は以下のサイトからお借りしています。