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BtoBにおけるSNSの可能性と活用のポイント

「SNSはBtoBに向かない」という話をしばしば耳にします。

LinkedInが普及していない日本では、浸透しているビジネスSNSは事実上存在しないといっていいでしょう。40代以降中心のFacebookはアクティブユーザー減少の傾向にあり、Twitterは若年層のプライベート利用が活発な印象もあります。そして私自身、日本のBtoB企業におけるSNS活用の成功事例と言われても、パッとは思いつきません。

一方で、仕事中に以下のような会話をした経験はないでしょうか?

「Twitter見てたらこんなの流れてきたんだけど…」
「そういえばFacebookで見かけたあの記事が…」
「○〇さんって知ってる?あの人がこの間Twitterで…」
「これ、SNSで話題になってるらしいんだけど…」

SNS上の情報がオフィスでの会話を誘発しているケースです。このような状況を想像すると、「BtoB=SNS効かない」というのはある種の固定観念で、実状はもう少し違うところにあるのでは、と思ったりもします。

実は、web制作という BtoBビジネスを営み、BtoBに強いweb制作会社として数々のBtoB企業を見てきた私の経験でも、今現在まったく逆の仮説を持っています。つまり「BtoBでSNSは意外と使えるのでは」という仮説です。これは採用やIRではなく、顧客獲得のマーケティングとして、いう意味です。

多分に経験則的なところも多いのですが、BtoBにおいてSNSが使える理由や有効な活用法など、今現在考えていることを少しまとめてみました。

1. BtoBでもSNSが使えると考える理由

以下はTwitterで若干バズった私のツイートです。

私が提案や登壇などでよく使っている、マーケティングを考える上で意識しておきたい『BtoCとBtoBの違い』を整理した図を紹介したツイートですが、これをベースに少しお話しします。

この表の中でも、④~⑧に関しては、BtoBにおける「論理性」の大切さを示しています。

意思決定が多層構造だからこそ、担当者が上司を説得しやすい、誰でも引用できる論理的で明快な説明が求められます(④)。経済合理性が重要な判断基準になるからこそ、投資対効果に対する論理的かつ合理的な説明が求められます(⑤)。問題解決・課題解決が目的だからこそ、それに繋がる論理的なストーリーが求められます(⑥)。検討期間が長期に渡るからこそ、いつ検討してもブレない論理的に言語化された解説が必要になります(⑧)。

このように考えると、多くのBtoBではロジカルなストーリー、コンテンツ、コピーに注意を払わなければならない、というのは間違いありません。

しかし一方、表の⑫~⑭を見ると、BtoBにおける「情緒性」の大切さが垣間見えてきます。

高額で途中解約が難しいにも関わらず、評価基準は複雑で判断が難しい(⑫)。クチコミなどの客観的な情報の入手は困難である(⑬)。多くはすぐに試すことができずに、導入して良かった悪かったかがわかるのは半年後や一年後になる(⑭)。

つまり、失敗した時の経済的損失が大きいにも関わらず、ロジックだけで判断することが難しいということが、典型的なBtoB商材なのです。機能や価格だけで圧倒的優位に立てるタイプの商材でもない限り、「うーん、どれにしようか」と顧客が迷ってしまう状況に必ず直面します。

検討プロセスの最終段階において、意思決定者は清水の舞台から飛び降りるような気持ちになります。「よしここにしよう」という主観的かつ曖昧な判断で、数百万円から数千万円、時には数億円を超える金額を思い切ってBETするのです。

そしてこの情緒的な意思決定の場面で有利になるのが、その商材が持っているブランド力です。

近年、BtoB企業のテレビCMを見かける機会が増えているように思います。BtoBにおけるテレビCMの効果は採用やIRも含めて多々ありますが、「意思決定のショートカット」も期待していることの一つでしょう。検討プロセスの中で「CMで見かけるあの会社にしようか」「CMを出してるような会社だから安心だろう」という判断を促すことが期待できるわけです。

こういったBtoB企業のブランドは、テレビCMだけで作られるものではありません。CI/VI刷新やPR活動など、BtoB企業がブランディングの一貫でできることは多岐に渡りますが、社長や社員といった「人のブランド」もまた、BtoBのブランド形成においては重要な役割を果たすと私は考えています。

例えば私たちがコンビニでサントリーのウーロン茶を買う時、サントリーの社長や社員を思い出して購入することはほぼありえないでしょう。

しかしBtoBは違います。「あの社長がやっている」「あの名物社員が在籍している」「あのマーケターが最近転職した」ということがキッカケで、その商材が必要となった時に真っ先に思い出してもらったり、ロングリスト(購買担当者が検討の初期段階で作る候補となる企業や製品のリスト)に入ったり、好意的なムードで商談が進んだり、最終的な意思決定に影響を与えたり、ということが起こりえます。

なぜBtoBにおいて、このような「人のブランド」が効くのでしょうか。それはおそらくBtoBならではの「購入前のタッチポイントの少なさ」が「人を頼りに思い出す」「人のイメージと企業のイメージを同一視する」という現象を生み出すのだと考えられます。

ブランドイメージとは、人の頭の中にあるものですが、これはタッチポイントでのブランド体験による記憶構造の更新によって作られます。

BtoC商材であれば、街中の広告やTV CMのみならず、店舗などイメージを強く喚起するタッチポイントが身近に多く存在します。さらに商材そのものを体験するハードルも低く、より直接的な体験からブランドイメージを作ることができます。このような状況では、商材の質とは直接関係しない「その会社で働く人」が決定的なイメージを作る可能性は低いです。

しかしBtoBはタッチポイントが少ないことがほとんどです。条件を購買前に限定すると、さらに少なくなります。街中で見かけたり、日常生活の中で会話に出ることもなく、すぐ体験できる店舗があることも稀です。年に1~2回の展示会で体験できるのは、その商材を購入した後の体験とはかけ離れた、ごく一部でしかありません。

このようにブランドイメージを形成するタッチポイントが少ない故に、SNS上で見かける人のイメージですら、その会社のイメージに大きな影響を与えるのだと考えられます。

そもそも、人が関わるサービス型の商材ならともかく、プロダクト型の商材では、その会社に所属している人の質が、プロダクトのスペック的な品質を保証しないことは、誰もが分かっています。

しかしここで大事なのはスペック的な品質ではなく「知覚品質」です。ある種の思い込みも含めた、感覚的に感じ取る品質に対して、それがサービスであろうがプロダクトであろうが、「人のブランド」はある一定の影響を及ぼすと考えられます。

ここまで書けばお分かりと思いますが、「BtoBでSNSが効く」というのは、単にSNSを使って新製品やイベントが告知できるとか、コンテンツの配信先になるといったレベルの話ではなく、ブランディングの話なのです。つまり、SNSを活用して「人のブランド」を確立し、その人が所属する企業のブランドに好影響を与え、それによってマーケティングやセールスを有利に進めることができる、ということです。

「Twitterでファンだったので御社に仕事を頼みたい」「Facebookで見かけたのがキッカケで御社を知った」といったことが、多くのBtoB商材において起こりえる、いや実際に現在進行形で起こっているのではないか、というのがこの記事に一貫する私の主張です。

2. SNSが効く企業・効かない企業

とはいえ、SNSを用いたブランディングがすべてのBtoB企業で有効とは、さすがに私も思ってはいません。SNSが効くかどうかは、そのBtoB企業がターゲットとしている企業の特性に依存すると考えられます。

話が少しややこしくなるので図にしましたが、ここからはこの図の右側にあるターゲット企業に関する話です。例えば、ターゲット企業の中で、以下のような意思決定の構造があるとしましょう。

このような構造を想定した時、どういう企業だと「SNSが効く」といえるでしょうか?

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